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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

エス

作者: 浮世離れ

「高井、英輔っ・・とログイン名はエスでいいや。」


僕はスマートフォンのGPS発信アプリを登録した。


最近は色々なアプリが出ているから飽きることがない。


使っていればそこそこに楽しめる。


けれど僕は心の奥底で本当に楽しめる何かを渇望していた。


高校を出てフリーターとなり色々経験してはみたもののこれといってピンと来るものはなかった。


仕事でも遊びでも今一つ僕を高揚させるものに出会えていない。


生きていくためにアルバイトはしている。


家の近くの個人で運営している古本屋。


主にレジ打ちと品出し、買取や値札付けも店長不在時に行う。


一般の客から10円だの20円だので買取し、それを10倍にも20倍にも跳ね上げて売りさばく。


そして少しでも安いものにという心情の客が購入していく。


「人件費もケチっているし儲けが凄いんだろうなぁ」


それでいて時給950円のせこいバイトだ。


アルバイトは僕以外もう一人、中年のいかにもオタク気質な幸の薄い男。


店は深夜まで営業しているので僕が日中、中年が夜間てな具合で回っている。


僕には一様彼女の様な存在がいる。


いると言っても友達の延長線上にいるような女の子なので付き合おうとどちらかが正式に言い出したわけではない。


ただ成り行きで。


僕らの長い付き合いを振り返り彼女と話をした時だ。


「なぁ、亜美。僕らってさぁ。友達だよなぁ?」


僕は僕の自宅で週刊誌を読んでいる亜美に今の僕らの関係を聞いてみる。


「うーん、そうねぇ。英輔ってさぁ、男女の友情があるって信じる?」


質問に質問で返してくる亜美はこちらを見ずにまだ週刊誌を見ている。


(ちゃんと聞いているのか、こいつ?)


亜美の様子に苛つく。


「僕は・・信じられないかな。」


「ふーん・・意見合っちゃったな、つまらないの。」


(なんだよ、つまるとかつまらないの内容じゃないだろ。)


亜美の意図が理解できない質問にさらに苛つく。


「男女の友情、無いんだったら私たちも友達じゃないんじゃない?」


(なんだよ、それ?)


「じゃあ、なに、付き合っているってこと?」


回りくどい回答に限界を迎える。


「さぁ、英輔次第じゃない?それより、さぁ・・この店なんだけど・・」


もう聞かない。


このままの関係が嫌になった訳でもはっきりさせたい訳でもないのでこの話はここで終わる。


それ以降もどんな関係か不明瞭なまま時折会っては遊んだり食事をしたりしていた。


「へぇ、結構面白いな!」


そんな折、流行り物好きの亜美から面白いアプリがあるからと勧められ登録したのがGPSアプリだ。


登録すると自分の現在地を登録しているメンバーに知らせることが出来る。


更にコメントも残せ、写真も簡単に乗せることが出来、写真から今何をしているかなんて情報まで発信することが出来る。


「ね!面白いでしょ!今、私の登が一緒にこの喫茶店にいるから重なって見え辛いけれど地図に載っているの。ほら、これ見て!私が写真付きで投稿したから喫茶店でお茶をしているってイメージ湧くでしょ?」


見るとがログイン名あーみんが笑顔でクリームソーダーを飲んでいる写真が位置情報の下に付いている。


「へぇ。ほんとだ。あっ!この間メンバーになったナタ猫さんが近くにいる!」


覗き込んだ先にナタ猫さんの写真が地図上で動いている。


ナタ猫さんは近くの図書館から出ると高速で僕らの傍に近寄ってくる。


なんだろ?この速さで動くって・・車かな?


サッ、、とナタ猫さんらしい人が自転車で僕らの喫茶店を横切る。


僕らもナタ猫さんも本名を知らなければお互い会ったこともない。


ただナタ猫さんらしい人はガラス越しの喫茶店を照れくさそうに笑顔でよそ見しながら過ぎていった。


「亜美、亜美は目が合った?」


僕は興奮して亜美に聞く。


「どうだろう?一瞬だったからなぁ。でも・・ふふっ・・あの自転車に乗っている人だね。きっと。」


亜美以上に興奮している僕を亜美は滑稽な眼差しで見ていた。


なんだよ!自分ばっか少しだけ長くこのアプリ使っているからって、、


亜美の眼差しに僕は馬鹿にされたような気がしていた。

その時だった。


キキィィィィィィィィィー!!!!バーン!!!!


爆発でも起きたかのような目の覚める音が鳴り響く。


すぐ近くから聞こえたため喫茶店にいるお客もウェイターもにわかに騒ぎ出した。


僕らもその一味。


「行ってみよう!」


亜美は野次馬根性丸出しですぐにお会計を済ませると喫茶店の外に出る。


勿論僕もその後を追う。


少し違うのは僕は野次馬根性で行くのではなく確認をしたかったからだ。


なにせタイミングが合いすぎる。


音の方向はナタ猫さんが向かった先なのだから。


現場はやはりそれほど離れた場所ではなかった。


言い方は悪いがまだ事故したてであり警察はおろか救急車さえも到着していない状況だった。


正義感を持って救助に当たっている人達が中心でその中心を野次馬共が円を作り始めている。


「大丈夫!?大丈夫!?そこ退けて!!」


叫びにも似たような声に現場の緊迫感がジンジン伝わる。


自動車と、、自転車の事故、、


嫌な予感は的中してしまう。


「ナタ猫さん、、じゃない?」


隣で見ている亜美の顔が青白くなっている。


そう、、なんだな、、


僕は答えもないのに確信する。


ナタ猫さんの顔からは血が滴り、救助者の問いかけにも一切答える様子はなかった。


抱きかかえられていた手が重力に負けて

ストン、、と落ちた瞬間僕は自分の中で妙な感覚を覚える。


えっ!?


意識も出来ない感覚に僕は胸の中をグッ、、と掴まれたような気がして体温がグングン上昇していく熱さを感じる。


「・・英輔?」


亜美が僕を見ている。


僕は我に返る。


遠くからサイレンの音が聞こえる。


どうやらようやくパトカーや救急車が到着するみたいだ。


「行こう!」


「えっ!?」


僕は亜美の手を引いて野次馬共を除けると現場を後にする。


僕らはそのあと何も話さず別れを告げてお互い帰路についた。


僕は自宅に到着し、落ち着かない精神と向き合うためベッドに横になる。


(ナタ猫さんは、、駄目だろうな。スマホを持って走っていたからどっちが悪くなるのだろうか。)


例のアプリを起動させていたからもしかしたら一番近かった僕らにも警察は目を向けるのだろうか。


しかし、それ以上に。


(あの感覚はなんだったんだろう。非現実的な場面に気持ちが高ぶっていた?事実を見るのが怖かった?)


僕は僕自身に起きていた変化が気になって仕方がなかった。


結局僕はそのまま、考えがまとまるわけでもなくいつの間にか睡魔に襲われ闇の中へ戻っていった。


♪♬♪♬♪♬・・


僕は自分のスマートフォンの着信音で起きる。


(ああ、、いつの間にか寝てしまったのか、、服のままで、、)


寝ぼけ眼でスマートフォンを見ると着信先は亜美だった。


僕はスイッチを押し通話する。


「・・もしもし。亜美、どうした?」


僕の問いかけに亜美はすぐには答えない。


(自分から電話したくせに、、)


「英輔・・大丈夫?」


開口一番それですかい。


「亜美、特段問題ないよ。昨日はその・・大変だったよな。亜美は大丈夫?」


「そう・・。うん・・私は大丈夫。なんかさ・・昨日大変だったのは分かっているんだけどさ・・英輔、事故現場で笑っていた・・ような気がしたからさ。」


(笑っていたのか、、そりゃ、、やばいなぁ)


自分のことながら亜美の話に人間としてのやばさを感じる。


気でもおかしいのだろうか。


「いやぁ、人が死んで、それが一様知り合いで、ちょい前に会ったばかりだったから結構ショッキングな出来事に顔が引きつっていたんじゃないかな。見間違えだよ、見間違え。」


僕は何故か懸命に説明をしている。


「そうだよね。変だよね。・・今、英輔家だよね。」


「アプリで知っているんだろ?」


アプリを入れたことによって相手の場所などすぐにわかってしまう。


なんだか今になって厄介なアプリの様に感じた。


「ははっ。さいですね。あのさ・・ちょっと、会えない?」


「今日はバイトなんだよなぁー、その前ちょっとだけなら大丈夫だけど・・」


あまり気は進まなかったものの、いつにない亜美の我儘に仕方なく付き合うことにした。


現在9:00。


待ち合わせ時間は9:40。


すぐに着替え、寝起きのモードを外出モードに切り替えると家を出る。


いつもと違うのは朝食を抜いたことだけか。


急いで指定された場所に向かう。


住んでいるアパートの下に止めている自転車に乗ろうとしてふと思う。


(いや、、今日は歩いて行こう。)


僕は待ち合わせ場所に歩いて行くことにした。


9:25。


♪♬♪♬♪♬・・


僕のスマートフォンが鳴る。


亜美からだ。


「もしもし、英輔?もう着いたんだ!早いね!私も今着いたんだけど、どこにいるの?」


(ん?何を言っているんだ、亜美は。)


「いや、僕は今家を出たところだよ。アプリで分かるだろ?」


当たり前のように答える。


「えっ?だって英輔の位置、私と同じところになっているよ?写真も付いているし・・でもなんだろう?私の立っている位置じゃ見えない建物とかが見えてるみたい・・」


(えっ!?なんでだ!?僕はそこにいないし、、写真もアップしていない、、何かおかしい!!)


僕は妙な胸騒ぎがした。


そして歩いていた足を無理やり動かし駆け足で待ち合わせ場所に向かう。


あの角を曲がれば亜美が見えるはずだ。


「亜美、そこから離れろ!!」


僕はただならぬ気配に亜美に指示を出した。


ガーーーーガーーーーギーーーーギィーーーー


スマートフォンからノイズの様な音が聞こえる。


「な・・・に・・・英・・け・・・ちょ・・・よく聞こ・・・な。」


なんで急にこんなになるんだよ!故障でもしたのかよ!!


理由は分からない。


けれど何故かこれがスマートフォンの故障でないことはわかった。


僕は通話状態にしたまま更に急ぐ。


ようやく曲がり角を曲がると100m程先に亜美の姿があった。


(良かった!無事だっ、、、なんだ!?)


亜美は待ち合わせ場所に点在する建設中のマンションの屋上付近を見上げている。


僕も走りながら亜美の視線の先を見上げると。


そこにいるのは僕だった。


僕が建設中のマンションの屋上から亜美を見下ろしているのだった。


右手にはスマートフォンの様なもの。


左手には大きい廃材のようなものを抱えている。


僕の足が竦み、動きを止めてしまう。


屋上から見下ろしている僕が僕を見る。


(あ、、)


その顔は紛れもなく僕だった。


しかしその表情はとてつもなく喜びに満ち溢れ、口角が人間が出来る限界以上まで上がりまるで口裂け女が笑っているようなものだった。


僕は恐怖で全身に雷が落ちたようにブルブル震える。


屋上の僕は再び亜美を見ると左手に抱えた廃材を亜美めがけて投げ落とした。


「あ・・・・あぁぁぁみぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」


僕の声が投げ落とした廃材よりも先に亜美へ届く。


亜美は本当の僕を見つける。


しかし次の瞬間。


バァァァァァァァァァァァァァァン、、、グチャ、、


何かが落ちる音と共に何かが潰れる音がした。


「あ・・あ・・・・」


亜美の手がピクピク痙攣している。


地面が灰色から赤黒い色に変わっていった。


僕はとても何か大切なものを失い、そして欲しいものを手に入れた。


僕の顔は今、どんな顔をしているのだろうか。


左手にはスマートフォンを。


右手には。




お読みいただきましてありがとうございます。

今後もホラー、ミステリー作品を随時出していきます。

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