8話 婚約破棄
エマはアリスの婚約破棄を進めるために、一番初めに婚約者のゼルクに話をしにいくことにした。
その日、ゼルクは自身が騎士長を務める騎士隊メンバーの訓練を指揮していた。
エマ自身もその訓練に参加していたので、訓練が終わった後に騎士長に話をし行った。
「ゼルク騎士長、少しお話しさせて頂きたいのですが、よろしいでしょうか?」
「なんだ?」
ゼルクはエマを訝しむ目で見ながらいった。
周りのメンバーも二人が何を話すのかと気になるようで見ていた。
「この場では話づらいため、席を変えさせてもらえないですか?」
「いいから、ここで話せ。」
「はい、では。」
エマはゼルクにそう言われては仕方ないと、同じ騎士隊のメンバーがいる中で話すことにした。
「ゼルク騎士長は、姫様と婚約されていると伺ってますが、本当なのですか?」
「ふっ、その話か。」
ゼルクはニヤリと余裕のある笑みを浮かべた。
エマはその笑みを見ると強い怒りを感じた。
「知ってるものも多いと思うが、そうだ。アリス姫が16才のときに婚約の儀を済ませている。
我が父である将軍は当然のことながら、国王からも了承済みだ。」
「……。それは今も続いているんですか?」
「当然だ。」
ゼルクは自身満々に答える。
エマはゼルクから目をそらさずに、一息おき言った。
「今も姫様はその婚約に賛同されているんですか?」
エマがそういうと、ゼルクの表情が曇った。
「それは……。当然だろう。」
「もし、姫様が婚約を破棄したいと言われたらどうなりますか?」
「エマ、貴様何が言いたい?婚約は決まり事で近々結婚予定であるのに、今更破棄などできるわけないだろう。」
ゼルクは苛立っている表情をする。
「いえ、先日姫様に謁見した際に、姫様は婚約に乗り気でないようでした。」
そうエマが言うと、ゼルクは身体中から猛然と怒りを表した。
「エマ、お前は魔王から姫を救ったつもりで、調子に乗っているんだろうが、もうアリス姫と私の結婚の日取りも決まってるんだ。
お前が何をしようともうそれは変わらない。これ以上、偉そうな口を聞くと、お前をこの隊から追い出すぞ。」
ゼルクはエマに圧をかけ、睨んだ。
しかし、エマは怯まなかった。
「私はただ、姫の気持ちを知り、ゼルク騎士長も乗り気でないようなら、婚約を破棄すべきではと忠言したいと思って。」
ゼルクはエマの胸ぐらを掴み、エマは壁に押し付けられた。
ゼルクはエマを憎しみを持って睨み、恨むようにいった。
「私はアリス姫のことを愛している。姫も私のことを愛している。」
「ぐっ、ゼルク騎士長の想いはわかりました。手を離してください。」
「お前はいつも邪魔ばかり。魔王の討伐も私があの後すぐにやったはずなのに。」
そういうと、ゼルクはエマを横に押し飛ばす。エマは無様に転がり落ちた。
「今後、その話をするとただじゃ済まさないからな。」
そう言い捨て、ゼルクは出て行った。
残されたエマは、ゼルクの結婚に前向きな姿を見て、ゼルクは動かせないことがわかった。
同日の夜になり、エマはアリスの部屋をノックした。
「姫様、」
「エマ?」
アリスは扉を開け、エマを招き入れた。
「どうしたの?こんな時間に?」
「姫様、婚約の話で、今日ゼルク騎士長に話をしに行きました。」
「……。それで、どうだった?」
「それが、騎士長は乗り気で、婚約の破棄は考えてももらえませんでした。」
「そう……。」
アリスは悲しそうな表情をする。
「姫様、私は明日ゼルク騎士長の父親でもある将軍に、姫様が婚約に乗り気でないこと伝えるつもりです。」
「……。」
「危険ではあり、もしかしたら不敬と取られ、隊を追われるかもしれません。」
「……。」
「それで、もし、もしですよ、隊を追われ、姫様に会えなくなったときには……。」
エマは言いづらそうだ。なぜなら、アリスにそれを言うことはアリスすら危険に脅かすことでもあったからだ。
アリスは何をエマが言いたいかなんとなくわかったようだった。
アリスはエマに近づくと、エマの服の袖を握り、じっとエマの顔を見た。
エマはその目を見て、勇気を出して言った。
「私は、姫様を嫌な目に言わせたくないんです。
それで、もし、姫様も私のことを信用してくださるなら、明日の夜、城の裏門前でお待ちしています。
姫様をこの城から救い出してみせます。」
エマはそういうと、姫の部屋を後にした。
残されたアリスは、エマに城から出ると言う提案に驚いていたが、心は決まっているようだった。
エマは部屋を出てから、伝えてしまったと後悔と、アリスが来てくれるのか不安な気持ちで一杯だった。
決戦は明日、エマは部屋で荷造りしながら明日のことを思った。