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THE FACT 6000死んだ男が見た世界12話

THE FACT 6000回死んだ男が見た世界12話


Episode12 隠された記憶


 「ココデナニヲシテイル」

その一言で、背筋が凍るように固まった。

「まずい……BAだ。ばれてしまう……」

BAはルイのアンドロイドの手を不思議そうに見る。

「ソノ手、何カ持ッテイルノカ?」

その手には折りたたみ式のキーボードを持っている。

「くそ……」

ルイは出来る限りキーボードを見えないように後ろに隠した。

「見セロ」

普通の人間なら口でなんとかなる。だが、ルイのアンドロイドは遠隔操作では話すことができない。キーボードはもちろん、さっき殺めたアンドロイドの遺体もすぐ横の通路の影に隠してある。

「妙ナ奴ダナ。初期型ノクセニ」

やはりBAも初期型を見下しているらしい。優れたものは劣ったものを見下すものだ。

「話シタラドウナンダ」

アンドロイドによるアンドロイドへの尋問。言語は英語。これは滅多に見られない光景。いわば滑稽。しかし、そんな余裕はルイにはない。

「くそ……こいつも殺るしかないのか……いや、BAは性能が良すぎる……勝てない……」

この妙な間にすぐに終止符が打たれた。

「ルイ・シーランダナ?」

(ドクンッ)

心臓がものすごく早く鼓動する。

「まさか!ばれたのか?そんなはずは……」

「何ヲ言ワレタタンダ?」

沈黙しか出来ない。しかしその場ではそれが返って怪しませる。

「話セナイノカ?……マサカ……」

ルイの鼓動がさらに早くなる。名探偵が最後の推理を終え、犯人を発表するときの、犯人の心境が初めて理解できた。つまり、

「終わった……」

「ハッキングサレタノカ?」

「ソウナンダナ?」


「くそったれ!」

ルイは操作パネルを思いっきり左にスライドさせた。するとルイのアンドロイドは思いっきりバランスを崩し、バナナの皮を踏んだかの如く盛大にずっこけた。その拍子に左手に持っていたキーボードを遠くに滑り投げた。

「何ヲシテイル!!」

BAは腰についているピストルを引き抜いた。銃はルイのアンドロイドを捉えている。どうやらすっ転ぶ動作が大きかったおかげで、キーボードには気づかれなかった。

「くそ、やむ終えない……」

ルイはパッドを入力した。

「妙ナマネヲスルナヨ。」

そして手をゆっくり操作する。そのまま右手を頭に持っていく。そしてポーズをとった!それはいわゆる『やっちゃった!』と言わんばかりの、茶目っ気たっぷりのポーズ!!


「……」


沈黙。

「頼む……ジョークだよジョーク……頭いいんだろ?」

そしてルイは一旦、アンドロイドのハッキングを解除した。アンドロイドに意識が戻る。そして話した。


「ココデナニヲシテイルノデスカ?」

思いっきりのブーメラン。むしろそう言いたいのはBAの方だ。

「……」

BAはしばらく沈黙して話した。

「ソレ、本気ナノカ?」

ノーマルアンドロイドが話す

「ソレヨリ、早ク警備ヲシナクテハ。」

またしばらく沈黙が続く。

「頼む!……」

ルイは祈った。

すると、BAは銃を腰に戻して話した。

「最近ノバージョンノ奴ハ『ジョーク』モ言ウノカ。」

「勝った……」

「まるで最近の若者は、生卵を飲むのか。」と言わんばかりの支離滅裂な解釈である。しかし、BAの知能の高さが招いた奇跡とも言えるだろう。

 やがて停電が解消され、すべての監視カメラとエレベーター、照明が復旧した。そしてアンドロイドは今まで通り巡回を開始した。一つ気になるのは、サーバールームに隠したアンドロイドの遺体だが、見つからないのを祈るしかない。

「はぁ……どうなるかと思ったが、結果オーライか」

「このフロアのだいたいの地形が分かった。後は計画をしっかりたてるだけだ。」

アンドロイドの周回は相変わらず三体で行われている。しかし、さっきの一件で巡回の順番が変わってしまったので、ルイはもう一度パターンを確認した。

「さてと……計画と言ってももう9割は完成している。後する事といえば……」

「この独房のパスコードを手に入れる事のみ……」

ルイはタブレットをタップした。するとそこにはカウントされているタイマーが表示されていた。どうやら計画は順調らしい。

「さて、肝心のパスコードだが……それを確認するには、パスコードを入力するところを直接見なければならない。つまり、ノーマルの奴を再びハッキングして、何らかの方法でBAにパスコードを打たせなければならない。」

「どうすれば……」

「そうだ!いいことを思いついた」

エウロパに解決できない問題などない。


 (ギャンッ、ギャンッ)

アンドロイドが歩いてきた。そしていつものように独房の前で静止する。その時だった。

「なぁ、聞きたいことがあるんだが」

ルイが話した。BAだった。このままだと無視されそうだったので、続けて話す。

「ここから脱出してやる」

ルイはそう言った。するとそれに乗ってBAが話した。

「猿二ハ出来ナイ」

そう言い終えると、去っていった。しかし、ルイは大きな声で叫んだ。

「次回って来た時、僕はもういないぞ!」

無視されたが、聞こえたに違いない。そしてすぐさま準備に取り掛かる。まず今自分の前の通路に歩いてきているアンドロイドを再度ハッキング。次にさっきと同じように、ルイとオリビアのジャケットで帆を作り、死角を作る。そのままアンドロイドを遠隔で操作し、通路を曲がらせる。ちょうど向こうのほうでさっきのBAが右折したのを確認。そのまま右の誰もいない独房にアンドロイドを隠れさせた。

「頼むぞ、少しの間だけだ。」

監視カメラで怪しまれないのを祈るしかない。そのまましばらく待っていると、後方のBAが歩いてきたが、ルイのアンドロイドに気づかずそのままスルーした。

「よし!」

そのままルイはまたアンドロイドをこっそり、自分の独房の前に戻した。

「あとは待つのみ」

しばらくすると例のBAが周回して来た。ルイは死角に身を隠し、タブレットであたかもアンドロイドが独房を観察して、焦っているように装った。すると案の定、

「ドウカシタノカ?」

BAが駆け寄って来た。

「ドケ」

BAは独房を覗き込む。死角の部分はもちろん見えない。

「さぁ、パスコードを打つんだ。」

迷いはなかった。さっきのルイの一言がBAを不安にさした。本当に脱獄したのではないか、と。これでBAがパスコード打てば、完璧だったのだが、現実は甘くなかった。

「オイ、開ケロ」

BAがルイのアンドロイドに命令した。BAは腰から例のハンドガンを引き抜いた。

「くそ……賭けは外れた……」

そう、この作戦の穴は、BAがパスコードを開けなければならないと言うことだった。もちろん、ルイのアンドロイドにはそれが打てない。

「ドウシタ?早クシロッ!」

何もできない。

「ヤハリオ前、怪シイ……」

これも運が悪かった。このBAはさっきジョークで騙したほうだった。

「くそっ!」

「オ前、ルイ・シーラン二何ヲサレタ!」

もうジョークは通用しない。

「くそ、苦肉の策だ」

ルイは操作して、アンドロイドをその場に倒れさせた。

「オイ!ドウシタ!」

「クソ!ルイ・シーラン!!」

ついにBAがパスコードに手を伸ばした。ルイはタブレットでギリギリまで確認する。BAが指を伸ばして番号を打つ!

「見えた!」

「7010」

確かにそう入力した。

(ギィイッ!)

勢いよく開けられた独房は、擦れて嫌な金属音を奏でた。

「ルイ・シーラン!!」

ルイは独房の陰に座っていた。

「やあ」

ルイがそういうと、BAは物凄い勢いでルイに向かっていく。

「貴様!ナメヤガッテ!」

(ガシュッ!)

BAはルイの首を鷲掴みにして立たせた。

「何ヲシタ!サッキノ停電モオ前ノ仕業カ!」

「う……」

BAはルイに話させる気はない。頭がドクンドクンっと必死に血液を送ろうとしているが、BAの握力でそれは阻まれた。

「うがッ……」

ついにルイの口から白い泡が出てきた。

「うッ……」

流石のルイも死を覚悟した。その時、やっとBAは手を離した。ルイはその場に崩れ落ちる。

「ゲホッ!ゲホッ!」

肺が空気を吸うたびに嫌な音をたてる。

「ゼェェエッ、ゼェェエッ……」

呼吸が整う間もなく、BAは離した。

「オ前ガヤッタンダナ?」

ルイはようやく息を整えると言葉を話した。

「さぁな」

BAがルイを持ち上げ、顔面を殴り上げる!

(メキャッ!)

「うがッ!」

ルイは再び倒れ込む。

「オ前ヲ生カス理由ハ、タッタ一ツダケダ。『利用』スル。タダソレダケ。」

「ドウセオ前ハ、『再接続』スレバ忘レル。

「ハァハァ……」

ルイは息が整わない。

「ナメテモラッテハ困ル。」

するとBAは銃口をルイの方に向けた。

「……」

ルイは沈黙する。

「撃タナイト思ウカ?」

「答エハ、『撃ツ』だ!」

(ダンッ!ダンッ!!)

BAの撃った弾はルイの脚のふくらはぎ辺りに、みごとに二発命中した。

「ああああああああ!!!」

ルイが叫ぶ。

「イイキミダ。アル意味、一瞬デ死ヌヨリモ辛イダロウ。」

心臓が鼓動する。その度に痛さが身体を駆け巡る。

「あああ……」

思考が回らない。痛さを感じるのに必死だ。

「次ハ必ズ殺ス。」

そういうとBAは独房を後にした。

(ガシャンッ!ガチャッ!)

ロックが掛かる。BAはルイのアンドロイドに駆け寄る。この時、既にルイはハッキングを解除していた。

「ドウカナサイマシタカ?」そう話した。

「役タズノゴミクズ野郎」

BAは振りかぶって、アンドロイドの顔面を殴り上げた。

(ガコンッ!)

そしてそのまま床に倒れこんだアンドロイドはピクリとも動かなかった。顔面の半分が陥没していた。

 ルイは心臓より高い位置に足を上げ、自分のジャケットをきつくふくらはぎに巻き付けて止血した。

「くそ……弾は取り出せないが、応急処置にはなる」

そしてオリビアのジャケットを再びきつく腰に巻いた。タブレットを見る。

「そろそろだな……」

「長かった……あとは運任せだ。」

ルイはタブレットでアンドロイドにもう一度ハッキングをかける。

「頼む……」

「お前がいないと、始まらないんだ。立ってくれ!」

すると、何回かタブレットを操作していると、反応し始めた。

「よしよしよし……」

そして完全に起き上がることに成功した。

顔面は陥没のせいで、左目しか見えない。それでも立派に立ち上がった。

「あのクソBAに一泡ふかしてやろうぜ、相棒。俺はルイ・シーラン。お前は『エウロパ』だ」

ルイはそのアンドロイドに自分の名前を命名した。そして今はまだエウロパを地面に寝かしておいた。ルイはタブレットを見ると、巡回中の二体のBAが通過するのを確認し、話した。

「レディースエンドジェントルメ〜ン !」

「お待たせいたしました。天才ルイ・シーランによる世紀の脱獄ショーの時間です!」

(バチンッ!)

電気が消える。ルイはタブレットでエウロパを操作する。そして自分の独房の前にあるパスコードを入力させる。

「7010」

番号を打ち込むと、独房の扉のロックが解除された。扉を開ける。しばらくぶりの独房外である。そしてルイは廊下に出た。エウロパと握手する。

「やぁ、バディ。ここからは僕らの時間だ。」

ルイはそのまま道なりに廊下を進む。暗闇なのでほとんど何も見えないが、既に地形は把握済みだ。ルイは手元でエウロパを操作しながら一緒に行動する。すると後ろの方で走る音が聞こえた。

「確認しにきたみたいだな。」

ルイはすぐに真横に続く誰もいない独房に入り込んだ。そしてエウロパをその隣の独房に身を隠させた。しばらくして大声が聞こえてきた。

「脱走!!!!!!」

BAがルイがいないことに気がついた。そしてBAがルイを探してこちらに走ってくる。

(ギャンッギャンッ!)

タイミングを測る。だいぶ暗視に慣れてきた。周りが少し見える。そしてルイの前にBAが走ってきた。ルイは丁度BAが走ってくるタイミングで独房から飛び出してタックルした!

(バタンッ!)

「貴様ッ!!」

ルイは馬乗になる。出来る限りの力で顔面を殴る。しかし、オリビアとは違いすぐに跳ね飛ばされた。BAが腰から銃を引き抜いて、ルイに銃を向ける。

「ン?ナンダソノタブレットハ!」

「さぁ?」

(ガコンッ!)ルイがエウロパを操作して背後から殴りかかった。そのまま倒れたBAをボコボコに殴る。これでもかというくらいに。そしてある程度するとぐったりしたので、ルイはBAから銃をとりあげ、それで顔面を殴りまくる。

(ガコンッ!ガコンッ!ガコンッ!)

そしてBAは動かなくなった。

「おっと、こいつは俺を殴った方のBAじゃない。」

後このフロアにいるアンドロイドは憎きアイツだけだ。そのままルイとエウロパはエレベーターへ向かう。そして廊下を曲がるとエレベータが見えた。タブレットを確認する。あと120秒。

「作戦がうまくいっているなら、2分後、電気が復旧した時にハチが迎えにくる。」


 しかし、先に来たのはアイツだった。

(ギャンッ!ギャンッ!ギャンッ!)

「トウトウ、ヤッテクレタ様ダナ……」

そう、ルイのことをとことんぶん殴った憎きBAだ。もう既に手には銃が握ってあった。

「ブチ殺ス」

BAが向かってきた!ルイはタブレットでエウロパを操作する。

ブラックアンドロイドvs天才エウロパの対決である。

操作されるエウロパは前よりも俊敏にBAへと走っていく。

「くそロボットには絶対負けない!」

BAは銃を撃った。

(バンッ!)

それはエウロパの右肩を貫通した。しかし、それを物ともせずBAに飛びかかる。BAはバランスを崩しかけたが、耐えた。そのまま左手で溝内にパンチを打ってきた。

「くそっ!耐えろ!エウロパ!」

どうにか耐えた。次の猛攻はアッパーだった。これももろに喰らってしまった。しかし、それのおかげで身体がのけぞった。その反応で体勢を低くしながら、BAの脇腹にパンチを打ち込む。

(メキッ!)

何かにヒビがはいった。

「グッ……」

そのままバランスを崩したBAの両足をエウロパは右足で払い上げた。

(バタンッ)

BAが倒れ込む。エウロパは馬乗りになる。そのまま顔面にマシンガンの如くパンチを連打した。

「おおおおおおおお!」

(キャンッ!キャンッ!キャンッ!)

BAの高品質な顔面が硬さを物語る。それでも殴るのをやめない。すると、BAは隙を見て右手で銃を掴んだ。

「危ない!」

必死にエウロパは左手でその手を抑える。

(ガタガタガタガタッ!)

お互いの力が反発し合って、震える。しかし、やはりBAの方の力が強かった。エウロパの左手を払い除けると、BAはエウロパの顔面に銃を向けた。

「旧型ノクセニ調子二乗ルナ」

(ダンッ!ダンッ!ダンッ!ダンッ!ダンッ!)

「エウロパァァァァ!!!」

エウロパは顔面がミンチの様にグチャグチャになり、遂に息絶えた。

「くそっ!!」

そしてBAが銃を持って近づいてくる。歩いてくる。勝利を確信した足取りで。

「ルイ・シーラン、貴様ヲ痛ブッテ殺ロシテヤル。」

「最高ノ苦痛ヲ与エテヤロウ」

BAはルイに数メートル近づくと、銃を構えた。その瞬間、電力が復旧して明かりがついた。眩しい。この光景は忘れないだろう。光に反射する漆黒のボディに殺意の赤い眼差し、ブラックアンドロイド。ルイは初めて間近で見た。

「サヨナラダ」

ルイは死を覚悟した。

「くそ……ここまで来たのに……」

引き金が引かれる。

(カチッ。)

「ン ……」

弾は出なかった。

(キーン!)

エレベータが鳴った。

「ドウヤラ銃ガオーバーヒートシタラシイ。ダガ問題無イ。殴リ殺スカラナ。」

BAは地面を蹴った。しかし、ルイはいたって冷静だった。まるでテスト前に思いっきり勉強した学生みたいに。ルイは叫んだ。

「3、2、1、!!!!」

ルイは左の壁にある、エレベーターのレバーを引いた!

(ガシャンッ!)

すると、エレベーターが開いた。中には凛々しい顔つきの、美しい女性が乗っていた。女性の名は、『オリビア』!


「ルイッ!受け取って!!!!!」


放り投げられたのは、BAの手が巻きつけてある拳銃。オリビアの愛銃。ルイはそれを空中でキャッチした。向って来ていたBAがブレーキを掛けた。

「ナンダトッ!」

ルイは話した。BAの真似をして、皮肉たっぷりに。


「『役タズノゴミクズ野郎。』糞くらえ。」


(ダンッ!ダンッ!ダンッ!ダンッ!ダンッ!ダンッ!ダンッ!ダンッ!!)

銃がオーバーヒートした。BAの顔面はえぐれて無くなり、漆黒のボディに星々が作られた。そして倒れ込んだ。


「ルイッ!!」

「オリビア!!」

二人は再会した。お互い抱きしめ合う。見つめ合う。

「そうだ、これ返すよ」

ルイは腰に巻いた少し血のついてしまったオリビアのジャケットを、手渡した。

「これ……ありがとう!ルイ。」

するとエレベーターからハチが顔を覗かせた。

「ハチ!!」

「ルイさん。どうやら無事だった様ですね。」

「あぁ……助かったよ。」

「ルイ怪我してるのね……とりあえず、ここは危険だから上のフロアに戻りましょう。そして、これからの作戦を立てましょう。」

「あぁ、そうしよう」

ルイが話した。

ハチは二人の顔を満足げに見つめて話した。

「それでは行きましょうか」


 ルイ、オリビア、ハチはエレベーターで一階に戻った。ルイが話した。

「こんな状況で悪いが、少し休みたい……」

「もちろんよ!どこか安全な場所を探しましょう」

「二人とも、ついて来て下さい」

ハチはエレベーターを真っ直ぐ進んだ。そして左手にあった大きな扉の前に立った。

「そこは?」

ルイが訪ねる。

「ここは予備の電子ケーブルなどが閉まってある倉庫みたいな所です。身を隠すにはうってつけですよ」

ハチが扉のパスコードを打つと、扉が開いた。

「うわ、真っ暗だわ。何も見えやしない」

しかし、その問題はすぐに解決した。全員が中に入って扉が閉まると、部屋の中に電気がついた。

「わお、こりゃ驚いたな。」

ルイがたまらず興奮した。中には大木のように太い束ねられたケーブルが所狭しと立てかけられていた。

「ハチ……下の階(FMK地区)の事だが、脱獄したのがばれるのは時間の問題か?」

「えぇ、そうですね。ですが暫くはバレないと思います。」

「どうして?」

「えぇ、というのも、B1階の監視カメラは、オリビア様がRAと闘った『ホール』と呼ばれる部屋で監視をしているので、今あそこは毒ガスの海ですから、心配はいりません。」

「RAだって?それってまさか新型か?」

「えぇ、多分そう。姿を消すことができるみたい。危うく殺されかけたわ。」

「それよりルイ様。まずは傷の手当てをせねばなりません。しかし、あいにくここには応急キットがない。」

そういうと、ハチは部屋の奥へ歩いて行き、何かを持って戻ってきた。

「それって……」

「工具箱です。これで傷口を開いて中に入った弾を取り出します。」

するとハチは中からカッターらしきものと、レンチらしきものを取り出した。

「おいおい勘弁してくれ……」

「仕方ないわルイ。我慢して。」

その後、しばらくルイの悲鳴が響いたが、ルイは口に自分のジャケットの裾の部分を加えていたため、それが消音の役割を果たした。


 「よし、これでオッケーです」

「助かるよハチ……痛かったが……」

「それで、ルイ。気になることがあるの」

「あぁ、どうした?」

「メモ帳の事なんだけど、一番端のページ」

「あぁ、それなら僕も知ってるよ。『ID』だろ?」

「ルイも気付いていたのね。これ、よく見て。」

「これだけメモ用紙じゃない。」

「そう……」

「このページ、ルイ・シーランという名前、それからID、パスワードが書かれているこのページだけ紙の色が違う。」

「そうね、明らかに後から貼られたものだわ」

「意図的に貼られたとしか思えない。」

「オリビア、君のも見せてくれないか?」

「えぇ、いいわよ」

ルイは自分の手帳と、オリビアのを見比べてみた。

「むぅ……特に変わりはない。まるで新聞の切り抜きを貼っているみたいな……」

「ん?ちょっと待てよ」

ルイが何かを見つけた。

「どうしたの?」

「いや、君のページ、凹凸がある。空気が入っているのか?まるでノリで紙を貼った後、乾いたみたいだ」

ルイがページを指でなぞると、紙がボコっとへっこんだ。

「空洞があるぞ」

オリビアとルイは目を合わせた。

「ハチ、カッター貸してくれる?」

「えぇ、分かりました」

ハチはカッターをオリビアに手渡した。

「オリビア、いいか?」

「えぇ、慎重にお願い」

ルイはオリビアの手帳の端のページを少しカッターで切った。

「よし」

そして封筒から紙を取り出すみたいに、メモ帳を振ってみた。すると、

(カランッ)

何かがメモ帳から滑り落ちてきた。ルイはそれを拾い上げる。

「なんなんだこれは……」

それは薄い金属板みたいなもので、5センチほどしかない長方形だった。だが、ルイが驚いたのは色だった。

「すごい……なんなのこれ」

その金属板の中には、真っ黒い色の中に無数のエメラルドが輝く、神秘的で少し哀しいような、そんな液体が入っていた。表現がとても難しいが、今までにみたことのない代物だというのは確かだ。

「これは驚いた……」

するとハチが前のめりになって割り込んできた。

「これは……」

「どうしたのハチ?これが何か知っているの?」

「えぇ……これは……『記憶盤』です。」

「記憶盤?」

オリビアがそう聞き返すと、ルイは既に理解していたらしい。

「この液体の中に膨大なデータを保存できる、そうだろハチ?」

「えぇ、その通りですルイ様」

「この液体の中にデータが入っているの?そんな事が可能なの?」

「あぁ、可能だ。僕が生きていた時は可能だと言われていた。だがまだ研究段階だった。簡単に説明すると、いわゆる液体ストレージってやつで、ナノ粒子メモリを持つ液体ってわけだ。」

「オーケー。もう既に意味がわからない。要するに、USBの中身が機械から液体になったバージョンってことでしょ」

「そういうことだ……」

ルイは記憶盤の裏側を見た。

「なんだこれ?」

そこには付箋が貼られていた。

「何か書いてあるな」

「読めないわ。エイリアン語なんて」

「私が読んであげましょう」

ハチが立候補した。

「いや、だめだ!僕が解読する。既にここの言語を英語変換する方法を会得したからな」

オリビアは両手を上げた。

「これだから科学者は……」

「よし、分かった。」

「それでなんて書いてあるの?」

「英語にすると……『F』『A』『C』『T』……」

「fact(真実)ね……」

「さすがですルイ様」

ハチは頷いた。

「『真実』……このメモリーの中にそれがあるっていうの?」

生温い風が抜ける。

「恐らく、そうだ。じゃなきゃメモ帳の中にこれを隠したりはしない」

一同は少し沈黙する。


「私達が誰で、何故ここにいるのか、いいえ、それより何かもっと大切な失ったもの。それが何かを示す答えがここに詰まっている……」

ルイとオリビアは目を合わせた。彼らが最も求める物がそのメモリーの中にあるかもしれないからだ。アンドロイドとの度重なる激闘で、本当の目的を忘れかけていたが、そのメモリーは彼らに確かな希望の灯火を与えた。

「ハチ。このメモリーはどうやったら確認できるか分かるか?その辺の機械じゃ再生出来ないだろ?」

「えぇその通りですルイ様。その記憶版を再生できるのは『ポセイドン』と言う大型の液体メモリ再生デバイスでなくてはなりません。」

「ポセイドン……」

いかにも頑丈そうな機械なのだろうとルイとオリビアは思った。そしてオリビアが話した。

「そのポセイドンは一体どこにあるの?ハチ」

「確実とは言えませんが……この上の階に『居住区』たるものがあるのだとか……そこに行けば何か情報を得られるかもしれません」

「居住区?ちょっと待て、住む場所があるということか?」

ハチは(分からない)とばかりに両手をあげるジェスチャーをした。

「噂によれば、ですが。私が上の警備を担当していたアンドロイドの話を盗み聞きしただけです。いわゆる『小耳に挟む』ってやつです。」

「挟める耳あればの話ね」

オリビアはジョークをかまし、ルイが笑っているかを確認したが、ルイの顔はまるで推理中の名探偵みたくに、顎に手をあてながら険しい顔をしている。そしてやはりルイが話す。

「地下とされていたのがFMK(監獄)。そして僕たちがいる階ではアンドロイドを製造したり、監視地区があったりとまるで人々を抑圧する為にある階のように思えるな。」

オリビアが続けて話した。

「そしてその上の階に『居住区』ですって?まるで私達……何者かに監視されて、実験されているみたい……」

「まず第一に、アンドロイドが僕たちを攻撃するのは、僕たちが大人しくしないからだ。『再接続』というやつを拒むからだ。でもそれじゃ僕達がここに存在する意味が分からない。つまり、『意図的』に僕達を支配しようとする何者かが存在するんだ。」

「何者かが存在する?……」

「僕達がいたら『不都合』と思う奴らかもしれない。もちろんそれがアンドロイドなのかもしれない……」

「全て推測に過ぎないが、『何者かが僕達をコントロール』している可能性がある。」

オリビアは乾いた唇を舌で舐めた。

「そうね。現に私たちにはこの施設のIDとパスワードがあるもの。大抵、これを持つものはその施設に関わりのある者じゃないといけないだろうし。」

「そうだ!今思い出したけど、RAが奇妙なことを話していたの」

「奇妙なこと?」

「『俺たちを作ったのは、オリビア・アデッソ、お前だ』」って。

背筋のあたりから寒気が登ってくるのをルイは感じた。

「なんだって!」

ルイは驚いて声をあげた。

「なんてこった、だとすると僕の説はさらに強くなる。つまり、あのクソ機械を作った技術者はオリビアって事で、もし仮にそうだとすれば、僕も何らかの理由で君と一緒に再接続されているのだろう」

ルイはハッとして答えた。

「監獄にいる時、BAが妙なことを口にしたんだ」

オリビアはルイを見る。

「僕を生かす理由は『利用するだけ』の為だと、たしかにそう言っていた。」

「つまり私たち、記憶を消されて良いように遊ばれてるってわけね。」

「黒幕がいるんだ。僕達から技術を奪い、利用している誰かが」

「全ては『記憶版』、それを再生させれば分かる。きっとその黒幕が誰か、『真実』がそこにはあるはずだ」

「あともう一つ……」

オリビアはルイを見た。

「何だ?知っていることを全て話してくれオリビア。」

「ここは『施設』じゃないかもしれないの。『舟』の可能性がある。」

「嘘だろ!?……」

ルイは頭を抱えた。

「そうハチが言ったの……」

「ハチ?ハチが言ったのか?」

ルイはハチを見た。

「ハチ、君はどこまで知っているんだ?

「何故何も教えてくれない!」

ハチは落ち込んだように頭を下げて話した。

「すみません……私は言語にプログラムが組み込まれているのです。ここの秘密をほのめかす様な言葉を話すと、強制的に殺されるのです」

「なんだって!?」

「なんてこと……」

「ですので、『舟』と言うのもだいぶオブラートな表現なのです。ですが私も全ての真実を知るわけではありません。わかるのはここが『舟』である事、5つの層から成る事。それだけなのです。あとは言われた通りに動くだけなのです……」

「殺されるとは……どのように?」

「ルイ。」

オリビアはその質問がまずいのではないかと、ルイにブレーキをかけた。

「あぁ、ごめん。」

「いいえ、大丈夫です。強制シャットダウンされるという事です。」

「なるほど……つまりハチが知っているのは、自分が働くのに最低限必要な『ここはどこか』のプログラムってわけだな。だからこの舟のマップも分かる。そして仮に少しでもそれらの情報を誰かに話したら、強制的に電源が落ちる様にプログラムされているんだな」

「そういうことです……」

「そうか……そうとは知らずに悪かった、ハチ。」

「大丈夫ですルイ様。私は貴方のお役に立ちたいのです。貴方達のお陰で私は産まれてこれたのですから」

オリビアはハチを抱きしめて、変形した腕を撫でた。

「許せないわ。一体だれがこんな事を ……」

「どうやらこの舟にはアンドロイドを超えるクソがいるみたいだな。だがしかし、クソは今、最悪な相手を敵に回した。僕達3人をな。」

「ハチ、オリビア。今から僕達はこの舟の 3階(三層目)、居住区に向かうつもりだ。恐らくアンドロイドとの戦闘も予想される。しかし、僕達は真実を知る為に、この記憶版を必ずポセイドンに接続しなければならない。ここから先は何が起こるか分からない……僕に力を貸してくれるか?」

オリビアは拳を突き出した。

「私の名前はクロエ。最強の兵士よ?もちろんよ」

同じくハチも拳を突き出した。

「もちろん私もお供いたします!なんなり

と!」




(警告。再接続の時間です。)

アナウンスが流れた。廊下をアンドロイドが走り回る。しかし、いつもの浴槽の中にはルイもオリビアも接続されていなかった。



  Episode13へ続く






 


 







どうも作者の素羅直大です。

THE FACTをご愛読いただきありがとうございます。

ここで読者の皆様に質問なのですが、アクセス数は日に日に伸びているのですが、一話から読んでいますという読者の方とかいたりしますかね?

実はお恥ずかしながら、アクセス数は伸びるものの本当に読んでくれている人がいるのか心配なのです。笑

そこでお願いなのですが、もしずっとこの作品をよんでくれている読者がいるならば評価していただけたり出来ますか?またはコメントでも構いません!

私のわがままですが、モチベーションに繋がります!どうかいましたら、お願い申し上げます!

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