THE FACT 6000回死んだ男が見た世界13話
THE FACT 6000回死んだ男が見た世界13話
Episode13 オキュパー襲来
遠くの星を見つめて少年は目を輝かせた。
「どこか他の星にも僕達みたいな生命がいるのかな」
少年は毎晩夜空を見上げては、自分のちっぽけさを感じた。
「もし彼らに会えたなら、僕は友達になりたいな」
少年の頃、あるいは少女の頃、描いた夢はとても希望に満ち溢れていた。純粋に、夢が実現すると信じていたからだろう。スーパーヒーローやサッカー選手、歌手に、お医者さん。私達はいつからそれらを、容易になれるものでないと、決めつけるよになったのか。単純に賢くなったのか、あるいは愚かな考えなのかは、本人にしか分からない。だが、最終的な結果で合理化に至るのが大概だろう。そんな中、少年はずっと夢見ていた。青年になっても。成人になっても。ただ一つ、
「いつか宇宙に行って、星々を旅する」と。
少年は真面目だった。秀才だった。家庭も安定していた。そんな彼に陰が見え始めたのは中学生になった頃だった。純粋な少年の心に亀裂が出来たのもその時だった。
夏のある日。少年は毎晩のように星を観察して、ノートにそれらを記録していた。それが少年のとびきりの楽しみだった。しかし、事件は急に起きた。教室に入ると、他の生徒達がまるで極悪非道な犯罪者が刑期を終えて出所して来た、と言わんばかりの眼差しを少年に向けた。少年は分からなかった。何故皆がその様な顔をするのかを。ある者は耳元に手をやり、ある者は突き刺さる様な眼差しを少年に向けた。そして見覚えのある顔のよく肥えた少年が近寄って来た。
「前はよくも恥をかかせてくれたな。今日から学校が楽しくなるだろうぜい」
純粋な少年は思い出した。この太った少年はクラスの女の子をいじめていた、いじめっ子だった。クラスの皆んなはいじめを見て見ぬふりをする。勿論、自分が次の標的になるのが嫌だからだ。さらにはいじめられている人を気の毒な人だと思い、挙げ句の果てには、いじめられている方にも、どうにかして問題点を見つけ出し、合理化する。あの子は顔が整っていないからな、あの子は滑舌が悪いからな、あの子は気が弱いからな、仕方がない。仕方がない、だから私は無関係ですと言わんばかりに。
少年は純粋だった。少女がいじめられて困っている、だから助けるのだ。その時、いじめっ子の小太りとその子分どもは、女の子にこう言った。
「なんだこいつ、いつも同じ服着てるじゃねえかよ。なんだか臭うと思ったんだよな」
クラスメイトは黙り込む。しかし、少年は純粋にこう話した。
「同じ服を着ている事は対して問題じゃないよ。唯一の問題は、同じ服を着ていないのに何故か匂う君の汗だよ。」
(クスクスクス……)
数人のクラスメイトが笑う。ただ少年はいじめっ子を打ちのめすだけでなかった。
「でも僕の愛犬が鳴き止まない理由は、僕の口臭みたい。どうやら僕の方が問題みたいだね」
(クスクスクス……)
いじめっ子の子分も数人笑う。
「おい!」
いじめっ子が子分をビンタする。
「ご、ごめん。」
なるほど。それが原因か。少年はいじめっ子が話した言葉の意味が気になった。
「今日から学校が楽しくなるだろうぜい」
その疑問がすぐに解けた。普段真面目な女の子が近寄って来て話した。
「あんた、アンナのロッカーにスプレーで『失せろ』って描いたらしいじゃない!真面目でいい人だと思っていたのに、がっかりだわ!」
少年にはさっぱり分からなかった。
「僕が?そんな事するわけない!」
誰も耳を貸さない。教科書で習った歴史を洗脳されたみたいに。もちろん黒幕は誰かは分かる。だが、どうしてこんなにもクラスメイト全員が満票一致なのか。
「証拠はあるのか?」
少年は聞いた。いじめっ子が話した。
「言ってやれよ、ショーン!」
ショーン。ショーンはクラスの中で一番真面目な生徒で、クラス全員が一目置くような存在だ。
「ぼ……僕は昨日の放課後、君がスプレーで落書きするのを見たんだ!……」
ショーンは長年愛された犬が突然捨てられて、人間を嫌い、怯えているような目つきで話した。少年は理解した。ショーンはいじめっ子に脅されいる。ショーンは気が弱い。それを利用された。虚偽の噂を広められたのだ。
それから、クラスメイトの皆んなは少年を獣扱いした。前に助けてあげた少女でさえも。少年は本当に何もしていなかった。百パーセント何もしていなかった。しかし、一度根付いた偏見は中々取れることはない。特に多数派の偏見は。
少年は胸を痛めた。この世にこんなにも理不尽な事があるのかと。
少年は耐えた。そんな周りよりも、少年は宇宙に夢中だった。家に帰って、夜空を見上げれるならどんな理不尽だって乗り越えられる、そう思った。しかし、事件が起きた。
昼休み、自分のロッカーを開けると、まず入っていたのが、ズタズタに切り刻まれ、綿が飛び出たエイリアンの縫いぐるみ。完全に、宇宙好きの少年を馬鹿にしていた。しかし、もっと酷かったのはこの後。少年のいつも持ち歩いている星の観察ノート。それをめくると、全てのページがマジックペンで真っ黒に塗りつぶされていた。
少年は泣いた。こんな理不尽があるものか。自分が何をしたのか。少年は先生に相談する事にした。
しかし、これらの理不尽な一連の出来事を
先生に話すと、驚きの言葉が返ってきた。
「気持ちは分かるよ。でもねえ、アンナのロッカーにスプレーで落書きするのは良くないよ。」
叱られた。叱られたのだ。先生は一体誰の気持ちが分かったのだろうか。少年は心臓にナイフを突き付けられている様な感覚になった。そして口を開いた。
「僕がやったんじゃありません。」
そして次の先生の一言が少年の心臓を突き刺した。
「いいかい、もしやってないなら君はこんな目にあわないだろ?」
先生ですら、信じなかった。信じなかったのだ。多数派の偏見が正しいと。多数派の意見こそがこの世の正義なのか?この一言だった。この理不尽だった。この瞬間、少年の心の中に、陰ができた。純粋だった少年の心に亀裂が入ったのだ。
数ヶ月して、いじめっ子の小太り少年が死んだ。死因は毒殺。殺人だった。しかし、なぜか犯人は捕まらなかった。しばらくして、いじめっ子の埋葬が行われた時、クラスメイトが参列した。もちろん少年も。
少年は泣いた。
「君は確かに最低だったけど、いい奴でもあった…… たまに皆んなを笑かしてくれたし……」
一連のしきたりが終わると、少年はくるりと背を向け、帰ろうとした。その時、少年の顔つきが変わる。ニタリと不敵な笑みを浮かべて、人気のいないところに来ると、急に叫び出した。
「ざまぁぁみやがれこの糞デブビチ糞野郎がよ!!死んで当然だろうがよ!!最高だったぜ、泡を吹いて倒れる豚をみるのはよお。うぷっ、うははははは!!殺してやったぜ!!誰もこんな少年が犯人だとは……」
「はっ……」
少年の顔つきが穏やかになる。
「うっ……いじめっ子とは言え、もう彼に会えないのは寂しいな……」
この時、初めて少年の陰がでた。少年は純粋な自分と、陰の自分を持つようになったのだ。
それが初めて観測されたのは、2020年だった。しかしそれは公には公表されなかった。理由は、全世界がパニックになるからだ。各国のトップや、科学者は知っていた。しかし、一般市民に公表するにはまだ早かった。
「どうしましょう……」
「どうもこうもない。国家機密だ」
「一刻も早く、全国のトップを集めろ」
「了解しました。」
表向きは、地球の開発資源の持続に関するサミット。しかし、裏向きは……
(ギィィッ、ガッシャンッ)
重い扉が閉まる。警備体制は最高レベル。
「ゴホンッ。」
100ヶ国以上。敵対国やら、戦争中の国ですら停戦。あり得ない事態。それだけまずい事態。
「ゴホンッ……それでは始めましょう」
あり得ないほど長いテーブルの先にある、演説台に乗り、マイクを握ったのはアメリカ大統領。この表向きサミットの統治役。
「この度、お集まり頂いたのは他でもない。非常事態だからです。」
各国の大統領やら頭やらが真剣に耳を傾ける。
「正直、この問題はもはや、地球規模の問題です。言わずとも耳に入ってはいると思いますが……」
「今年の冬に、かなりの勢いで地球に向かって来ている、小惑星を発見しました……」
「そしてそれらは巨大な小惑星と思われたのですが……観測を進めると『マザーシップ(舟)』である事が分かったのです」
(ざわつき)
「どうか、お静かに」
ロシアの大統領が口を開いた。
「つまりエイリアンが地球に?」
「まったく信じられない話だが、そのようですな……」
中国の大統領が話す。
「もしそれがキョンシーだとして、地球に来るのはいつ頃でしょうか」
「その事ですが……最初は速度と軌道の単純計算で、50年と見積っていました。しかし……」
「しかし何だね?」とイギリス代表。
「今年に入り、一瞬にして加速したのです。加速と言うよりはむしろ、瞬間移動。つまり、早くて後5年というところです。もちろん、もっと掛かる可能性もありますが。」
(ざわつき)
「何があるか分からない……万が一に備え、軍を設立したい。そして……もしかしたら『時』が来たのかもしれん」
全国のトップが顔つきを変えた。
ロシアが話す。
「円盤兵器か……」
「それもある。市民に公表しなければ、抵抗がつかない。」
「『ノア』を出すのですか?」中国が話す。
「その名前を口にしないでくれ。」
「マヤの示す、運命の日かもしれない」
全員が真剣な顔になる。
「各国から優秀なクルーを選別しよう……本当に優秀でなくてはならない。そして……ピラミッドの準備に取り掛かろう。宇宙の笛も用意してくれ……」
「我々は各国合意の元、全世界で協力し、国際宇宙連合軍を結成する。意見のあるものは?」
誰もいなかった。
「よし、それでは合意。」
それから地球では戦争が激減した。犬猿の中であるはずの国ですら、手を取りあった。そしてメディアに少しずつ、エイリアンに関する情報が公開された。
地球に向かって来ている舟は『オキュパー』と名付けられた。しかし、現時点ではまだ、一般市民に公表される事は無かった。
エジプトのピラミッド。それは多くの研究者が探究する、パンドラの箱。
ある日の事、エジプトのピラミッド周辺と街が一時的に封鎖された。
「どうかね……そっちのクルーは集まっているかね?」
アメリカ大統領だった。
「ぼちぼちというところです。候補までふるいを掛けているところです。」とロシア大統領。周りには、様々な国のトップ。
「お、来た来た。紹介しよう。我が国のクルー候補、ゲイリーだ。」
「はじめまして、大統領。ゲイリー・コーズウェルです。」
「見事なロシア語だ」
「光栄です、大統領。」
「こちらこそ光栄だよ。君が『ピラミッドの謎』を解いたのだろ?」
「使い方だけです。」
「誰がどう考えたら、ピラミッドが『設計図』だなんて分かるのだ。君は天才だよ。」
「僕はただ、『星を観るのが好き』なだけです。それが謎を解く鍵だった、ただそれだけの事です。」
予想通り、オキュパーは襲来した。一般人に公表されたのは、襲来のわずか5年前だった。治安の悪化、心の準備も含め、その期間に公表するのがベストだったのだ。
一般市民はオキュパーの襲来をテレビやネットなどで知る事となった。そしてそれは大規模な発表となった。メディアを一時的に独占し、全ての国で同時生放送が行われた。そして、発表の内容はあまりにも衝撃的なものだったので、怒った市民がデモ運動を起こすなどという事態にまで発展した。内容はこうだった。
「ではまもなく、全ての国を代表してアメリカ大統領が重大発表を行います。」
(フラッシュ音。)
「皆様、こんにちは。今回はこのような形で、いきなりの発表で申し訳ない。」
(フラッシュ音。)
「あまり長い話にはしたくないので、単刀直入に伝えようと思います。」
その瞬間、全世界のあらゆる人種の、あらゆる民族の人々が一斉に耳を傾けた。そしてそれは、急に目の前に幽霊でも現れたかのような、ドキリとしたショッキングなニュースとなった。
「NASAの調査によると、5年後の今日の日付に、大きな小惑星が地球に衝突する危険が浮上しました……」
(ざわつき)
(フラッシュ)
恐らくこの発表の時、地球上の全ての人々の心臓がドクン、と震えたに違いない。しかし、大統領は気にする事なく、続けた。
「さらに、もしかすると、それらは小惑星でなく、大きな宇宙船である可能性があるのです。」
「信じられない人もいるでしょうが、恐らく、舟の中には異星人が乗っているでしょう……」
町が、国が、世界が、ざわついた。
「我々は出来るだけ、友好なスキンシップを図る予定ではありますが、恐らくは大規模な『戦争』に発展する可能性もあります。」
この会見は全ての国で、母国語に翻訳され、中継された。取り乱す者、興奮する者、信じない者、喜ぶ者と、色々な人々が生中継に釘付けになる。会見はまだ続く。
「そこで我々は、最悪な事態を間逃れる為に、2つの策を講じようとするつもりです。その最悪な事態とは……」
それはもちろん、誰もが不安に思っている事だった。
「最悪な事態とは……『人類が滅亡』してしまう事です。』
「一つ目の策は、相手を交戦的だとみなした場合、全国の力を集め『応戦』する事です。これはその通りです。」
「二つ目は……信じがたい話ですが、相手の勢力がこちらより上手で敵わない場合、こちらが用意した『舟』を使い……」
「『地球を脱出します。』」
全世界が驚いた。そしてそれは本当に全米を驚かせるほどの映画のスケールを超えていた。
ここまでならデモ活動などは起きなかっただろう。だが、次の一言で民間人は顎を落とす事になる。
「離脱用の宇宙船はすでに数年前に完成しています。宇宙船の名は……」
「『ITANIMU-III』」
「移住型宇宙船です。」
大統領はイタニムスリーの大きな写真を見せた。
とてつもなく大きなボディ。長さの単位はメートルではなく、キロが妥当だろう。それはまるで、超巨大なラグビーボールさながらだ。船体の色は真っ白。側面にはチーズの穴の様な丸い窓。遠目でみるとオカリナみたいだ。船体の中央には、ドーナツ型の大きな輪の様な物がついている。まるでラグビーボールに浮き輪につけた様な感じだ。このいわゆる浮き輪が回転する事で、重力を生み出すらしい。さらに、ラグビーボールの先端は透明なガラスになっていて、操縦席らしかった。後はデザインなのだろうか、船体の上部に先の尖った三角形が乗っかっていて、船体下部に付いている、二方向に足を開いた柱と綺麗にマッチしている。ゆうなれば、アルファベットのVを逆さまにした様な、そのような柱が、ラグビーボール全体にぶっささっているような感じだ。
しかし凄いの方の驚きが終わり、次に発生したのは、信じられないの方の驚きだった。
大統領が続けた。
「さらに、この舟に乗り込む『クルー』も既に『決まっている』。定員は動植物を抜いて2万人程度だ。」
「まずは技術者だ。移住先の星で生きていけるだけの、文明を築くだけの、技術者だ。
動物学者、医者、獣医、気象学者、物理学者、科学者、天文学者、宇宙船技術者、色々だ。」
「主に、技術者だけで1万人を予定している。
そして、一般の市民の人々も1万人を予定していて、既にクルーも決定している」
世界中が騒ついた。
「クルーはこちら側で選抜させて貰いました。すでに全世界の各国から、選抜されたメンバーに政府関係者がお話に伺っているかと思います。人数の比率は男性と女性で5対5。まず条件として、20歳以上35歳未満である事、犯罪歴がない事、病を持っていない事、が審査基準となります。」
世界中が怒った。差別だという意見や、子供を連れて行かないのは非人道的だとか、金持ちを優先しているに違いない、など色々である。
大統領は続けた。
「まず始めに、クルーに子供を選抜する事は出来ません。舟の中では特殊な装置で、身体を仮死状態にして冷凍します。しかし、仮死状態では、子供に負担がかかりすぎるのです。」
「以上の条件を踏まえて、二次審査を行い、選抜された者がクルーとなります。」
「二次審査の内容は、SNSによるものです。我々は過去20年に渡る、SNSの通信記録を調査し、乗船に適しているかを判断しました。
まず、暴言等の投稿した記録のある者、性的な犯罪を疑わせる記録のある者、一日のSNS使用時間が平均して4時間を超える者、さらにインターネット上の過去の検索記録から、犯罪を疑わせるもの、ポルノ及び不適切なコンテンツの検索記録が多いもの、は乗船条件外とさせていただきます。」
「多くの人々は、我々がSNSからデータを引用した事に対して、プライバシーの自由が尊重されていないとお思いでしょう。しかしながら、それは間違いでもあるのです。それは何故か……あなた方は既に『同意』しているからなのです」
「SNSを代表するアプリケーションをインストールする時に、最後まで契約内容に目を通して同意したものは何人いるでしょう。そう、あなた達はSNSのサービスを利用するのと引き換えに、情報を提供していたのです。」
「SNSは娯楽ではなく、今日発表した日のような事態に備えての、万が一の『選別』だったのです。」
全世界の国民が驚き、目の前で人がひき逃げされたかのような気分になった。
「しかしながら、安心してください。『移住』はあくまでも最悪のケースです。和解だってあり得るかもしれません。そしてもし仮に侵略されるとしても、我々人類は決して屈しません。」
「以上です」
あまりの衝撃、あまりのショックの連続に人々は混乱した。会社を辞める者、犯罪を犯す者、恋人と復縁する者、金を散財する者も増えた。今まで永遠に続くと思われた、人類の繁栄が途絶えるかもしれない恐怖に人々は怯えながら、1日を噛み締めて生きた。
4年と半月。4年と半月だった。4年と半月で、本当に『オキュパー』は地球に襲来した。
人類は希望を持っていた。少なからず、話し合えると。しかし、そんな希望も虚しくオキュパーとの交信に使うために製作された人工衛星は、オキュパーから放たれた閃光によって破壊された。オキュパーの住人は、もっぱら話し合う気などなかったのだ。
茹で卵、その表現が一番ふさわしい。実際、オキュパーは途方もなく巨大な真っ白い茹で卵にそっくりだった。窓だとか、入り口だとかそんなものすら見当たらない。オキュパーは太平洋の海の上に直立不動で静止した。最初の二日間はまったく動かなかった。動かなければ、海の上に浮かぶ近代アートだった。人々は、手を取り合って喜んだ。助かったと言わんばかりに。そんな中、最悪な事態に備え、既に宇宙船のITANIMU-IIIは発射準備が整っていた。そして、運命の日が訪れた。
午前3時21分。地鳴りがなった。オキュパーと周りの海が持ち上がり、全世界で大地震が起こった。そして、オキュパーは一瞬にしてボディに大きな真っ黒い穴を、開けたのだ。まるで水面に落ちる水滴の波紋のように、真っ黒い穴が空いた。そして、中から小さな宇宙船が数百機以上出てきたのだ。まるでオキュパーは蜂の巣のようだった。次から次に、小さな宇宙船を吐いた。まるで囲碁の白い囲碁石のような、そのような宇宙船を。その小さな宇宙船が液体のようなものを地面に垂らすと、たちまち核爆発が起きた。たった一滴で、地球に大きなクレーターができたのだ。
大統領が言った。「やむ終えん……」
「これより戦闘を開始する。標的はオキュパー及び、その小型戦闘機。」
「そして……予定通り、ITANIMU-IIIを発射する」
イタニムスリーのクルーたちは、オキュパーが襲来する1年前から召集され、船内での生活を始めた。その間、どのように他の惑星に移住するのか、犯罪が起きたらどうなるのかなどのレクチャーや緊急時の対応を学んだ。その舟が今、発射しようとしているのだ。
「なぁ、怖いか?ゲイリー。」
「あぁ、怖いとも。『ルイ』は平気なのか?」
「平気なわけない。怖いに決まってる。」
「『オリビア』君は?」
「私もよ」
「何だって俺たち『五人』がクルーリーダーなんだろうな」
「黙ってなさい。ターナー。」
「俺たちが人類の希望なんだ」
(ゴゴゴゴゴゴゴ!)物凄い振動。
(イタニムスリー、発射5秒前)
その日、一夜にして何千年も繁栄してきた歴史に終止符が打たれた。そして、オキュパーから降りてきた者は二つの卵と一つの大樹を地上に残して地球を去った。降りてきたものは、鱗を身体にまとった細目の二足歩行の生命体。やがて、卵からは人間が生まれた。男と女だった。
「ハッ!ハァハァハァ……」
男は目覚めた。男は液体の入った浴槽から身を起こした。
(ギャンッ、ギャンッ、ギャンッ)
すると、浴槽の男の方に誰かが近づいてきた。そいつは身長が2メートル近くあり、ガタイはゴツく、全身メタリックだった。ボディには006と数字が刻印されている。そいつは『キャプテン』だった。
「おはようございます。100年ぶりです。」
キャプテンは流暢な英語を話した。すると、男も話した。
「夢を見ていたようだ。どこか懐かしく、どこか悲しい夢を。」
「お元気そうで何よりです」
キャプテンは用意していた水を男に差し出した。男はゆっくり立ち上がり浴槽から身を乗り出すと、水を飲み干した。そしてキャプテンの顔をまじまじと見て話した。
「『ルイ・シーラン』と『オリビア・アデッソ』はきちんと『再接続』したか?」
キャプテンが答えた。
沈黙。
「申し上げにくいのですが……現在、ルイ・シーランとオリビア・アデッソは消息不明です」
しばらく間があった。殺人現場を目撃した少年みたくに。
「どこにいるか分からないと?」
キャプテンは頭を下げながら話す。
「オリビア・アデッソは『PlanG』を潜り抜け、ルイ・シーランも一度は『FMK』に入れましたが、逃げられました……」
「……」
男は黙っていた。そして間を空けて話した。
「そうか……仕方ないな。誰にだってミスはあるもんだ……」
男は近くにあった球体の椅子に腰掛けた。男の背後は巨大なガラス張りで、外には漆黒の宇宙が広がっていた。男は椅子に座ると、いきなり顔つきが変わった。
「そうだキャプテン、『オリビア・アデッソ』と『ルイ・シーラン』は『再接続』したのか?」
キャプテンはうつむいて話した。
「……先ほどもお話したのですが……二人とも消息不明に……」
男は瞳孔を開いて、キャプテンを睨みつけて話した。
「逃したのか?」
「申し訳ございません」
「そうか。こっちにこい」
キャプテンは男の方に近づいた。
「冗談じゃねぇぞこのボケがぁぁぁぁ!」
(バゴンッ!)
男の腕は両腕とも機械だった。その腕はキャプテンの頭を貫いた。そして男はキャプテンを軽々しく持ち上げると、頭と身体を二つに引きちぎった。想像できないほどの腕力だった。そして男はキャプテンの頭をサッカボールのようにリフティングし始めた。
「俺は今からどうすると思う?」
男が訪ねた。
「申し訳ございません……」
頭だけになったキャプテンは何事もなかったかのように、話す。
「質問しているんだ。答えろ」
キャプテンは答えた。
「私を殺すつもりですか?」
男はニヤリと不敵な笑みを浮かべて言った。
「あぁ。」
そういうと、男は近くに置いてあった工具箱の横に並べてあった、製図用の定規を数本手に取った。それを見るや否や、キャプテンは叫んだ。
「あぁ……どうか!お許しください。死にたくありません……」
「それはナンセンスな命乞いだな」
男は立ち上がり、キャプテンの切り離された胴体の右腹と左腹に定規をぶっ刺した。
(ギャウフッ!ギャウフッ!)
「ぬわぁああ!」
キャプテンは叫んだ。
「ハハハハハハハッ!痛いか?」
「そりゃそうだ。半分『人間』だもんなぁ、お前は」
「だから『死』に対する恐怖も人間と似てるだろうに」
「お願いです。もう一度チャンスを下さい」
「んーそうだな……仕方ない……分かった」
「さよならだ」
(ギャウフッ!)
男はキャプテンの脳天に定規をぶっ刺した。すると、キャプテンの目から光が消えた。
「おい!誰かいないのか」
(ギャンッ、ギャンッ)
歩いてきたのはBAだった。
「はい」
「キャプテンから記憶版を抜き取って、あたらしいボディに替えてこい。006は死んだ。007にしてこい」
「かしこまりました」
男は球体の椅子に腰掛ける。すると、また顔つきが変わった。
「あれ……おかしいなぁ、キャプテンはどこに行ったんだろう」




