36話 天界の宝玉
エマは、天に続く階段を登っていく。
足元には雲が広がり、地上は見えなくなっていた。
そして、階段を登りきり、雲の上にたどり着く。
そこは、白く美しい景色が広がっていた。
エマは、階段から白い地面に恐る恐る足を乗せる。
地盤は固いことがわかると、体重を乗せていき、地面に降りたった。
辺りを見回すと、遠くに白い大きな宮殿があるように見えた。
エマは、そこを目印に進んでいくことにした。
宮殿の近くまで到着すると、宮殿の扉は開かれていることがわかった。
エマは扉から中に入ると、目の前に玉座に座るものがいた。
それは、神々しい装いの女神様のようだった。
「お主は何をしに天界まできたのか?」
女神は静かにエマに尋ねる。
「私は、アーラン国のエマと言います。天界を統治される女神様にお願いに参りました。」
「いきなりお願いとは不躾であるが、何を欲する?」
「魔を封じ込めている宝玉を頂きたいのです。」
すると女神は怒りの形相をした。
「それがどれだけ危険なものか、お主わかっているのか?」
「申し訳ございません。わかってはおりません。」
「さては小賢しい悪魔にそそのかされたのだろう。これは人間が持って良いことは何もない。」
「私はそれでもそれが必要なんです。」
エマはアーラン国の姫であるアリスの魂を取り返すために、冥王と取引し宝玉が必要であることを話した。
女神は目を瞑り、エマの話を聞いた。
エマが話終えると、目を開き、エマを見据えた。
「たかが一人の人間のために、この宝玉を差し出すわけにはいかない。」
女神は厳しく断りをいれた。
エマは地面に膝をつけ、頭を地面につけた。
「……。そこを何卒、なんでもします。」
エマには女神に祈るようにお願いすることしかできなかった。
今できることは、女神に祈ることだけだった。
女神はエマが祈る姿をじっと見ていた。
しばらくして口を開いた。
「お主、名前は何という?」
「エマです。」
「エマか。お前には微かではあるが、天界の血が流れているみたいだ。」
「え?」
「先祖が天人だったのだろう。人間として何代も過ごし血は薄まっていったようだが、
お主はその血が濃いようだ。だから、ここまで昇ってこれたんだ。」
エマは、確かにエマの一族には天界にまつわる話を聞いていたこともあったが、まさか自身にも天界の血が流れているとは思いもしなかった。
ただ、普通の人に比べ、魔法に対して耐性があったことは思い当たっていた。
女神は考え込み、しばらくしてエマに問いかけた。
「この宝玉が欲しいか?」
「はい。」
「ここには悪魔が何千と閉じ込められている。これを閉じ込めたのは何百年も前の天人だ。
もし、この封印が解かれると、この世は闇に覆われる危険があるのだ。お主はそれでも良いのか?」
「……。困ると思います。しかし、私はアリスと会えないことの方がつらい。
必ず、私が解放された悪魔達を封じ込めます。なので、私に宝玉をください。」
「お主は面白い。」
女神は口を覆いながら笑い声を立てる。
そして、満足すると、女神のそばにある宝玉が浮かび上がる。
「いいだろう、この宝珠を渡そう。」
エマの顔に希望が浮かぶ。
女神はエマの表情を見て、
「ただし条件がある。お前の子を私に預けるのだ。」
「え?」
「お前だけでは、悪魔討伐は難しいだろう。だから、お前の子にも、悪魔を討伐させるのだ。」
「……。」
「解放された悪魔を討伐しきった時まで天界で預かることになるだろう。約束するか?」
「約束します。」
そういうと、宝玉はエマの元に飛んでいく。
エマが宝玉を手につかむと、それはずしりとくる重さだった。
宝玉の中を覗くと闇が広がり、先が見えないようで、不気味な圧力があった。
「私の娘、リンはずっとこの天界にいることになるのですか?」
「態度次第だが、時々は帰っても良い。 」
「ありがとうございます。」
エマは女神に深く感謝した。
そして、エマは宝玉をカバンに入れ、天界を出ようとした。
女神が去りゆくエマに向かって声をかけた。
「冥王に渡すときに必ず契約を交わすことだ。もし冥王が無理やり宝玉を奪い取ろうとしたら、その場で叩き割れば良い。
そうすれば、閉じ込められた悪魔達はなきものになる。」
「わかりました。」
エマは天界を後にした。
行きと同じ階段で下界に降りていく。
山頂にはリリナスと騎士隊のメンバーが待っていた。
エマは宝玉を皆に見せ、冥界に向かって指差した。