34話 冥界へ
エマは魔女の館から城に戻ると、すぐさま冥界に向かうための準備を始めた。
冥界に行くのは、危険だと、国王などから言われるが、エマの心が揺らぐことはなかった。
自身の身を呈してでも、アリスを救い出す、エマは決心していた。
国王は、エマの決心が固いことを知ると、
対価になるかもしれないと、城内の宝物庫にあるものを好きなだけ持っていって良いと言った。
エマは、いくつかの宝石と、アリスが大切にしていたものと自身が大切なものを持っていくことにした。
そして、二人の子であるリンのことをじっと見た。
「リンのことは心配するな。私たちが大切に見守っておく。」
国王が言った。
「……。ありがとうございます。」
エマはリンを残して、冥界に向かって出発した。
城を出ようとすると、城中のものが見送ってくれた。
見送られ、エマが城を出てると、後ろからリリナスがついてきていた。
さらに、何人かの騎士隊もついてきていた。そこには騎士長のゼルクもいた。
「私達もご一緒します。」
「……。生きて帰れるかわからない危険な場所に行くことになるんですよ。」
「もとはといえば私が焚きつけたのです。私もアリス姫の救出に参加させてください。」
「ありがとう。」
エマは、リリナスと騎士隊のメンバーに感謝した。
そして、一同は森を進んでいった。
アリスの救出隊は、道を進んでいると木々が生い茂って生き、昼にも関わらずだんだんと暗くなり、不気味な雰囲気があった。
地図通りにさらに進んでいくと、木と木の間が、真っ黒な空間があった。
地図で見るとここが冥界に通じる入り口のようだった。
エマは剣を入り口と思われる黒い空間に入れ挿しするが、特に異変ないようなので、手を入れてみる。
空間の中は冷たいような感覚があったが、特に異変は怒らないようだった。
エマは勇気を出し、黒い空間に入り込んだ。
空間の中には、星空一つない真っ黒な場所が広がっていた。
唯一下っていく階段が目の前にあり、そこを下っていけば冥界にたどり着くようだった。
救出隊は階段を降りていく。
手すりから下を見るとそこは、深淵が広がっていた。
しばらく進んでいくと、目の前に重厚感のある大きな扉があった。
扉の側には、大きな鎌を持った下級悪魔がいた。
下級悪魔は救出隊に気づくと、声を掛ける。
「人間がこんなところに何のようだ。」
「冥界の冥王様に会いにきました。アーラン国の姫の魂を返して欲しいんです。」
エマがそういうと、悪魔は冷笑する。
「人間が簡単に王と会えると思うなよ。」
悪魔はそう言うと、エマの体を物色するように見る。
すると、エマが手につけているブレスレットの付近で目が止まる。
ブレスレットには綺麗に光り輝く宝石が二つついていた。
「入れてくれるなら、このブレスレットについている宝石を一つを差し上げます。」
そういうと、エマはブレスレットを取り、それについている二つの宝石のうち一つを指し示す。
「ふん、そんなものでは通すことはできない。」
門番はそういうが、目はその宝石を見ていて、欲しがっていることが見て取れた。
「そうですか。それは残念です。」
「……。もう一つのほうも渡すなら考えてもいい。」
「二つは渡すのは難しいです。渡せば必ず通してくれるなら考えてもいいです。」
「……。いいだろう。私にそのブレスレット毎渡せば通してやる。」
「ここにいる全員を通してくれるんですね。」
「あぁ。約束する。」
エマはブレスレットを悪魔に手渡すと、悪魔は笑みを浮かべた。
そして、冥界に通じる門が開いた。
救出隊は門を通る。
門の先は荒れ果てた土地のような場所が広がっていた。
そして、先には大きな宮殿があるようだった。
魔女の話では、その宮殿に冥王が住んでいるはずだった。
「うまく通れましたね。」
門を通り、宮殿に向かっているとリリナスがエマに声を掛ける。
「うん。ばれなくてよかったです。」
実は、悪魔に手渡したブレスレットは国王からもらった宝石類のうちの一つだった。
魔女から冥界への門を通るためには、賄賂が必要と言われていたのだった。
さらに、悪魔は貴重なものを見つけると際限なく欲しがるため、
貴重なものは各自の体に隠し、見せないようにしていた。
荒地を進み、宮殿にたどり着く。
宮殿の周りは誰もおらず、目の前には大きな扉があった。
エマは、扉に手を触れると、扉は開いた。
宮殿の中の玉座に冥界の王がいた。
「私はアーラン国のエマと申します。」
エマが冥王に挨拶する。
冥王はエマを見ていた。
「アーラン国の姫君の魂を返して欲しい。」
エマがそう言うと、冥王は手元の白いモヤモヤした塊を見せる。
エマにはそれがアリスの魂に思えた。
「こんなにきれいな魂は他にない。対価になるのは……。お前達全員の命をもらおうか。」
冥界の王は表情を変えず、エマを見ていった。
エマは何も言わずに見返す。
「ふっ、この魂はお前達全員の魂でも釣り合わないくらいだ。
いやお前は釣り合うものを持っていたな。お前の子を差し出すか?」
「それはできない。」
エマは即答した。
本当はエマは城を出る前にリンを連れて行こうとした。
アリスの対価になるとすれば二人の子であるリンくらいだと思ったからだった。
しかし、それで救ったとして、アリスもエマも幸せになれるはずがなかった。
それがわかったから、置いてきたのだった。
「では、お前が私に忠誠を誓い、冥界で永遠に働き続けるのであれば、考えてもいいだろう。永遠に。」
冥王はそう提案する。
「……。私の命で姫が助かるなら、私はいつでもさし出そう。」
エマはその提案を待っていた。
自身の身を呈して、アリスを救うつもりでいたからだ。
ガシッ、リリナスがエマの肩を掴んだ。
エマがリリナスを見ると、リリナスは真剣な目でエマを見つめた。
「エマさん、それだと姫は悲しむだけです。何のためにアリス姫がいま囚われているか考えてください。」
「……。じゃあどうすれば。」
エマは苦しそうに言った。
「冥王よ。お前は人の魂以外に欲しいものがないのか。」
リリナスは魔王に尋ねた。
「一つ欲しいものはある。それは、天界にある魔が封じ込められてる宝玉だ。」
「それを、持ってこれば、アリス姫は解放すると誓うか?」
「ああ、約束する。」
リリナスは冥王と話がまとまると、エマに振り向く。
「エマさん、天界に行くしかないと思います。」
「……。天界の宝玉。」
エマは呟くように言う。
「三日間の猶予をやろう。その間はお前達の欲する魂の処理はしない。大切に保管しておこう。」
「わかった。宝玉と交換だ。」
エマはそう冥王に告げる。
冥王は怪しい笑みを浮かべた。
エマ達は天界に向かうことが必要になった。