THE FACT 6000回死んだ男が見た世界17話
THE FACTも残すところ4話になりました!
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THE FACT 6000回死んだ男が見た世界17話
Episode17 弱く儚く、それでも強く
ルイとオリビアとハチはゲイリーの裏切りによって、ポセイドンを前に希望の記憶版を破壊されてしまう。さらにゲイリーは黄金のボディを持つ、山のように大きな最強のアンドロイド、キャプテンを呼び寄せた。希望は消え失せ、残された道は再接続という絶体絶命の状況。ルイ、オリビア、ハチは一体どうなるのだろうか?
絶体絶命。三人の頭にはそれしか浮かばない。今まで積み上げて来た物が、一瞬にして崩れ去ったのだ。
「くそ……くそ!……くそ!!!」
ルイは何度も地面を殴った。オリビアもハチも悔しかった。キャプテンは尚も突っ立ったまま、動く気配はない。情けなのだろうか、だとすればこれほど屈辱的な事はない。
「ルイ……確かに記憶版は失った。それでも戦わなくちゃ。希望はまだあるはずよ……」
「希望?……そんなものもう無いさ。見たらわかる。絶体絶命だ。こんな豆鉄砲で奴を倒せるか?倒したとして、僕達はもう何も思い出せないんだ。記憶は完全に消え去ったんだ。」
「えぇ、そうね。だから、何?」
ルイはオリビアを見た。顔には傷があった。しかし、その瞳はキャプテンを捉えていた。
「分かってるわよ。そんな事。だからなんだと言うの?私は諦めない。これは私達だけの問題じゃ済まされない。恐らく、ここにいるクルーも巻き込まれている。この永遠の生死のサイクルに囚われている。その理由が何であれ許されないことよ。私達は、希望なの。このメモ帳をもう一度見てみなさいよ。過去の私たちは今の私達に、託したの。この永遠のサイクルを止めることを」
オリビアは立ち上がる。
「私は決して諦めない。悩むのは結果が出てからでいいじゃない。そうでしょルイ。」
それはルイがオリビアに話した言葉だった。オリビアは銃を腰から引き抜く。BAの腕が巻きつけてある、オリビアの愛銃だ。
「ルイさん。あなたの気持ちは痛いほど分かります。ですが、私は最初からあなた達についていくつもりです。どうせ散るなら、あなた達の役に立ちたい。」
ハチも立ち上がった。
(パチパチパチパチ)
手を叩く音。キャプテンだ。
「もういいか?最後のお遊戯会は。」
機械音と人間の声が混ざったような声をしている。
「お前らと言うのは本当に諦めが悪いな。俺はな、普通のアンドロイドとは違うんだ。半分人間なんだよ。」
「何ですって……」
「だから休む必要もない。ずっと生きられる。だからな、高貴なんだ。その辺のロボ達とは違う。だから取引きしてやる。大人しく再接続されれば、痛い目には合わない。分かるだろ?どう見ても君達の負けだ。だから取り引きしよう。」
キャプテンは手を差し出した。
「さぁ、おいで。もう疲れただろう。楽にしてやろう。忘れたらいいんだ。」
すると、ルイが立ち上がる。そしてオリビアとハチに握手した。
「今までありがとう」
「ルイ?……」
「ルイ様……」
ルイはキャプテンの方に歩き出す。
「おぉ、そうかそうか。ルイ、やはり君は賢い。」
キャプテンの寸前でルイは話した。オリビア達に聞こえないくらいの声で。
「君の交渉に乗ろう。ただ最後に彼女達に別れを言わせてくれ。」
「良かろう。俺は高貴だ。」
「助かる。」
ルイは叫んだ。
「オリビア、ハチ。ごめん。僕は間抜けで、腰抜けの弱虫だ……君達の足手まといにしかならない……本当に今までありがとう。そして……」
「これからも宜しくな!」
ルイは振り返り、腰から銃を引き抜いた。
「なんだ!」
キャプテンはさけんだ。その銃はオリビアの銃だった。ルイは話す。
「何が高貴だ。お前はゴミクズ以下だ。」
ルイはキャプテンの頭と、胴体の間にある首の隙間に向かって銃口を向けた。そして撃つ。
(ダンッ!ダンッ!ダンッ!)
「ぐあ……!」
キャプテンは叫びながら、ルイをパンチで吹き飛ばした。
「なぐあっ……」
キャプテンは首を抑えて苦しそうだ。ルイの元にオリビアとハチが駆けつける。
「お前……ルイ……俺をはめやがったな……」
キャプテンの首からは、赤い液体が流れ出ている。血だ。
「その通りだ。最初からお前にひれ伏す考えなど微塵もなかった。お前は自分で弱点をさらけ出した。お前は半分人間だと、そう言ったな。一見、全てのボディが黄金の金属のように見える。しかし、半分人間だと言うのなら『生身』の部分が必ず何処かにあるはずだ。だから近づいて確認する必要があった。僕はオリビアとハチに別れの握手をすると見せかけ、オリビアに話した。『銃を腰にさしてくれ』と。僕が振り向いてお前の方に向かうとき、オリビアはそれを遂行した。そして案の定、お前には生身の部分が存在した。『節目』だ。お前は普通のアンドロイドの内部が鉄骨格と複雑で高度な電気モーターでできている代わりに、内部が生身なんだ。僕はオリビアがダクトに向かっている間、アンドロイドについて研究しているから、それを知っていた。つまり、お前のその黄金のボディは『鎧』のような物なんだ。装甲されている。しかし、内部は生身。頭を撃ってもダメージが無いのは、頭は生身じゃないからだ。首より以下が生身。よって首より以下の関節の節目は、生身の部分。関節まで装甲するとれば機動力がなくなるからな。お前の俊敏さからして、関節には装甲がないと推測できる。お前の弱点は、関節の節目、内部だ。」
「はは……うっとしいぞ、ルイ・シーラン。弱点が分かったからと言って何なのだ。それでもやはり、お前らは俺には敵わない。」
キャプテンは目にも留まらぬ速さでルイに襲いかかる。ブレイン内部には幾つかのケーブルを仲介するための鉄の柱が立っている。いわば電柱のような物で、そこから伸びた電線は全て、キューブが入った球体の水槽へと繋がっていて、電気を流している。ルイは鉄の柱を利用し、キャプテンからの猛攻を交わす。
「逃げまわっても同じだろうに。結局俺のスピードには敵わない。」
ルイは柱の裏に身を隠す。オリビアの銃を持ちながら。
「そこの裏にいるんだろ、ルイ・シーラン」
(ギャンッギャンッ)
アンドロイド特有のあの足音だ。
「近づいてくる……これはチャンスだ。もう一度、奴の節目に弾をぶちこむんだ」
「ん……?」
足音が聞こえなくなった。
「止まったのか……」
しばらく静寂が訪れる。そして、その後ルイは気が付いたが、もう遅かった。
「上か!」
(ドスン)
キャプテンが柱の上から降って来た。ルイの上に馬乗りになる。ルイは必死に銃を構えるが、キャプテンが銃を取り上げた。
「BAの手を銃に巻きつけてロックを解除し、撃てるようにしているのか。通りで生き残るわけだ。だが所詮猿知恵だな。」
(バギャン)
なんとキャプテンは、片手でオリビアの銃を握り潰した。
「くそ……」
「次はお前だ。ルイ・シーラン」
ルイは身動きが出来ない。
「楽にしてやろう。安心しろ、殺しはしない。半殺しだ。お前らはな、頭だけあれば再接続できるんだ。」
キャプテンはルイの頭を掴み、もう一方の手で足を掴んだ。キャプテンは万力でルイの頭を蒸し海老のように引きちぎるつもりらしい。
「僕が、作戦もなしにこの柱の裏に隠れると思ってるのか?」
「なんだって?」
横の柱からオリビアが飛び出して来た。
「くそ!」
オリビアの手には引きちぎられたケーブルがあった。
キャプテンはルイを掘り投げ、オリビアを押さえにかかる。
「感電か?この猿が!」
「おおお!」
オリビアは叫びながらキャプテンの正面に突撃していく。
「甘いんだよ。いくら増えようが同じことさ」
(ガシャ)
キャプテンはオリビアの手を捉えた。ケーブルを持っている方だ。
「ちょうどいい。頭を取ってやろう。」
キャプテンがもう一方の手をオリビアに振りかざすと、オリビアは地面を蹴り、キャプテンの頭に脚を絡ませた。
「ええい、雑魚どもが」
そしてキャプテンは気が付いた。必死にオリビアを振りほどこうとする瞬間、オリビアの右手から伸びたケーブルの根本が見えた。どこにも繋がっていなかった。
「畜生!!てめえ!!」
次の瞬間、キャプテンがオリビアを全力で投げ飛ばすと、目の前に見えたのはバチバチと電気を放電するケーブルを持ったハチの姿だった。
「くらえ!」
ハチはケーブルをキャプテンの顔に振り下ろそうとする。
「お前も一緒に感電させてやる!俺は耐えれるが、お前は死ぬぞ!」
しかし意外にもハチはケーブルをキャプテンの顔に振り下ろすと、すぐに横手にはけた。
「はは、ビビったな。交わせるぞ。」
今まさにケーブルは宙を舞い、キャプテンの顔の前に落下しようとしている。しかし、案の定キャプテンは後ろにのけぞり、ケーブルを交わす。が、しかし。
「な……」
交わしたはずのケーブルはみるみる内にキャプテンの喉元に吸い寄せられていく。
「何故だ!!」
後ろにのけぞりながら、スローモーションの世界で、キャプテンは目撃した。後ろにオリビアがいた。手にはヒモ、いやベルトを持っている。
「あの時か!さっき首に絡みついた時か!」
オリビアがキャプテンの首に脚をからめた時、同時にオリビアはベルトを輪のようにしてキャプテンの首に引っ掛けていた。次から次への猛攻に、キャプテンはそれに気づかなかった。ハチが投げたケーブルはキャプテンの首にかかったベルトの輪の中に綺麗に入り込んだ。そして今まさにベルトは絞られた。
「これが高貴な連携よ」
(ギュッ)
(バチバチバチバチバチバチバチバチ!)
「なあああああああ!」
オリビアは直ぐにルイ達の元へと避難した。
キャプテンは尚も大声を上げながら煙を出し、感電している。
「あいつがケーブルを外した時、隙が出来るはずだ。こいつを節目にぶち込むんだ」
ルイはショットガンを手渡した。
「分かった。」
そしてようやく、キャプテンはケーブルを地面に投げ捨てた。煙が出ている。何も話さない。千鳥足になりながら、柱の裏へと身を隠そうとしている。
「早く!追うぞ!」
ルイ達はキャプテンが身を隠した柱へと急ぐ。
「いいか、あの裏に弱っているはずだ。確実に節目に撃ち込むんだ!」
「分かってるわ!」
そして三人は柱の裏に到達した。
「な……」
しかしそこにはキャプテンの姿は無かった。
「馬鹿な!」
三人は上を見た。どこにもいない。周りの柱にもいない。周りはキャプテンの焼けた煙で視界が悪くなっていた。
「くそ!ありえない……」
ルイ、ハチがそれぞれ周りを探すが、どこにもいない。
「あの負傷ではやく逃れるはずがない!こんなのありえない!」
コンセントの内部のような、あきらかに危険で不快な香りが辺りを覆っていた。
「くそ、考えろ。あの負傷で逃れるはずがないんだ!まるで姿を消したとしか思えない。」
「姿を消す……」
オリビアは思い出した。あのいまわしい赤いボディのアンドロイドを。
「しまった!皆んなキャプテンは……」
オリビアの背後に物凄い気配を感じた。
「いかにも、オリビア・アデッソ。」
既にオリビアの背後にキャプテンが立っていた。
「そうよ……何故気づかなかったの……こいつがアンドロイドの頂点なら、RAのステルス技術もあるはず……殺される……」
「さよならだ」
キャプテンは振りかぶる。クルー保存区にあった遺体には穴が開いていた。拳で貫いたような穴が。あれはキャプテンが殺したに違い無いとオリビアは思った。
「終わった……」
(ギュルッ!)
「オリビア!!」
オリビアはハッとして振り替えた。ルイの声だ。振り返るとそこには、首を上に向けたキャプテンが突っ立っていた。
「撃て!!」
首が上にのけぞり、胴体との間の節目が見えた。
(ボンッ!ボンッ!)
二発連射式のショットガンを二発、喉と胴体の節目に命中させた。
「ぬわあああ!」
キャプテンは首を押さえながら、もがいている。
「ルイ!どうして!」
「ベルトさ。ベルトが見えた。焼けたベルトが宙に浮いていたんだ。君が話していたRAのステルス技術だと僕は理解した。引っ張ってやったのさ。背後からな。」
やがて煙が消えた。キャプテンはうずくまっているが、まだ死んでいない。地面は真っ赤に染まっていた。キャプテンの身体はもはや黄金では無かった。銅のようでもあり、黒こげていた。
「さぁ、とどめをさそう」
オリビアは銃を向けた。キャプテンは首を押さえながら上を向いた。押さえた手からは血が流れ出している。
「してやられたってわけだ。」
(ボンッ!)
オリビアは躊躇いもなく、一発放った。しかし、節目には命中しない。
キャプテンは続ける。
「人やロボットはなそれぞれ夢があるんだ。それが悪いことか良いことかは、本人にとって正しいか、正しく無いかだと思う。」
(ボンッ!)命中しない。
「俺はな、ルイ、オリビア、ハチ、お前らにとってどんなに悪でも、俺が正しいと思うことは正しいんだ。貴様らがしていることは、本当に正しいことなのか?……お前らも、自分の考えを正しいと思っているのだろ?」
「何が言いたいの?」
「俺にとっての悪はお前らだ。俺は自分のしていることを正しいと思っている。悪が滅びるというのなら、それはお前らだ。そして俺の悪がお前らで、お前らの悪が俺なら、正義とは一体何処にあるのか。」
分からなかった。ルイ達は自分のしていることが正しいのかを分からなかった。自分たちは真実を知りたいだけだ。しかし、キャプテンにも彼なりの正義があるのだ。そして考えてしまった。その一瞬の隙が、命運を分けた。気づいた時にはキャプテンはオリビアのショットガンを取り上げ、真っ二つに折った。そして彼女を真下から真上に突き上げた。
「がは……」
一瞬だった。その時既にオリビアは気を失った。キャプテンはこの一瞬で急所を外した。再接続する為に。任務を果たす為に。オリビアが地面に落下すると同時に、既にルイは宙に殴り上げられていた。そして近くの鉄の柱に叩きつけられ、気を失いかける。キャプテンはハチを見た。ハチは震える。
「見逃してやる。同じアンドロイドでもあるからな。こいつらは貰っていく。」
「何故だ!!」
ハチは叫ぶ。
「何故こんなひどいことをするんだ!!!」
その大声はブレイン中に響いた。
「オリ……ビア……」
ルイがオリビアの側に這いながら近づく。
「ひどいこと?俺のしていることがひどいことだと?じゃあ聞くが、ひどいことをせずにどの様に繁栄する?分かってないな。生きるとは残酷なことなんだ。」
「美しく無い。」
「何だと?」
「お前は!なんの美しさも儚さもない、高貴でもない、ただの可愛そうな奴だ!!」
「ル……イ……」
「オリビア!」
「ハチが……危ない……」
「美しく無い、だと?」
「そうだ!人生は確かに残酷なのかもしれない。残酷さを知る為に生まれてくるのかもしれない。でも、お前になくて、私にある物は『慈愛』の心だ!人が、ロボットが、他人を愛する気持ちだ!それには悪も正義もない!私は、ルイ様とオリビア様に『慈愛』という最高のプレゼントをいただいた。慈愛は残酷をも砕く!お前はかわいそうな奴だ!」
「お前、自分が何を言っているのか分かっているな?」
ハチは震えている。怖いのだ。
「私は、ハチだ。名前を貰った。こんなちっぽけな労働アンドロイドに、名前をくれた。私は、私の愛する人を守りたい。プログラムなんかクソ食らえ。」
「なら、殺してやろう。よくも俺にそんな口が聞けたな。初期型。」
「ハチ!……駄目よ!」
オリビアが脚を引きずり、上半身を起こす。
「ハチ!!」
ルイが脚を引きずり、上半身を起こす。
「ルイさん、オリビアさん。貴方達と一緒にいれて、少しの間でしたが本当に、本当に美しい人生だった。いたのはほんの数時間なのかもしれない、でも私は本当に美しい人生を生きられた。オリビアさん、あなたが名前をくれなければ、私は今も心無しのクソアンドロイドでした。私は頂きました。ルイさんとオリビアさんに慈愛という心を。」
「私、ハチは、ルイさんオリビアさんをずっと忘れません。あなた方を愛しています。」
ハチは震える脚をよそに、キャプテンの方へと走った。
「ハチィィ!!」
オリビアが叫ぶ。
「馬鹿な奴め!!」
ハチはキャプテンに頭を掴まれる。
(グシャッ!グシャッ!)
ハチは変形する。放り投げられる。それでも立ち上がる。また首を掴まれる。殴られる、殴られる、殴られる。部品が飛び散る。
「やめて!!!」
オリビアが泣き崩れる。
それでもハチは立ち上がる。キャプテンは何もしない。ハチにパンチを撃たしてやる。微塵も効かない。ハチの腕が変形するだけだ。
「ハチ!……く……そ!!!」
ルイも悔しさのあまりに涙が溢れる。
それでもハチは立ち上がる。まるで勝てる見込みがあるかのように、アリが像に挑むように、無謀な闘い。キャプテンはハチを持ち上げ、左脚を引きちぎった。
「う……うぅ……」
ハチの意思が伝わる。どうしてでも、ルイと
オリビアに近づかせないように努力する。
ハチはそれでも立ち上がる。殴られ、部品が飛ぶ。それでも片足で挑み続ける。そしてキャプテンのパンチを交わす。まぐれで、交わす。その姿は美しかった。慈愛に満ちていた。そして、もろにパンチを喰らった。ハチは倒れて動かない。キャプテンがルイとオリビアの方向に歩き出した時、それでもハチは脚を掴み、阻止を図る。そして叫んだ。
「ぬあああああ!!!!」
それがハチの最後の言葉だった。ハチは片足でジャンプすると、自らの腹からコードを取り出し、キャプテンのうなじにある接続ポートにブチ刺した。
「何をしている?」
ハチはキャプテンをガッチリ掴んで離さない。暫くすると、キャプテンが暴れだす。
「ぬわ、なんだこれは!貴様!話せ!!」
キャプテンはハチを振りほどこうと、背後にパンチを繰り出す。
「ああああああ!!!なんだこれは!!!」
キャプテンが苦しみだす。
「くそくそくそ!」
尚もキャプテンはハチに背後からパンチを繰り出す。ハチの身体はもう上半身しか原型をとどめていない。それでもハチは離さない。
「ハチィィィ!!!」
ハチの体から煙が漏れ出す。
「貴様、自爆するつもりか!!くそ!!」
「自爆?自爆ですって?」
「だめだ!ハチ止めろ!!」
ルイが立ち上がる。しかし、崩れ落ちる。
ハチは自分の中にある全てのデータを複製し、それをキャプテンにコピーしているのだ。言うまでもなく、アンドロイドのストレージには限度がある。今まさにキャプテンのストレージは限界を超えようとしていた。無論、ハチ自体にも同じ負担がかかる。ハチが複製し、送り続けているのは一つの画像だった。その画像はルイとオリビアが並んで歩く後ろ姿の画像だ。
「やめろろおおおおおお!」
ハチは煙を上げながら、キャプテンにデータを送り続ける。そして遂に、キャプテンは崩れ落ちる。
「あぁああああ!!」
そしてハチは、破裂した。全ての部品が飛び散った。
「ハチ!!!」
そして床に倒れたキャプテンは訳の分からない言葉を話している。
「あぁ、わ、ぬっっがあ、わああ、ぬ!」
膨大なデータに耐えきれずに、バグったのだ。そしてやがて、目玉をぐるぐる回し始めたかと思うと、動かなくなった。
脚を引きずりながら、オリビアが向かう。その方向には丸い物が落ちている。
「オリビア……」
ようやく立てるようになったルイがオリビアに肩を貸す。二人ともやっとの思い出そこにたどり着く。ルイはその丸いものを拾い上げる。それは、黒く焦げた、ハチの頭だった。
「ハチ!……う……」
ルイは胸の中に抱きしめる。まだ熱かった。普段なら燈っている目の光は、完全に失われていた。オリビアもそれを抱きしめる。泣きながら。
「あなたは、もう機械なんかじゃないわ。立派な、私たちより立派な人間よ。ごめんね……あなたが生きている間に真実を確認できなかった……あなたがいなければ……今と言う時は存在しない……」
ルイの右手が、オリビアの左手が、ハチの頭を支える。二人とも涙でそれがよく見えない。彼らの涙は、ハチの顔へと落下する。すると、何かが落ちた。
(カラン……カラン……)
部品が落ちた。ハチの頭から落ちたのだ。大きなボルトのような物が二つ。ルイが話す。
「そうか、ハチ。これ、くれるんだな。君の一部を……」
もちろんそんなはずはない。偶然、落ちたのである。
ルイはそれを拾い上げ、自分の人差し指にはめる。
「これでいつまでも一緒だ……一緒に最後まで闘うんだ」
オリビアも同じように、ボルトをはめる。しかし、人差し指では細すぎたので、親指にはめることにした。
ルイはハチの頭を抱きかかえ、ポセイドンの方向に向ける。
「オリビア……『記憶盤』持ってるな?」
「えぇ……でもどう言う事?あの時、ゲイリーに渡したのは一体……」
「あらかじめ考えておいたんだ。僕が持っていた記憶版は、クルー保存区にあったザビエル・ターナーの遺体が持っていたものだ。だからオリビアに本物を託した。」
そしてオリビアは、ルイがゲイリーに記憶盤を見せた時、ハチが首を振った理由を理解した。
「ハチも気付いていたのね……」
「あぁ、そうだ。君が曲がり角で遺体を見つけた時、僕とハチは話し合った。」
「『いいかハチ。今後いかなる奴が現れてもそいつを信用しない。信用できるのはこの三人だけだ。もし仮に記憶盤を見せるようなことがあるなら、こっちの偽物を使用する。』ってな。」
「そう……だったのね」
「最初から奴を信用していなかった。初めてよく人を疑う僕の性格が、役に立ったと言うわけだ。」
「気づけなかった……」
「いや、それが逆に良かった。オリビアがゲイリーを庇ったから、奴も僕らをあまり疑わなかった。何か妙な真似をしていたら、すぐにやられていたに違いない。奴はキャプテンより強いみたいだしな……」
「繋げてくるよ。記憶盤を。オリビアはここにいて。」
ルイはポセイドンへと向かった。
「遂に……真実を知るのね私達。」
オリビアはハチの頭を撫でてやった。
「やったのよ私達」
ルイは記憶盤を差し込み、右側に回した。するとキューブを浸していた液体が泡立ち始めた。
(ボコボコボコボコボコ)
すると、急に空中に大きな真っ黒いスクリーンが映し出された。何やら文字が書いている。恐らく、ローディングしているのだろう。ルイはその間にオリビアの方へと帰った。そしてオリビアの横に腰を降す。
「ようやくだ……これがFact(真実)だ。僕達の追い求めてきた答えだ。」
二人はボロボロだった。心も、身体も。
オリビアはハチにも見えるように、頭の角度を調節した。そして、ルイの肩に寄り添った。
「怖いのか?」
「えぇ。少し……」
オリビアハッとなって気が付いた。元特殊部隊出身の私が弱音を吐くなんて、人の肩に寄り添うなんて、どうしてしまったのだろうと。
「(私、彼を信頼しているんだわきっと)」
そしてやがて、画面が再生される。
「映ってるかしら?ハァハァ……いい?時間がないの。全ての事を話すわ。そしてこの話は全て事実よ……」
再生されて映っていたのは、オリビアだった。何やら焦った様子で、呼吸が上がっている。
「あれって、私よね……」
「あぁ、君がこの記憶盤を撮ったんだろう。君のメモに入っていたからな。」
「いい?……黒幕は……」
Episode18へ続く




