6話 婚約
エマがアリスを魔王城から救い出してから、時が経ち、アリスが18才を迎える1週間前になった。
その日もエマはアリスに会いに、城内のアリスの部屋に向かっていた。
エマは誕生日に何が欲しいかアリスに確認するつもりだった。
アリスの部屋の近くに着くと、アリスと国王の言い争うような声が聞こえてきた。
「私は結婚は嫌よ。」
「アリス、婚約が決まったときに18才の誕生日に結婚の日取りと決めていただろう。何があったのか?」
「あったよ。魔王に連れ去られたり。」
「無事に帰ってこれたじゃないか。」
「帰ってこれたよ。でも、それってエマのおかげじゃない。」
アリスの結婚の話をしているようで、エマは入るに入れず、こっそり壁に身を隠し、話を伺うことにした。
「エマくんのおかげなのは間違いない。でも、それと結婚の話は訳が違う。
ゼルク君との結婚はお前が16才になったときから、決めていたじゃないか。」
「そうかもしれないけど……。」
「じゃあ代わりにお前はいったいどうしたいんだ?」
「それは……。」
アリスの声が小さくなる。
エマは今すぐ近づき、アリスに駆け寄りたい気持ちを抑える。
国王の前であり、ただの一兵にすぎないエマが失礼な行動を取ると不敬罪に問われて、また離れ離れになってしまうかもしれなかったからだ。
「もしかして、エマくんと、とは言わないよな。」
「……。」
「エマくんは確かに優秀な兵だ。それにアリスが小さい頃からお付きとして、お世話になっていたことも、とても懐いていたことも知っている。」
「しかし、アリス、お前は国王の娘として、後継を残す必要がある。血を絶やすわけにはいかないのだ。」
「……。」
アリスはじっと黙っていた。
国王はそれを承諾とみなしたようだった。
「なら、わかったね。お前のすべきことを。来週の誕生日パーティーは、同時にアリスとゼルク君の結婚を祝う会になる予定だ。」
「……。そんな。」
「前にもいったはずだ。18才まで待つが、そこからは公式に結ばれると。」
言い終えると国王はアリスを残して去っていった。
「私は嫌だよ。」
小さい声でアリスは言うが、国王は聞く耳持たぬようだった。
残されたアリスは静かにぽつんと立っていた。
エマは気づけば、アリスに近づき、後ろからそっと声をかける。
「姫様。」
「!?エマ?」
アリスは背後から急に声をかけられ、驚くがエマと気づくと、ホッとしたような顔をした。
しかし、だんだんと目から涙が溢れそうになっていた。
「エマ、どうしよう、私来週の誕生日に……。」
「姫様……。姫様はゼルク騎士長との結婚を望まれていないんですね。」
「もうろんよ。でも16才のときに、父の言う通りにゼルクとの婚約に承諾するしかなかったの。
今日まで結婚の話は出てなかったから、解消されたと思ってたのに。」
エマはそうと聞くと、アリスの手を握る。
「姫様、それなら結婚と婚約を解消できるように、ゼルク騎士長と将軍に掛け合ってみます。」
「エマ……。」
「姫様が望まれないことをしないといけないのは、私も嫌なんです。」
「……。ありがとう」
アリスはそういうとエマに微笑んだ。
エマも微笑み返し、アリスの婚約者であるゼルクの元に向かった。