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THE FACT 6000回死んだ男が見た世界16話

THE FACT 6000回死んだ男が見た世界16話


Episode16 ゲイリー・コーズウェル


(ギャンッ、ギャンッ、ギャンッ)

「……やっと来たようだな」

「申し訳ございません。前の私がご無礼を」

「なに、どうって事ないさ。それで記憶は共有したのか?キャプテン。」

「はい。先ほど前の記憶を移植してきました。」

「そうか。では君はNo.007だ。」

「はい。ありがとうございます」

「それで、問題は分かっているな?」

「はい。ルイ・シーランとオリビア・アデッソですね。」

「そうだ。これを見てくれ」

男がテーブルをこつんこつんと叩くと、大きな画面が空中に現れた。そこには、モールでアンドロイドの遺体を埋めるルイとオリビア、ハチの姿が映っていた。

「三時間前の映像だ。どうやら『モール』に侵入していたみたいだな。それに、奴らが何をしているか分かるか?キャプテン」

「アンドロイドの遺体を、モールの植木の麓に埋めています……」

「そうだ。どうやらモールのセキュリティを突破したようだ。さらに、ルイ・シーランとオリビア・アデッソのそばにいる変形したアンドロイドを見てくれ」

「これは……初期型ですね……しかも彼らととても親密の様に見える」

「一体、どうなっているんだ?警備は」

男はキャプテンを見た。キャプテンはその威圧に押しつぶされそうになった。

「申し訳ございません……」

「ルイとオリビアが、第三層まで来てしまっている。これはどういう事だか分かるか?モールに入れたのもそうだ、奴らは何故か特別クルーの認証IDとパスコードを知っている。この俺が取り上げたのにも関わらずだ!!」

(バンッ!)

キャプテンに強烈な蹴りが飛んできた。キャプテンはそのまま床に吹き飛んだ。

「……すまん……精神病を抱えているんだ。幼少期のトラウマが原因で」

キャプテンはすぐに起き上がる。

「いえ、どうってことありません。続けてください」

「これを見てくれ」

男はガラスでできた細長いテーブルの上に置いてあった、二枚のカードらしきものを取り出した。

「ルイとオリビアのライセンスだ。奴らのライセンスは僕と同じ特別ライセンス。中でもこの二人は『特別責任者』だ。これを、取り上げた。取り上げたはずだった。しかし奴らはなぜかこのライセンスに書いているIDとパスワードを知っている。」

「バレていたということですか?」

「そういうことだろうな。恐らくオリビア・アデッソだ。『当時』のあいつは頭が切れたからな。何らかの形で奴らは記憶の断片を持っている。だが、全ての記憶を取り戻してはいない。そして奴らは今我々がいる第四層目に向かっている。これを見ろ。」

男が手で空を切ると、画面が切り替わった。そこには、第三層目の第二エレベーター手前の廊下で立ち止まるルイ達の姿があった。

「奴ら外を見たらしい。キャプテン、何故奴らはこの層に向かってきていると思う?迷わずに向かって来ている。まるで何か目的があるかのように、第四層に通じる第二エレベーターに向かって来ている。」

「もしかすると、彼らは記憶版を持っているのではないでしょうか」

とキャプテンが話した。

「記憶版?あの液体保存ストレージの事か?ほう……だとしたら……『ポセイドン』に向かっているという事か。キャプテン、君の話は有力かもしれない。奴らは過去の記憶に繋がる記憶版を持っているのかもしれない。だが、どの道だよキャプテン」

「どの道、ですか……」

「そうさどの道、だ。どの道、彼らとはこの第四層で決着をつける。彼らはどの道Fact(真実)を知る事なく再接続する事になる。キャプテン、ここは僕が行く。僕が直接彼らに会う。そしてBrainに誘き出す。その後はキャプテン、頼んだぞ。決して殺すな。生け捕りにして再接続しろ。なぁに、いつも通りの仕事さ。僕が闘うまでもないだろう。」

男は立ち上がると、ガラステーブルの一番端に綺麗に畳んであった、ズボンとジャケットを勢いよく開き、着替えた。そのズボンとジャケットは真白でシルク生地であった。それはルイとオリビアが着ているズボンと服と全く同じだった。そして男は宇宙のガラス窓に近づいていく。すると、段々男に光が照っていき、全体像があらわになった。頭は金魚鉢のように大きく、脳味噌が剥き出しになっていた。そして男はポケットからライセンスカードを取り出し、胸元につけた。ライセンスカードにはこう書いてあった。


『No.005 ゲイリー・コーズウェル』


ゲイリーは不敵な笑みを浮かべると、顔つきが変わった。

「行くぞ、糞機械。奴らを再接続させる。俺についてこい」

「了解」



 


 モールを抜けると、長い通路が続いていた。今までの通路とは違って、配線やバルブなどが露骨に剥き出しになっていた。歩く度に鉄を蹴る音が通路に響いていき、明らかに今までとは違う空気だった。暫くすると、通路は左方へ曲がり、薄暗い通路を照らす光が見えた。

「ルイ、あそこ、光があるわ」

「あぁ。窓か何かだ……外部からの光が通路を照らしているんだ」

外という概念を、暫くの間考えることはなかった。自分がいるという『舟』が、常識をはるかに超える、政府の極秘実験施設の比喩なのか、あるいはそれ以上の物なのか、その窓は真実の1ピースに違いなかった。

「あれが外だとすれば、僕たちがどこにいるのかが分かる」

ルイとオリビアは思わず駆け出した。ハチもそれに続く。そしてようやく、二人は窓の外を見た。初めて、外の光を見た。

 窓の外から照らされる眩しい光に目が慣れ始めると、2人は唖然とした。その光景は少なからず彼らが生きてきた、生きていた世界ではみたことのない光景だった。漆黒の闇の奥に、とてつもなく大きな柱が存在した。その柱には等間隔で大きなライトがついており、その光がこちらの窓を照らしているようだった。柱は窓の下の方へと伸びている様だった。そして、最初はただそこに固定されているかのように思えた柱だったが、よく凝視して観察すると、ルイはある事に気がついた。その柱は一見静止しているかのように思えたが、よく見ると柱の端が何重にも重なっている様に見えた。

「回転している。あの柱は僕達が静止しているかの様に錯覚させるくらい、上下方向に高速回転しているんだ」

「ルイ、あれは?」

オリビアが指差したのは、柱のさらに奥の方向だった。あまりに大きな柱にずっと焦点を当てていたので、ルイは今その存在に気がついた。

 そこには、左側から右側へと不規則に現れては消える、白い光の糸の様なものが見えた。

「これは大きな機械の内部か何かかしら?」

「いや、ここがどこだか僕は理解した」

「え!一体どういう事?」

「この窓の外は内部ではなく、外だ。」

「外……この真っ暗闇が?何も見えないこの暗闇が?つまり私達は光の届かない『地下』にいるって事?」

「いや、光が届かないのは間違いではないが、ここは地下でも陰謀論支持者が喜ぶ様な極秘施設でもない、『宇宙船』だ。」

「宇宙船ですって?」

「この暗闇は宇宙空間だ。そしてあの高速回転している柱は、恐らく遠心力を生み出して重力を生成している。そして左右に流れるあの光は、この宇宙船が発する光を反射した星や恒星だ。つまり、あれだけの速さで左右に流れて見えると言うことは、この宇宙船はとんでもないスピードで、『今』も移動しているという事になる。」

「私達、宇宙船に……いるの?」

「あぁ。間違いないだろう」

「つまり、クルーという名前も宇宙船の乗組員だと言う事になれば、話が合いますね……」

ハチも驚いたように窓の外を見た。そして続けた。

「私が初めてだ。私が初めて、外を見た初期型アンドロイドです……」

アンドロイドは無表情だ。しかし、ルイとオリビアにはハチがどの様な顔をしているのか不思議と読み取ることができた。それは好奇心に満ち溢れる少年の顔でもあったし、我が子を見守る母親の様な顔でもあった。

「あともう少しです。あともう少しで、ポセイドンがあるとされる『Brain』にたどり着くことができます。そこで私達はFact(真実)を知ることができるのです……」

 もしかすると、ハチの方が『真実』に対する熱意が高いのかもしれない。ハチは何百年もの間、この舟で労働アンドロイドとして働いてきた。そして、何故働かなければならないかという理由を考える余裕も無かった。彼らの人生は『労働』。故障すれば廃棄されるのみ。知能の高いアンドロイドは、ハチは、自分が生まれて来た意味を知りたいと、ずっと考えていたに違いない。そして、自分に名前をくれた、愛をくれた当時のオリビアとルイが何故再接続されたかについての真実を知りたくて仕方ないのだろうと、ルイは思った。

「さぁ、行こうか」

一行は第四層目に続いているであろうエレベーターに乗り込んだ。レバーを下げる。

(ガシャコン)

扉は閉まり、振動が始まった。するとオリビアが沈黙を破って話した。

「ポセイドン、記憶版を再生できる唯一の機械……私達はずっと何者かに操られていたのかもしれない。そいつがキャプテンと呼ばれるアンドロイドなのか、それとも他に黒幕がいるのかは分からない。でも、この先にそのFact(真実)がある。もし黒幕が……私達がここに来て、ポセイドンに近づく理由を既に知っているのだとすれば、全力で止めに来るかもしれない。つまり……」

(プシュゥ)

どうやらエレベーターが到着したらしい。

「つまり、ここが最も危険。そう言いたいんだろ?」

ルイが話の続きを話した。皆考えていることは同じらしい。

「少なからず、ここが僕達のゴールだ。」

ルイはエレベーターのレバーに手を掛ける。

「僕は……オリビア、ハチ、君たちに出会えて良かった。僕達はきっと嫌というほど、協力し、共闘し、そして破れて来たんだ。これは宿命だよ。僕らがこの長い戦いに終止符を打つだ。」

(ガシャコン)

ルイはレバーを下げた。すると、扉が開くにつれて眩い光が溢れ出た。暗闇の廊下を進んで来た為、眩しさはより一層強く感じられた。光に目が慣れると、真っ白い空間が奥の方まで続いていた。何もかもが白い。

(プシュウ)

エレベーターは自動で扉が閉まると、跡形もなく消えた。ただ真っ白い空間だけが続いている。

「エレベーターが消えたわ……」

「いや、消えたんじゃない。あるけど見えないんだ。見えないくらい、隙間なくこの空間の壁と一体化しているんだ。密閉されているんだ。」

「密閉……どうして?」

「分からない。でもこの通路からは特別だという事を示しているに違いないよ」

一行は歩き始めた。床は真っ白い大理石の様だった。それは歩いた時の音と硬さから推測しただけであって、天井、壁、共にあるのかないのかさえ分からなかった。狭いのか広いのかさえ分からなかった。ただ、ひたすらにまっすぐ歩いた。すると、大きな真っ黒い扉が奥の方に見えた。白に黒だったので、すぐに確認できた。

「扉がありますね……」

近づいていくと、段々大きくなった。銀行の金庫の様な重厚な扉だった。持ち手の部分にタッチパネルが埋め込まれていた。

「僕が打とう」

ルイは慣れた手つきで、IDとパスコードを入力した。もう何度も目にしていたので、覚えていた。ルイが入力完了のボタンを押すと、次に手相認証が表示された。それも難なくこなす。するとさらに、網膜スキャンが表示された。パネルの指示に従ってルイは網膜をスキャンした。

(ビー!)

最初はエラーの音かと心配したが、やがてロックが解除される様な音が三回ほど続いた後、ドアノブの持ち手がガコンと音を響かせて下に下がった。開いたのだ。

「厳重ね……」

「いよいよだ」

ルイは重い扉を開いた。するとまた白い空間が続いていた。

「行こう」

一行は進み続けた。すると、見覚えのあるシルエットが遠目から確認できた。

「案内掲示板よ」

変な気分だった。ゴールに近づいているのに、振り出しに戻された様な気分になった。初めてあの案内掲示板を見た時から、随分とたった気がする。そうルイは思った。

 近づいていくとやはり案内掲示板だった。

「分岐しているんだ。あれにBrainブレインの場所が書いているはずだ」

一行は自然と小走りになった。この数メートルほど長く感じられたものは無かった。これも空間が白いせいなのかもしれない。そしてようやく文字が見える位置に差し掛かった時、分岐している通路の右側にあるものが見えた。

「待て!」

先頭だったルイが手を広げてオリビアとハチを止めた。

「どうしたの?」

オリビアは自然と腰の銃に手を当てた。

「そこの角……何かが見える。」

それは言わずとも何か、三人とも理解した。分岐の右側、ほんのすこしだけ見えているそれは、ガラスの様な、プラスチックの様な物。床に落ちていた。いや、倒れていた。

「あれ……頭……よね……私達と同じ、クルーの……頭。」

「あぁ、恐らくそうだ」

ルイも背負っていたショットガンを構えた。

「何かいる」

緊張が走る。

「私が行くわ」オリビアが言った。

「気をつけるんだ。罠かもしれない。」

「ええ、大丈夫よ……」

オリビアは一歩一歩、慎重に歩みを進めた。そしてまず、頭だけを出して、通路を覗き込んだ。誰もいない。反対側の通路と、上を確認したが何もいない。そして最後に、下を見た。やはり、クルーだった。

「ルイ、ハチ、大丈夫よ」

「死んでいるのか?……いや待て、妙だ。クルー保存区にいたクルー達は、薄いローブを身に纏っていた。でもこいつ、僕達と同じ服を着ている……」

「仰向けにしてみましょう。身元がわかるかもしれないわ……」

オリビアが遺体に手を触れた。ルイが反対側を持った。

「行くぞ……せーの」

(ドタ)

仰向けになった遺体は、ブロンドの髪の色をしていた。オリビアよりも明るい色だ。

「男ね……」

「あぁ、男だな」

「でも変ね……顔色はまだあるわ……まるで眠っているみたい」

オリビアは体温を確かめようと、遺体の首元に触れようとした。その時だった。男の目が開いた。

「わっ!」

オリビアは慌てて立ち上がった。

「生きてるわ!」

その男は目を開け、ルイとオリビアを見た。そして話した。

「あんた達は……一体……誰だ」

ルイがショットガンを向けて話した。

「それはこっちのセリフだ。お前は誰だ?なぜここにいる」

男はルイが銃を持っている事を確認すると、怯え始めた。

「そそそ、それ、銃か?ぼぼ、僕を殺すつもりだな?……お前もあの『金色のロボット』の手先か!」

「なんだって?今なんて言った」

「金色のロボットだ……殺戮兵器だよ」

オリビアがルイに銃を下げる様にジェスチャーした。

「あなた、その金色のロボットから逃げて来たの?」

「そうさ……殺される寸前だったんだ……」

「貴方は生前の記憶はあるの?」

「生前?あ、あぁ、あるとも。僕は生前、漁師だった。嵐の日に波にさらわれて死んだんだ。そうしたら、バスタブみたいな中で目が覚めたんだ。他にも似た様なやつが何万といた。でも目覚めたのは僕だけだった……君達もそう、なのか?」

「僕の名前はルイ。彼女はオリビアで、彼はハチだ。ハチは僕達の仲間だから危害を加えることはない。君はどうやら、クルー保存区で目覚めたみたいだな。でも変だ。他のクルーと服装が違うみたいだが。」

「……あ、あぁ。この服装は元から着ていたが、君達とお揃いみたいだな。それで、僕の名前はダニー。だったが、ここでは『ゲイリー』って名前らしい。『ゲイリー・コーズウェル』だ。」

「『ここでは』?じゃあ貴方もメモ帳を?」

「……メモ帳?それは一体何だ?」

ゲイリーは起き上がって、ふらつきながら自力で立ち上がった。

「メモ帳ってのは?」

オリビアが口を開きかけた時、ルイが割って話した。

「それで、何故自分の名前がゲイリーと分かる?」

「これだよ」

ゲイリーは胸元に付けられたライセンスカードを示した。

「ちょっと見せてもらってもいいか?」

「どうぞ」

ルイとオリビアはそのライセンスカードを見た。そこには、名前とID、パスコードとナンバーが記載されていた。そして二人は理解した。メモ帳の端のページに書かれていた、名前とID、パスコードはどうやらライセンスカードの複写であったという事に。それと同時に、それは本来胸元についているはずで、それがないということは何者かが意図的に、ルイ達のライセンスカードを取り外したという可能性がある事に。

「ありがとう」

ルイはライセンスカードを返した。ゲイリーは胸元のクリップに付け直した。

「それで……君達はライセンスカードはあるのか?いや、あるはずか……ここに来るまでに『必要』だったはずだからな」

「ゲイリー、君はなんだって金色のアンドロイドに襲われたんだ?」

「ここがどこだか知りたかったんだ……だからここに来てしまった。この通路の先には、いくつか部屋や通路があって、その先に『操縦室』みたいなところがある。そこで奴と出くわした。奴は自らを『キャプテン』と名乗っていた。」

ルイとオリビアは顔を合わせた。

「実験台にされたんだ。奴に。」

「実験台?どういう事だ」

「これ見てくれ」

ゲイリーは腕をまくった。すると鉄でできた腕が現れた。

「僕は奴に、キャプテンに捕まって、腕をもぎ取られ、この機械の手を付けられた。奴は化け物だ。何が目的かは知らないが、特定の『人間』を実験台にしているんだ。人間とアンドロイドの混合種を作ろうとしているんだ。ここはそういう『施設』なんだ……」

ルイはしばらく間を置いて質問した。

「その根拠は?」

「根拠?……根拠も何も、奴の口から聞いたんだ。」

「それなら、多くのクルーが記憶を消されている理由はなんだ?僕達も、君も、何度だってここで目覚めてはを繰り返しているはずだ」

「それは……分かるわけが無い。全てを聞いたわけじゃ無い。だから、その話を聞いて必死に逃げてきたんだ。でもここですっ転んで気を失った。」

「まぁ、ルイ。そこまで質問しても本当の事は分からないわ。でも、私達の敵はキャプテンっていう点で、ゲイリーは私達の仲間だと言うことに変わりはないわ。そうでしょ?」

「そうだな。僕達の目標は依然として変わらない。Brainブレインに向かうと言う事だ。」

「どうしてBrainブレインに向かう?」

「ルイ様!これを見て下さい」

ハチが話した。

「どうやらこの案内掲示板、右側は『コックピット』、左側は『ブレイン』と書いている様です」

「そうか、ありがとうハチ」

「君も来るか?ゲイリー。」

「あぁ、その銃を見て行かないわけには行かない」

「それで……何しにいくんだ?」

ゲイリーが話した。

「Fact(真実)を観に行くんだ。」

四人は歩き始めた。

「真実?」

「あぁ、そうさ。全ての真実。この『舟』で起きている全ての真実を観に行く。そしてキャプテンをぶち殺す。」

「それは正しい事なのか?」

ルイは立ち止まった。そして口を開いた。

「何が言いたい?」

ゲイリーが続ける。

「僕は分からない。僕達が生きてきた世界が本当に正しかったのかが。本当は、何も存在していなかったのかもしれない。ずっと奴らの言いなりだったのかもしれない。僕達のその行動で、他のクルーを巻き込んでしまうかもしれない。」

ルイも続ける。

「そうさ。だけど黙って傍観している程、人生は甘く無い。意識だけじゃ何も変わらない。だから動くんだ。他のクルーを巻き込むんじゃ無い、救うんだ。文句があるなら、僕達について来なくてもいい。それとも……」

ルイはゲイリーに顔を近づける。そして話す。

「それとも、僕達に『真実』を知って欲しく無い理由でもあるのか?」

沈黙。

「あるわけないだろう。ただ、ここで起こっている事は異常だ。よく考えた方がいいと、そう言うことだ。」

「それなら心配ないさ。ずっと考えてきたんだからな。」

オリビアはルイがどうしてキツく当たるのか、理解できなかった。

「さぁ、そのくらいにして。行きましょう」

ハチがルイとゲイリーをなだめ、肩を叩いた。

「悪かった。余裕が無いんだ。」

ルイは謝った。

「いや、今のは僕が悪かったよ。すまない。」

ゲイリーも誤った。お互いに握手をし、歩くのを再開した。

「それで、真実はどうやって知るんだ?」

ゲイリーが質問した。ルイはポケットから液体の入ったメモリストレージを出した。

「この中に、真実に関する情報が入っている。これをポセイドンにて再生するんだ。」

ゲイリーはそれを見ている。

「ほう……」

すると後ろにいたオリビアが困惑した様な顔つきで、ルイに話しかけようとしたが、ハチが止めた。オリビアがどうしてと言わんばかりにハチの方を見ると、ハチは首を振った。

「その中に『真実』に関する情報が入っているんだな?」

「あぁ、そうだ」

「そうか、それは一刻も速くBrainブレインに向かわないとな」

(コツンコツンコツン)

四人の歩く足音だけが通路に響く。誰も話さない。重い空気だった。しばらくすると、またもや金庫の様な大きな扉が姿を現した。

「どうやら、あれみたいですね」

一連の手順をこなし、扉が開く。扉が開くと、また通路があり、また重厚な扉があった。

「厳重ね……」

「それだけ、ポセイドンは大切なものなんじゃ無いか?コックピットと同じ層にあるんだ、きっと膨大なデーターなどがあるに違いない」

そしてまた一連の作業をこなす。ID、パスワード入力、手相スキャン、網膜スキャン。そして遂に、大きな扉が開かれた。

(ゴンゴンゴンゴンッ……)

段々と、内部の様子が明らかになっていく。

「これが……Brainブレイン……」

 そこはとてつもなく広かった。野球の試合などが行われる、ドームのような作りだった。観客席などの部分は全て機械。グラウンド部分には何十本もの大きな柱があり、その柱から観客席の方へと何千本ものケーブルが繋がっている。そしてドームの中心には、液体の入った球体があり、その中に真っ黒い立方体が浸されている。

「これは……物凄く驚いた……」

ゲイリーが話した。

「ここが……この『舟』の中枢?」

それはまさに、巨大な機械の巨大な脳(Brain)の様だった。

「ここに膨大なデータが保存されているんだ……そしてあの中心にあるキューブこそが、『ポセイドン』なんだ……」

四人はそのポセイドンへと歩みを進める。

 ポセイドンは近づいて見るとさらに大きかった。

「ルイ様、ここです!見つけました。ここに記憶版を差し込むのです。」

ハチはポセイドンの下にあった大きな機械の、小さな蓋のついた接続口を指差した。

「ルイ様、注意して下さい。記憶盤は一回しか再生できません。差し込んだときに、記憶盤内部の液体を抽出して、映像化するからです。しかし、一回の記憶盤に保存できる情報量はほぼ無限と言われています。どうか、お気を付けて。」

すると、ルイがハチを見た。すると、ハチが話した。

「オリビア様、すみません。肩を貸していただけませんか?」

「いいけど、どうして?」

「脚の調子がどうも悪いらしいのです。モールの一件が原因かもしれません。」

「ゲイリー」

ルイがゲイリーに近づいていく。今、ポセイドンの前にいるのは、ハチとオリビア、その後方にルイとゲイリーだ。

「ん?どうかしたのか」ゲイリーが返答した。

「ついにFact(真実)を知る時が来たんだ……」

「あぁ……僕達が何故ここに来たのか、それがついに分かるんだな。」

「ルイ・シーラン、君に出会えて僕は凄くラッキーだった。」

「ゲイリー、僕もだ。僕らがこの現状を変えるんだ。」

二人は握手をした。その手は決して柔らかいものでは無かった。硬かった。二人は見つめ合った。そしてルイが話した。

「さぁ、接続しよう。ポセイドンに、真実を。」

ルイは振り向いてポセイドンへと歩いていく。ゲイリーもそれに続く。四人はポセイドンの前に集まり、ルイがポケットから記憶版を取り出した。

「ルイ様。お願いします。」

「ついに、この時が来たのね……」

ルイは記憶版を接続口に挿した。後は押し込むだけだ。しかし、ルイは肩を落とした。

「どうした?」ゲイリーが訪ねる。

(カチャッ)

銃口が向けられた。長い銃口が。その銃口はゲイリーの頭部を正確に捉えていた。ルイだった。ルイが振り返って、ショットガンをゲイリーに構えた。

「ちょっと!ルイ、どういう……」

ハチがオリビアを抑えた。

「ゲイリー、君が黒幕だな……」

「!?」オリビアは驚いた。

ゲイリーは返す。

「おっと……どういう事だルイ。何故そうなる?」

「銃にビビらないんだな……冷静だな。」

「何が言いたい?」

「お前が黒幕だ。キャプテンと繋がっているのか?答えろ」

「おいおいおい、何を言っているかさっぱり……」

「黙れ!」

ルイは大声を上げた。

「僕達をはめたな……」

「証拠がないだろう!」ゲイリーが叫ぶ。

「そうよルイ、どうかして……」

「証拠は山ほどある。まず初めに、お前はキャプテンから逃げたと言ったな。そんなお前はアンドロイドに対する恐怖心があるはずだ。なおさら、鉄の柱で目覚めたのなら、BAなどを目にしているはず。そんなお前がハチを見て微塵も驚かなかったのは妙だ。つまり、お前は元から僕達を知っていたんだ。」

「何を言っている?それが証拠なのか?ならお前は……」

「次に、その最初の言動で僕はお前が敵だと勘付いた。だからかまをかけたんだ。僕はお前にBrainブレインが何かを説明していないし、どこにあるかも言わなかった。なのにお前は『ブレインに向かう理由』を聞いてきた。つまりお前は元から、ブレインの存在を知っていたんだ。ブレインが何かわからないなら、どうしてそこに行くか聞く前に、ブレインとは何かについて聞くはずだろ。そしてこんな機密情報、キャプテンが君に話すわけがない。つまり、最初から知っていたんだ。」

「……」

「最後にゲイリー、君はさっき僕に会えてラッキーだと言っただろ。『ルイ・シーラン、君に出会えて僕は凄くラッキーだった。』とな。でもなゲイリー。僕は最初にルイとしか名乗っていない。フルネームは……一言も話していないんだよ。君は前から僕達を知って……」

ゲイリーがルイのショットガンの先を掴んだ。

(バホンッ!)

ルイはゲイリーの頭に一発撃ち込んだ。ゲイリーの左半分の顔がえぐれた。にもかかわらず、向かって来た。

「何て野郎だ!」

ルイのショットガンは弾き飛ばされ、溝内にブローを喰らった。

「うっ……」

背後からオリビアが襲いかかる。ゲイリーはオリビアの攻撃を全て防御し、パンチを腹に撃ち込んだ。たった一発だけで、オリビアは数メートル吹き飛ばされた。続けてハチが背後から攻撃を仕掛けたが、ゲイリーは軽くハチを持ち上げ、遠くに吹き飛ばす。

「強い……オリビアが簡単に吹き飛ばされるなんて……」

ゲイリーはポセイドンに近づいて、記憶版を抜き取った。

「はははは……」

ゲイリーの顔つきが変わる。

「残念だな糞ども。いかにも、俺がこのFact(真実)の黒幕さ。全て、俺が仕組んでいるし、俺の計画だ。知りたかっただろうに、悔しいだろうに。今から君達は再接続するんだ。また記憶を失うんだ。そうだな……せめてもの情けで、次は裕福な国にでも生まれる様にしてやろうか?いや、貧しい国が良いな。君達は野蛮だからな……はははは!」

「く……そ……」

オリビアもルイも、ハチも暫く立ち上がれない。

「そこのポンコツアンドロイドは廃棄にする。そうだ、最後に聞かせてくれ。これが俺を驚かす最後のチャンスだ。俺を驚かせて、心拍数を少しだけ上げて、寿命をみじんこレベルで下げることのできる、唯一の抵抗だ。どうして、IDとパスワードを知っていたんだ?どうして、どこで、記憶版を手に入れた?ルイ、答えてくれ。」

ゲイリーはルイの側に行き、片手でルイを無理矢理立たせた。

「どうしてだ?」

「教えて欲しいか?……」

「教えてくれ」


「糞食らえ。」

ルイは唾を何度もゲイリーに吐きかけた。

「汚らわしい!」

ゲイリーはルイの腹にパンチを入れた。ルイはそのまま地面に倒れた。

「オリビア、君なら話してくれるな?」

ゲイリーが近づいてくる。同じようにオリビアを立たせる。

「失せろ、このゴミクズが!」

オリビアは立ち上がり、技をかけようとするが、全て交わされた。

「残念」

(バンッ)

「うっ……」

ゲイリーはオリビアをなぎ倒した。

「もういい。あとは再接続するだけだ。そんな事どうでもいい……ルイ、オリビア、ハチ。」

沈黙。

三人はゲイリーを見た。

「映画などで、一発逆転などの奇跡がクライマックスでよく起こることがあるよな。俺はあれが大嫌いなんだ。全てがハッピーエンドなわけがないだろう、主人公が死なないわけないだろう……違うかい?だから……」

ゲイリーは記憶盤を三人に見せびらかした。そして、握り潰した。

(パリンッ)

ガラスの割れる音が響き、液体が飛び散った。

「これでFact(真実)は消え去った。お前らのハッピーエンドは消えた!ははははは!」

ゲイリーは出口へと歩いていく。

「くそ……くそぉ……」

ルイが痛みに耐えながら嘆く。

「糞野郎!!」

オリビアが痛みに耐えながら嘆く。

「く……」

ハチが悔しさその余りに嘆く。

ゲイリーは振り向きざまに手を叩いた。

(タンタンッ!)

すると、上から何か降って来た。

(ドスンッ)

そいつはゆっくり立ち上がる。そいつは大きくて、そいつの身体は黄金に輝いている。胸元には数字が刻印されていて、全身が太く、ゴツい。例えるなら、岩だ。ソイツはルイ達を見た。真っ赤なライトのような目をしている。

(ズン!)

ブレインの扉が閉まり、ゲイリーが去った。

そして、黄金のソイツは立ち上がった。2メートルはある。オリビアとルイ、ハチは痛みに耐えながらポセイドンの前に集まった。


「あれが……『キャプテン』……アンドロイドの……頂点」


絶体絶命。三人の頭にはそれしか浮かばない。



         Episode17へ続く












 


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