7話 二人の出会い
エマとアリスが初めて会ったのは、婚約者であるゼルク騎士長がアリスに会うよりも前だった。
エマは城下町の道具屋の娘として、両親が城内に道具や武具を納品しに行くときについていくことがあった。
エマの両親は自身の身分から城内で慎ましく行動していたが、
エマは位のことは気にせず、いつも気楽に城の中を回っていた。
そんなある日、城内で盛大な催しが開かれることになった。
国王が待ちに待った子供であるアリスが生まれたのだった。
城内の催しに参加し、エマは両親に連れられて、主役であるアリスの姿を見に行った。
赤ん坊だったアリスは可愛らしく、エマは母性が擽られた。
そして、エマは両親が城に着くと、暇さえあれば赤ん坊に会いにいった。
城内には近い年の子供はおらず、王妃や国王も快くエマを招いた。
特に王妃は何かと世話をしてくれる、エマのことを気に入ったようだった。
王妃から話を聞き、国王もエマを気に入っているようになっていた。
そして、アリスが5才になったときに、エマはアリスのお付きとして雇われることが決まったのであった。
エマはお付き人として最初のうちはアリスの姉のように、年長のお付きの指導に従ってアリスの世話をしていた。
そして、年月が経つにつれて、朝にアリスを起こし、服を着せ、髪の手入れから、食事の手配など、アリスに関わることを一同にするようになった。
エマは赤ん坊の時から見ているアリスが徐々に美しく立派に成長していくことが何よりも嬉しかった。
妹のように思っていたアリスが徐々に使えるべく主人になっていくことも快く受け入れていた。
アリスが12才になろうとしていたとき、アリスは城の外に自由に出て外を回りたいと言い出した。
アリスは城内しか自由に歩き回れず、城の外に出ることは許されてなかった。
一方でエマは、城下町に出ては、何かとお土産をアリスにプレゼントしていて、
アリスもだんだんと城の外に興味を持っていたのだった。
エマは、アリスを勝手に城の外に連れ出し、それが城のものにバレると罰せられることになることがわかっていたが、
アリスの強い思いに負けて、夜に城の裏口からアリスを連れて城下町に出ることになった。
当時、城の裏口は無防備だったため、二人は特に見つかることもなく、城の外にでることができた。
アリスが城下町のものに見つかるとまずいので、姫にはエマの古着を着てもらい、エマの妹ということにして町を回った。
アリスは町にあるものが何であれ珍しいようで、楽しそうで、エマはその姿を見ているだけで、幸せな気持ちになれた。
そんなある日、その日も夜になり、町を出歩いていた。
その日はアリスに町の教会に礼拝に行きたいと言われ、エマとアリスの二人は教会に向かっていた。
エマは普段教会に行かなかったため、教会までの夜道は薄暗く、何か怖さを感じていた。
一方でアリスは怖さなんか感じないようで、無邪気に楽しそうに歩いていた。
すると暗い夜道の草むらから、何人かの人影が現れた。
それは、盗賊だった。
「お嬢ちゃんたち、その身につけてるものをこっちに渡すんだ。」
盗賊はそういうと、エマとアリスに近づいてくる。
その手は大きく広げられていて、ものだけでなく、人ごと連れ去るつもりであることがわかった。
さらに、何人かの盗賊の手には短刀が握りしめられていて、どうあがいてもエマでは正面から戦っても敵わないことが見て取れた。
エマがアリスを見るとアリスは泣きそうな表情で震えていた。
エマは自身が傷つけられてもアリスにだけは手を出させないと覚悟を決めた。
「私のことは構わないですから、まだ幼い妹だけはお助けを。」
エマがそういうと盗賊はアリスとエマを見比べる。
「いいだろう。お前だけでも来い。」
盗賊はエマに近づき、手を取ると、馬車のある木陰まで行き、馬車に乗せて連れ去ろうとした。
すると、アリスはエマが連れ去られそうな姿を見て、大きな声で泣き出した。
盗賊たちはアリスの大声に驚き、町の住人に見つかることを恐れた。
すぐに逃げ出すために、エマを無理やり馬車に乗せる。
「っつ。」
何人かの盗賊はエマを押し込んだときに、腕や体に鋭い痛みを感じたが、気にしてもいられず、馬車に乗り込む。
盗賊達は馬車を走らす。
しかし、馬車はしばらく進むと静かに停止した。
盗賊達は、ぼんやりした目つきをして眠ったようだった。
エマはポケットにもしものときのために、護身用の眠りばりを忍ばせていたのだった。
そして、それを盗賊達に次々と刺していたのだった。
エマは、夜道に一人残したアリスに会いに、馬車が進んだ道を引き返した。
教会に着くと、教会周りには多くの兵士がいた。
その中に当時の騎士長がいて、エマを見ると冷たい表情をしていた。
「お前は何をしでしかしたかわかっているのか?」
「私は姫を城の外に連れ出し、危険な目に合わせてしまいました。」
エマはただ謝罪することしかできなかった。
エマは、アリス連れ出しの重要参考人として連行された。
アリからは、アリスから連れ出すように命じたのでエマには責任がない、と伝えられたが、周りは耳を貸さなかった。
エマはアリスを危険に合わせたとして、アーラン国から追放されることになりそうだった。
ただ、エマが献身的にアリスに尽くしていたことを城の中いるものであれば、誰でも知っており、国王やお妃の知るところでもあった。
国王はそれを顧みて、恩赦を出した。
エマは付き人からは辞めさせられ、城からは追放されることになったが、城下町で暮らすことは許されたのだった。
そして、道具屋に再び着くことになったのだった。
エマは、城を追い出され、アリスと会うことはできなくなっていた。
会えない日々は、エマにとっては、何もかも無為なものに感じ取れた。
何よりもアリスが困ってないか、エマのことを気にしていないかが気になり、眠れない日を過ごした。
しかし、辛い日々は長く続かなかった。
ある日、エマの両親は城へ納品に向かい家に戻ると、手紙をエマに手渡した。
その手紙はアリスからだった。
手紙の中に、エマの両親に手紙を渡し、エマに渡すように伝えたこと。
そして、三日後に多くの兵士が休息に入ること、
その日に裏門の鍵を開けておき、アリスの部屋の窓の鍵も開けているから、来るようにと記載されていた。
エマはその手紙を見た日の道具屋の仕事を休んだ。
なぜなら、城に侵入する準備をしないといけないからだった。
兵士の数が少なく、裏門の鍵が空いているからとは言え、見張りの兵は何名か残っていた。
侵入が見つかれば、次確実に国を追われることを間違いなかったので、見張りには見つかるわけにはいかなかった。
しかし、エマにはアリスに会いにいかないという選択肢は考えもしなかった。
すぐにエマの持つ工場に入り、足音がならない靴や、姿が見えないローブ、姫様の部屋まで登るため鍵なわの試作品を作っては評価していった。
そして、寝ずの開発のおかげで、エマは満足のいく靴とローブ、鍵なわを作り上げたのだった。
侵入当日の夜、エマは裏門に向かうと、手紙に書かれたように鍵は空いていた。
門を開け、中に侵入する。話に聞いていたように見張りの兵士の数は少ないようだった。
足音を立てないように気をつけて、アリスの部屋の近くまでいく。
そして、見張りがいないタイミングを見計らって、鍵なわをアリスの部屋のベランダのフェンスに引っ掛けた。
エマは静かに縄に登り切り、綱を引き上げる。
綱を引き上げながら、エマの鼓動は高鳴っていた。待ちに待ったアリスとの再会だからだ。
縄を引き上げ終わると、アリスの部屋を見ると、部屋の窓が一部空いていた。
窓を開け、カーテンを開け、中を見た。
アリスはどうも寝ているみたいで、部屋は暗く、ベッドが盛り上がっていた。
静かにエマがベッドに近づくき、ベッドを見ると、そこには何もいなかった。
ギュッ。
エマは背後から何か暖かくいい匂いがほのかにし、やわらかなものに抱きしめられていた。
それはエマがもっとも会いたくて会いたくて仕方がないものだった。
「エマ、会いたかった。」
アリスはそういいぎゅっとエマを後ろから抱きしめた。
エマも振り返ろうとするも、アリスがそうはさせない。
「まだ見ちゃダメ。」
エマは背中がうっすら濡れてきていることに気がついた。
アリスは泣いていたのだった。
エマの目にも涙が出そうになる。
そして、手が緩み、エマが振り返ると
目の前には涙ぐんではいたが、美しく可愛らしいアリスが微笑んでいた。
「姫様、」
エマはアリスを見ると、気づけば抱きしめていた。
ぎゅっと抱きしめ、エマは涙した。
「ふふ。エマったら」
アリスはやさしくエマの頭を撫でた。
二人は、何日も会えなかったことを埋め合わせるように、抱きしめあった。
「姫様、今日はお招き頂いてありがとうございました。姫様に会いたかったです。」
「私も会いたかった。城の警備が手薄になるときと、あなたの両親が城に来るタイミングがあってよかったわ。」
「……。あの、また、来てもいいですか?」
「うん、私もエマに来て欲しい。」
アリスはそう言うと、エマに数週間後の日付が書かれた紙を手渡す。
「次はこの日が兵の少ない日だから。」
「姫様……。はい、必ず来ます。」
エマは、そう言うと紙を受け取った。
それはまだまだ先の日付であったが、エマにはそれでも姫に会える機会があることが嬉しかった。
その日から、エマは一ヶ月に1回程度の頻度で、アリスに会いに城に向かい夜を一緒に過ごした。
兵士が休みと思ってたら、休みではなく、多くの兵が見回りしているときもあったり、危うく見つかってしまいそうになることはあったが、
エマはそのために装備をますますと洗練させていった。
その甲斐あって、ついには兵士が普段通り見回りている際にも侵入できるようになっていた。
ただ、エマとアリスが会うと、次の日の空が明るく前まで話続けてしまい、次の日にも影響を与えることにが判明したため、週一回程度で会うようになった。
夜に会う中で、だんだんとエマはアリスに対して主君からそれ以上の想いを抱くようになっていた。
アリスが赤ちゃんの頃からの最初は母のつもりで、アリスに接し、成長するにつれて、妹のように思い、友達、仕えるべき主君と思うようになっていた。
そして今はそれ以上の強い想いを持つようになっていた。
魔王からアリスを救い出し、エマは城に登城することが許されるようになった。
すると普通にエマに昼でも夜でも会えるようになり、二人の仲はさらに深まっていた。
エマはアリスのことが大好きだった。
そんなアリスが婚約が嫌だと言われるなら、エマは決めていた。
エマはアリスの婚約をなんとか破棄させて、その暁に。
アリスに告白して、アリスと結婚する、と。