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THE FACT 6000回死んだ男が見た世界14話

THE FACTも残すところ後6話!

毎日多くの人々に見ていただきとても感謝しております!

1話から見てくださっている方がいるかは不明ですが、一人でも見てくれているなら大満足です!

皆様に読んで頂ける事を大変嬉しく思います。

評価もコメントもありませんが、それでも楽しんでいただけていると信じて投稿を続けたいと思います!

さて14話では新たな『FACT』を知る事になるかと思います。是非、お楽しみください!

THE FACT 6000回死んだ男が見た世界14話


Episode14 クルー保存区とモール


 ルイとオリビア、そしてアンドロイドのハチは真実を知るため、記憶版をポセイドンに接続するべく、舟の三層目『居住区』へと足を進める。

 実際、エレベータにはアクセス権限などは不要だった。エレベーターは金属の擦れる嫌な音を響かせながら上昇していた。

「居住区……それは一体誰のために、何の目的で作られたものなのかしら」

「アンドロイドは常に稼働している。睡眠も必要なければ、食事も必要無いと思うが……そうだよな?ハチ」

「その通りですルイ様。アンドロイドはプログラムを遂行するための機械、寝たり食べたりはしません」

「となると誰のための居住区なのかしら」

「その答えがこの先にあるはずだ」

(プシュゥ)

エレベーターは止まった。乗っていた時間は1分間。一階分の階層移動にしてはかなり長かった。

「……どうやら手動のようですね」

一層目以外の階では、エレベーターは手動で開閉可能だった。

「準備、いいか?」

オリビアはルイの目を見てうなずいた。ハチもグッドのハンドサインを示した。

(ガシャコン)

ゆっくりと扉が開く。扉が開くにつれて空気がエレベーターに入ってくる。

「……寒いわ」

「あぁ……」

気温が全く違っていた。さっきいた層が暑かったのか、この層が寒いのかは分からなかった。それでもかなりの温度差を感じた。真冬の早朝、満員電車から駅のホームに降りたときみたいな感じだ。

「大丈夫ですか?」

ハチが心配そうに話しかける。アンドロイドには温度は感じないらしい。もっとも、腰の部分についている換気装置が体全体の温度を下げているのだろうと、ルイは思った。

「到着だ……」

闇だった。薄暗かった。真夏の夕方の校舎みたいだった。

「暗いな……」

「誰も使ってないのかしら……」

「いえ、少なからずこの層にも警備アンドロイドはいます」

「暗いのには理由がある。恐らく、使っていないのじゃなくて暗くしないといけない理由があるんだ」

「理由?」

「『温度』なのかもしれない。温度を保つために暗くしている、恐らくそうだ」

一行は歩き出した。エレベーターを降りると真っ直ぐに通路が続いていた。緊張と気温で身体が常に震える。オリビアは腰から銃を取り出し、構えながら歩いた。しばらくすると左右に分岐した。左を進む。

「本当に薄気味悪いわね……ジャングルの夜を思い出すわ」

「オリビア様はジャングルに住んでいたのですか?」

ルイが答えた

「はは……違うよ彼女は元特殊部隊だからだ。訓練の話だろう。」

「ルイ、何がおかしいの?」

「おっと、すみません軍曹」

「はぁ……全く……」

(ギャンッ!)

なんと通路の角からアンドロイドが飛び出してきた!

「ルイ!!」

ルイはオリビアの叫びを聞くと、その場で身を低くした。

(ダンッ!)

オリビアは銃を撃った。その銃弾はアンドロイドの脳天を確実に貫いた。

(バタンッ)アンドロイドは倒れた。

オリビアがルイに手を差し出した。

「危なかったわ……」

「悪いな……」

ハチは倒れたアンドロイドを観察していた。

「このアンドロイドはこの層担当の者です。ボディの番号がそうなっています」

「番号によって担当が違うのか」

「はい。私達ノーマルはタイプI型のB。Bは階層の担当場所を示しています。」

「なるほど。だからこのアンドロイドはタイプI型のC、つまり三層目の担当か。」

「じゃあBAはタイプII型ってわけ?」

「その通りです。オリビア様。」

「タイプが上がるごとに、最新のアンドロイドになるというわけです。オリビア様が倒された赤いアンドロイドはタイプIII、現時点ではタイプIIIが一番最新モデルです」

「あの赤糞やろうね。あいつには驚かされたわ。」

「しかし噂によれば、タイプIIIを越える全身が『メタリック加工』でできたアンドロイドがいるのだとか……」

「全身メタリック?それがどんなやつであれ、私は屈しないわよ」

「できた」

よく見ると、ルイは倒したアンドロイドにタブレットを接続させ、なにやら操作していた。

「ちょっと!勝手にそんなことして平気なの?」

「多分」

「はぁ……それで何ができたのよ」

「この層のマップが手に入った。今タブレットにコピーしてる」

「マップですって!それはでかしたわね」

「よし、皆んな見てくれ」

「これは……」

「なんと……」

ルイは二層目のマップと見比べた。

「このまま進めばかなり大きいホールにでる。今までに無いくらい広い……アンドロイド製造工場の2倍以上の広さよ……」

「見てその先にも大きなエリアがあるわ。」

「あぁ。そしてその先にある小さいマークはエレベーターだ」

「このすごく大きな部屋、この文字、なんて書いてあるの?」

「えっと、ちょっと待ってくれよ……」

ハチは読めたが、ルイが解読するのを待った。

「な……」

「どうしたの?どういう意味なの?」

「『クルー保存区』、そう書いている……」

「クルー?クルーですって?今、クルーって言ったの?……」

「……あぁ確かにそう言ったし、そう書いている」

「これは驚きました……」

「クルーって『乗組員』ってことよね?乗組員が保存されているってこと?私達みたいな?……」

「私達……乗組員なの?……」

「分からない。」

オリビアは混乱した。

「オーケー。仮にここが舟だとするなら、私達は乗組員。そこまではつじつまが合うわ。でも、私達が『死んだという事実』はどうなるの?私、クロエは……」

「落ち着け、オリビア」

オリビアはハッとした様にルイを見た。


「『事実』だけ知ればいい。だから、事実以外の『憶測や推測』はいらない。だから悩むことも不安になることもない。事実が分かってから、初めて悩んだらいい。違うかい?」


そのルイの言葉はオリビアの心を打った。なんと洗練された、筋の通った言い分だろう。確かにそうだ。憶測は所詮は憶測に過ぎない。事実を知ってから初めて悩めばいい。オリビアはその言葉に感動し、それと同時にルイを尊敬した。あの時の感覚に似ていた。いくあてもなく彷徨っていたクロエが、シスターに言われた一言の様に。まるで、暗闇に灯る一つの光。

「そうね……ルイの言う通りだわ」

ルイは話した。

「これからこの『クルー保存区』に行き、『ポセイドン』についての情報を探す。いいかい?」

「了解です!」「了解」


 クルー保存区に続く扉は今まで見た中のどの扉よりも重厚で、厳重だった。まるで大きな鉄の巨人が張り手で行く手を阻んでいる様だった。

「認証だ……パスコードとIDがいる……」

迷いは無かった。確信していた。自分たちのメモの一番端のページにのってある、アレだ。

「僕が入力しよう」

ルイは既にメモ帳に書いてあったそれらを暗記していたので、迷いなく入力することができた。オリビアはルイが入力している間、考えた。この先にはとんでもない秘密があるに違いないと。それと同時に覚悟を決めた。特殊部隊の訓練を開始する前日の様に。

(ファンッ)

それはまるで汽笛の様な音色だった。

(ガシャン、ガシャン、ガシャン。)

扉の中にある何層ものロックが開く音がした。まるで超厳重な金庫みたいだった。そして、ゆっくり、自動で、扉は開いた。

(ゴゴゴ!)

そして全開に開き切った時には真っ暗だった内部は、ルイたちが進むと電気が自動でついた。真っ白い。全てが真っ白い。壁には穴が無数に空いている。そして奥にはまた重厚な扉がずっしりと構えていた。

「消毒か」

そこは汚染を除去する部屋だった。実際3人が中に入ると、後ろの扉が閉まり、アナウンスが流れた。

(これより汚染除去を行います。汚染除去作業中は目を閉じ、息を深く吸って、止めてください)

3人はアナウンスに従った。

(これより汚染除去を開始します。目を閉じ、息を吸って下さい。)

ルイとオリビアは肺一杯に空気を入れ込んだ。ハチも真似をして、腕を組んだ。

(汚染除去、開始)

部屋の中にあった無数の穴から、液体が噴射された。熱い。熱湯だった。しかし、耐えるしかなかった。豪雨の中、交差点の中心で一人だけ立っている様な感覚。その雨は今までの自分を洗い流してくれる様だった。そしてやがて、消毒は終わった。

(楽にして下さい。乾燥を行います)

すると次は部屋の端からバリア状の赤いレーザーが3人の方に向かってきた。

「ちょっと……」

「大丈夫だ」

オリビアは髪の毛が長かったので、髪から水滴が落ち続けけていた。その赤いレーザーはやがて三人を包み込んだ。触れる感覚は無かったし、温度も感じられなかった。しかし驚いたことに、そのレーザーを通過した瞬間、体は完全に乾いていたのだ。オリビアの濡れた髪はいつのまにか、美容院の帰りを思い立たせる様に、綺麗に乾いていた。

「信じられない……」

乾燥が終わると、正面の扉が開いた。

(ゴゴゴ!)

「行こう」

三人は進んだ。そしてついに『クルー保存区』へと到着した。

 到着してしばらくは誰も話さなかった。話せなかった。脳が情報を処理するに時間を要した。汚染除去ゾーンを抜けると、そこはもうとてつも無く広かった。まるで外だった。森だった。森という表現が正しかった。その空間には数え切れないほどの『鉄の柱』が立っていた。その間の通路をBAやノーマルアンドロイドやらが行き来している。その鉄の柱は蒼白い。赤っぽいものもある。そして赤っぽい鉄の柱の下にはアンドロイドが立っている。そして、これだけでも理解不能だったが、一番の問題は、鉄の柱の根元だった。鉄の柱からは無数のケーブルが垂れていて、そのケーブルは柱の根元に続いていた。ルイもオリビアもそれを見たことがあった。鉄の柱の根元には、『浴槽』があった。その浴槽からは緑色の液体が溢れて出ていた。やがて、赤色の柱の浴槽から身を起こしたのは……『人間』、いや『半人間』ルイとオリビアと同じ大きな金魚鉢みたいな脳を持っていた。そして、やがてオリビアがやっとの思いで話した。

「私達だけじゃ無かった……」

一つの柱につき四つの浴槽。鉄の柱は数え切れないほどあった。

「あぁ……とっくに理解を超えている」

 遺体と同じだ、とオリビアは思った。オリビアが、クロエが小さい時、目の前で両親を殺された。その時の両親の遺体はトラウマだった。目を見開いたまま、瞳には真っ白い膜が張ってた。それが遺体。もう動くことは無い。クロエは警官が帰った後、しばらくは両親の遺体の側に立ち尽くした。すると、慣れた。怖く無くなった。何も感じなくなった。それどころか愛しいとさえ思った。人形の様に。クロエは受け入れた。それが『遺体』である事を。遺体と同じなのだ。オリビアはその真実を受け入れた。ルイはまだ唖然としている様子だったので、オリビアが口を開いた。

「進みましょう。受け入れれば楽になる」

ハチはルイの肩をポンっと叩いた。

「そうだな……行こう」

 無数の柱に無数の通路。規則的に並んでいる。それはまるで大きな住宅街の様だった。「静かに!」

(ギャンッ、ギャンッ)

ノーマルアンドロイドが目の前に姿を現した。ルイ達は無数の通路を駆使してアンドロイドを交わす。ただし、不意をつけるものは、オリビアが処理した。

(メギャッ!バタン)

「エビの皮を剥く様なものよ」

アンドロイドの首はもげていた。

「オリビア、これ……」

「ん?」

ルイは柱の根元にある浴槽を指さした。何者かが浸っている。研究室とかにあるホルマリン漬け標本みたいだった。

「浴槽の横、数字が書いている」

浴槽の横には黒い文字で『No.1023』と書かれていた。

「私達にもナンバーがあった……」

「やはり僕達もこいつらと同じ、クルーなんだ」

「ルイ様、オリビア様!」

ハチが小声で叫んだ。

「どうした?」

「鉄の柱の色が変わりました」

ハチが指差す方向を見ると、さっきまで蒼かった柱は赤い色に変化していた。

「赤い色は危険だわ。さっき赤い色の柱にアンドロイドが群がっていた」

「何か理由があるんだ。確かめよう」

三人はその鉄の柱の向かいにある鉄の柱の陰に身を隠した。しばらくすると、二体のBAがやって来た。やはり赤い色の鉄の柱に寄ってきている様だった。すると、浴槽の中の液体が泡立ち始めた。

(ブクブクブクブク……)

するとその横にある浴槽も、連動して泡立ち始めた。まるで沸騰しているかの様だった。ルイとオリビアとハチは互いに目を合わせた。そしてやがて、鉄の柱が話し始めた。その声は、ルイとオリビアが聞いたことのある声だった。

(10ビョウマエ……)

(9、8、7、6、5、4、3、……)

「くそっ、あの声は……」

鉄の柱の声が大きかったので、ルイたちは小声で話した。

「あの声は聞いた事がある……」

「『死ぬ前』に」

(2、1、)

すると、緑色の浴槽から半人間が身体を起こした。

「ハァハァハァ……」

やがて、鉄の柱の4つの浴槽の人物が順番に身体をに起こした。

「だぁ……だ……えぇ……」

息が荒く、ろれつが回っていない。そしてBAが話した。

「おはようございます。No.1023、トム様。5903回目の起床です。数分後に『再接続』いたします。」

ルイとオリビアは目を合わせた。

「なんだって……『再接続」、今確かにそう言ったのか……」

「えぇ、確かにそう言ったわ」

すると、同じ柱で目覚めた他の者達も次々にそれを宣告される。

「おはようございます。No.1024、サラ様。5903回目の起床です。数分後に『再接続』いたします。」

「ねぇ、『再接続』ってそんなに早いものなの?」

「いや、俺たちは再接続まで『数時間』と言われた。」

やがて全ての者が目覚めると、一番初めに目覚めた者が話し始めた。

「おっ……ここは一体どこなんだ?お前らは誰なんだ!」

BAは何も話さない。No.1024は、浴槽から起き上がろうとした。しかし、案の定、腰に繋がっているケーブルのせいですっ転んだ。

「な……何なんだよこれはぁぁぁ!!」

No.1024はパニック状態に陥った。しかしそれは至極当然のことだった。もし前世が『特殊部隊』か『天才』出ない限りは、その状況を冷静には対処できないだろう。やがて、BAが話した。

「時間だ。『再接続』を開始する」

「な……は……何をする気だ……」

「No.1024、評価は『D』。よって、再接続は『D』より開始される。」

「再接続、開始」

BAが鉄の柱に付いている、タブレットを操作すると、浴槽から起き上がった者たちは、海底のモンスターに足を引っ張られたかの様に、浴槽に引き摺り込まれた。そして、波も立てず、静かになった。そして、鉄の柱の色は赤い色から蒼色へと変化した。BAは仕事を終えたかの様に、立ち去ろうとしたが、オリビアがそれを許さなかった。

(パシュッ、パシュッ!)

一体のBAは頭に穴が開いて、その場に倒れた。オリビアは自分の上着を脱ぎ、丸めてそれを銃にかぶせて、BAを撃ったのだ。消音。音を立たずに相手を撃つ時に使われる技である。そしてオリビアはもう一方のBAに銃を構えて話した。

「『再接続』とは、なんのことなの?」

BAは両手を上げた。その隙に背後に回り込んだハチが、BAの腰にある銃を奪った。

「これはこれは……驚きました……」

BAは冷静に話す。

「貴方、オリビア・アデッソですね?それにそこのコソ泥はただのノーマルロボじゃ無いですか……いや、驚いた」

「一体ここで何をしているのでしょう」

(パシュッ!)

オリビアはBAの脚を撃った。BAは力が抜けて、ひざまずいた。

「質問しているのは、こっちよ糞ロボ君」

「貴方に教える事は何もありません。とっとと殺るがいい」

「ですが……」

「『キャプテン』を怒らさないほうがいい」

BAはいきなり手を伸ばした!その手がオリビアの首元を捕らえるのよりも早く、オリビアはBAの脳天に弾丸を撃ち込んだ。

(パシュッ!パシュッ!)

BAはその場に崩れ落ちた。

「『キャプテン』……それが何者なのか、僕たちにはまだわからない……」

柱の陰からルイが出てきた。

「この柱、調べてみるよ」

 ハチはBAの遺体を調べている。ルイは鉄の柱にケーブルを接続して、手がかりを掴もうと試みた。オリビアはルイが調査を終えるまで、周りを散策した。どの浴槽にも人が沈んでいた。彼らもまた何も知らぬままに再接続されるのだろうと、オリビアは思った。そして何故自分とルイだけが、ここではなく別の場所で再接続されているのか、疑問に思った。その時だった。

「え?……」

地面に血があった。べっとりと付いていた。角を曲がった先に続いていた。引きずった様な後があった。オリビアは恐る恐るその血の跡を辿る。するといきなり、猛烈な匂いが立ち込めた。

「この匂い……知っている……」

その匂いは乾いた血肉の匂い。角を曲がると、あった。

「そんな……」

金魚鉢の様な大きな頭。同じ服を着ている。男だった。しかし、頭にはポッカリ穴が開いていて、向こう側の風景が見えた。

「これは……この穴の大きさは……『手』よ」

「何者かが手で脳天を貫いている……」

(ギャンッ、ギャンッ、ギャンッ)

「誰か来る……」

「もしかしたらこの人を殺した奴かもしれない……例の『キャプテン』なのかもしれない」

オリビアは銃を構えた。

「オリビア様!」

ハチだった。

「こ、これは!……」

「どうかしたのか?」

「ど、どうしたんだこれは!」

遅れてルイも到着した。

「何者かが、彼を殺したのよ」

ルイは遺体を調べた。

「亡くなってからかなり経つぞ……腐敗した匂いも薄れている」

「こんなの普通じゃあり得ないわ」

「人の頭を貫くほどの、腕力?これは『キャプテン』という奴の仕業か……?」

ルイは遺体の上着が自分たちの着ているものと同じだという事に気がついた。そして、胸元にはクリップでカードが付いていた。

ルイは遺体からカードを外して、手に取った。

「これを見てみろ」

ルイはカードをみせた。IDとパスワード、名前が書いてあった。

「ナンバー002、『ザビエル・ターナー』」

「ナンバー002ですって……」

「ルイがナンバー001、私が003、その間の数字、002……」

「ハチ、浴槽に浸かっている他のクルーのポケットにも、同じようなカードが付いているいるか確かめてきてきれないか?」

「了解ですルイ様」

「何か関係があるんだ……ナンバー002の彼だけが殺された理由が……」

「僕たちは……アンドロイドに捕まっても殺されなかった。殺せない理由か何かがあるんだ……」

「『PlanG』のRAがオリビアを生捕りにしようとしたのと、僕が『FMK』に投獄されたのも、僕たちを『再接続』するためだった……」

 ルイは念入りに、ザビエル・ターナーと思われる人物を調べる。

「何か他に残っていないのか……」

すると、上着の内ポケットに手を突っ込んでみるとある物が出てきた。

「これは……」

それは液体の入った薄い板のような物。

「記憶盤!」

「どうして彼も記憶盤を持っているの?」

「だいたい掴めてきた。だから殺されたんだ。秘密を知ろうとしたからだ。これもポセイドンで再生しよう。」

 するとハチが帰ってきた。

「ルイ様。他のクルーの方はカードを持っていませんでした」

「なるほど……つまり、ここにいるクルーと違って、この男を含めた僕たちは『特別』なんだ。何故か『ID』と『パスワード』を持っている。」

「そして僕らが生かされて、この男が殺される『理由』があるはずだ……」

「でも、今はまだ分からない……悔しいが」

「ルイ、鉄の柱では何かわかったの?」

「あぁ、それがさっぱりだ。僕達からじゃアクセス出来ない。ハッキングもできなかった」

「この男を殺した奴、私達をいかそうとしている奴、この『舟』のアクセス権を持つ人物……そいつがきっと、失われた真実の『黒幕』に違いないわ」

「『キャプテン』……最強のアンドロイド……」

「まだ決まったわけじゃないが、恐らく黒幕は『キャプテン』だろう」

「聞いた話では、キャプテンは四層目にあるコックピットにいるのだとか……あくまで噂ですが……」

「ともかく、ここにはポセイドンに関する情報はない」

「ここを抜けて次に進もう」


 地図上で『モール』と書かれた大きな空間は、クルー保存区の同等程度の広さだった。クルー保存区を北側にずっと進むと、南側と同じように汚染除去トンネルが存在する。そこを抜けた先が『モール』である。

(プシュゥゥ)

重い扉が開く。

「眩しい……」

そこはクルー保存区の薄気味悪い、夏の夕暮れどきの色とは違い、真夏の海のような、燦々と輝く太陽が照りつけるように、明るい空間だった。

「これは……驚いたな……」

どこまでも広い。明るいせいもあるのか、クルー保存区の何倍も大きく、広く見えた。

「ルイ……あれ……」

オリビアの指差す方向にあったものそれは、

「木ですね……」

ハチが話した。

「あれが『木』というやつですね……」

そこには真四角のレンガの鉢に植林された木が植えられていた。よく見ると至る所に木が植えられてある。

「そうだ、あれが木だ。ハチは木を知ってるのか?」

ハチは無表情だ。しかし、何故だかハチが少し悲しげな顔になったようにルイは感じた。

「オリビア様です。」

「私?」

「いえ、正確には『ハンナ』様だった時の……」

「その時のオリビア様が私にこう話してくれました。『私の生きていた世界には茶色い柱に緑の毛を生やしたような『木』と言う植物があって、四季折々で姿を変えるの』と。」

「私は自分がアンドロイドである事に嫌気を覚えていたのです。どうして生まれたのに、機械なのだと……何故自分の好きな事をして生きてはいけないのかと。だから私は、『私は変化しないただの機械です』と、そう話したのです。するとオリビア様がこう話してくれたのです。」

「『それは違うわハチ。貴方は素晴らしいのよ。嫌なことは、しなくていいの。貴方は、貴方らしく色々な『色』を見せればいいの。そうね……『木』みたいに。木はね、四季折々で色々な色を見せるのよ。でも冬が来ると枯れてしまう。でも、それは終わりじゃないのよ。名一杯、自分の好きな色を表現したら、枯れて、その色あせた枯れ葉は散って、次の葉の栄養となるの。だから、ハチも色々な色を持っていいのよ。好きなように生きるの。そしてそれは、無駄ではない。』」

「『だからね、貴方の名前、二つの理由がある。私の愛犬『ハチ』って意味と、それから、日本語で植木鉢は『ハチ』って言うの。私、日本に興味あったから、少しだけ日本語が分かるのだけれど、だからね、ハチ。貴方は『鉢』なのだから、そこに大きな木を生やして欲しいの。誰にも負けないような、綺麗な色の。』」

 ハチは、木に触れた。

「あの時のオリビア様はもういません。私にとってあの時のオリビア様は『母親』のようなもの。だから、彼女が最後まで求め続けた『真実』を、私は明らかにしたいのです……」

「それが私の『夢』なのです。」

小さな空間で生まれた、小さな機械は夢を持った。その規模はあまりに小さいかもしれないが、あまりにも大きく見えた。

 オリビアはハチを抱きしめた。あの時のオリビアでは無い。でも、まぎれもなくオリビアなのだ。

「私達で絶対に『真実』を突き止めましょう」

ルイは木の葉を一枚引きちぎり、ハチの頭にペタッと貼り付けた。

「お前はもう立派な『木』だ」

何故だろう、なぜか暖かい。ハチはそう感じた。これが『愛』なのだろうかと。ハチはまるで自分はルイとオリビアの子供であるかのようにも感じ取れた。

 (シュワっと美味しい、この味は!)

いきなり大きな音が『モール』に響いた。三人は警戒して身構えたが、やがてその音の原因が分かった。

「あれ、見て!」

オリビアの指差す方向に、大きなスクリーンが空中に映し出されていた。それは炭酸飲料のCMだった。

「あれはなんだ……」

一行はスクリーンまで近づいてみる。すると、スクリーンが反応した。

(ようこそこちらは『モール』です。長旅の疲労を是非こちらでリフレッシュして下さい。ご用件は何でしょう。)

「わお、これは驚いたわね。映画でしか見たことないわ……本当にこんなのあるのね」

ルイが話した。

「ここはどうゆう場所だ。もっと具体的に話してくれ。」

(かしこまりました。こちらは、『イタニムスリーのクルー専用モール』です。娯楽設備、バー、クラブ、フードコードと言った様々なサービスを無料で提供致します。)

「イタニム……スリー?何なんだそれは……」

「イタニムスリーとは、何なんだ?」

(ようこそこちらは『モール』です。長旅の疲労を是非こちらでリフレッシュして下さい。)

「おい、聞いてるのかイタニムスリーとは何だ?」

(エラー。その質問には『まだ』アクセス権が下りていません。)

「ポセイドンはどこにある?」

(エラー。その質問の回答は存じ上げません)

(ようこそこちらは『モール』です。長旅の疲労を是非こちらでリフレッシュして下さい。)

「駄目か……『イタニムスリー』、恐らくこの『舟』の名前……」

「あそこ、あれってバーじゃない?」

そこにはビールの看板に『BAR』と書かれたお店があった。

「行ってみようか」

 バーの中は典型的なバーだった。

「あれ、アンドロイドよ」

バーカウンターの内側に、フォーマルな格好をしたノーマルアンドロイドがうつむいたまま立っていた。アンドロイドのバーテンダーだ。

「いいわ、銃、構えておくから。」

ルイはバーテンダーに近づいた。バーテンダーは動くそぶりを見せない。ルイは話しかけた。

「おい……」

無反応。

「おい、聞いてるのか……」無反応。

「駄目だ、動かないぞ」

ルイはキーボードをバーテンダーに接続させた。

「妙ですね……動かないなんて」

ハチは不思議そうに辺りを見渡した。

「そもそもこのアンドロイド、電気すら通っていないぞ。」

「予想外だったんだ。ここは本来まだ人が来るべき場所じゃ無い、とか」

「先ほどの案内板、『長旅の疲労をリフレッシュ』とかなんとか言っていましたね。」

「なるほど……じゃあここは、クルーが使う場所?『再接続』までの時間に……か?」

「いえ、何か変よ……」

オリビアが後ろの方から話した。

「何が変なんだ?」

「これ、見て。」

オリビアが指差した四人がけのテーブルには、二つのグラスが置かれていた。

「まだ新しいな……」

ルイはグラスを嗅いでみた。

「ウィスキーだ。」

「えぇ、でも一番の謎は、どちらも飲まずにテーブルに置いてあるわ……」

ルイはテーブルに飛び散った水滴を見て話した。

「これはつい最近、注がれている……」

「何者かが、最近ここでウィスキーを入れたんだ……しかし、飲んでいない。」

生温い風が吹く。

「アンドロイド?……」

「ハチ、アンドロイドは酒を飲むのか?」

「いいえ、アンドロイドは水分も食事も取りません。」

「ですが……」

「『キャプテン』と言われるアンドロイドは、限りなく人間に近いと聞きます……あくまで噂話ですが」

「『キャプテン』がここに来ていた……だがどうして二つもグラスがあるんだ……」

「黒幕は『二人』、いるのかもしれない……」

「くそ……」

「ウィスキー……」

ルイはバーにあるウィスキーを確認した。

「全て空だ……」

「ルイ様、裏にある倉庫はどうでしょう」

そのバーは裏方に酒の貯蔵庫があった。

「おいおい、なんてこった」

酒の貯蔵庫の中には空の酒の瓶が散乱していた。

「一体、いつから飲み始めたらこんなにたまるんだ……」

「アル中でも100年はかかるぞ……」

「何者かがいつもここに来ている……」

生温い風が吹き抜ける。


(ギャンッ、ギャンッ、ギャンッ、)


「待って、誰かがこっちに来るわ!!」

「隠れろ!」

三人はとっさに、カウンターの裏へと身を隠した。その人物はバーの扉を開けると、話した。


「マスター、元気か?プレゼント、決まったんだ。明日にでも、買いに行こうと思う。」




           Episode15に続く

         


 



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