30話 再契約
アリスは起きないエマの側にずっとつきそっていた。
部屋のベッドの上でエマは眠ったように目を瞑っていて、起き上がる気配はなかった。
アリスはエマにキスをして起こそうとするが、エマは起きなかった。
一度城内の医者に見せたが、医者は原因不明と言うだけで、何の対処もできないようだった。
その後、国王や騎士団のメンバーがエマの見舞いにくることはあったが、アリスは部屋に入れなかった。
アリスはエマと二人でいたかった。
トントン。
部屋をノックする音がした。
「リリナスです。アリス姫、エマさんのことでお話しないといけないことがあります。」
「……。どうぞ、入って。」
アリスがそういうと、リリナスがドアを開け部屋に入る。
リリナスは、エマの側につくと目を瞑っているエマを見る。
「アリス姫、私は言わなければならないことがあります。」
「何を?」
「それは……。エマさんがずっと眠っている原因はおそらく魔女との取引のせいだということです。」
「……。」
「私はエマさんと魔女に席を外すように言われたので、林檎をどのように入手したのかは知りません。
しかし、エマさんがこのような状況であるのを見ると、魔女と取引をしたと考えるのが筋です。」
「……。私もそう思う。」
アリスはエマの顔を見ながら言った。
アリスはわかっていた。
エマは、魔女の秘宝をアリスの大切なものの代わりに手に入れたと言っていた。
そして、アリスが一番大切にしているのはエマに違いないのだ。
エマを奪ったのは魔女に違いないと確信していた。
そして、魔女に会いに行かなければならないと。
「リリナス、私を魔女の元に連れていってください。」
リリナスはアリスの方を見る。
アリスの表情は固く、揺らぎない決意を感じさせた。
「アリス姫、魔女から大切なものを取り返すには、それ以上の対価が必要になるかもしれませんよ。」
「……。覚悟の上です。」
アリスはエマの手を握った。
エマの手は冷たく力なかったが、アリスは勇気を得られた気がした。
リリナスはアリスを連れて、魔女の館に向かった。
森を進んでいくと、以前と同じ場所に魔女の館があった。
アリスは館のドアをノックする。
「ふふふ、待ってたよ。入れ。」
館からの中から声がした。
アリスとリリナスが中に入ると、以前と同じ黒装束の魔女がいた。
このときもフードを被っていて顔は見えなかった。
リリナスはアリスの前に立ち、魔女に向かい合う。
「魔女よ。お前が秘宝の代償に受け取ったエマさんの魂をこちらへ返せ。」
「ふん、お前には用はない。館から出ろ。」
魔女は冷たくリリナスにいい放つ。
「リリナス、魔女と二人にしてもらえますか?」
「しかし……。」
リリナスはエマのこともあるので、アリスと魔女だけで契約を済ますことを避けたかった。
「リリナス、お願いです。」
アリスはリリナスにそう告げた。
リリナスはアリスの言葉に従い、館の外に出るしかなかった。
リリナスが出て行くと、アリスは魔女と向かい合った。
「私の最も大切なものを奪ったのはあなたなんですか?」
「奪ってはいない。対価を払ってもらったまでだ。」
魔女は冷笑しているかのように話す。
「……。あなたはわたしの言うことがわかっているのでしょうが、
エマを元に戻してください。」
「あの者の魂を返すことはできるが、代わりの対価が必要だ。」
「払える者ならば、何でも払います。」
アリスはそう答えると、魔女はフードの下からもわかるくらいにニヤリと笑った。
「ハハハ、魂の対価になるものは一つしかない。」
魔女は対価を伝えると、アリスは覚悟していたようだった。
「……。それでエマが元に戻るのなら。ただ、こちらからも一つ条件を出させてください。」
アリスは一つ条件を告げると、魔女はそれを快諾し、契約は再び結ばれた。
リリナスが外でまっていると、暗い表情をしたアリスが魔女の部屋から出てきた。
「アリス姫、どうでしたか?」
「……。」
アリスは目を瞑り、深呼吸した。そして、笑みを浮かべた。
「これで、エマの魂を取り戻せたはずよ。」
「……。対価についてお聞かせ頂けますか?」
リリナスの顔は笑ってなかった。
真剣そうな表情でアリスを見る。
「リリナス、ごめんなさい。それは話せない。」
アリスは悲しそうな表情をして言った。
リリナスとアリスは魔女の館を去ると、一目散に城に戻った。
アリスは、静かに城に入り、エマの部屋に戻る。
エマはベッドの上で眠っていた。
アリスはエマの側に座ると、じっとエマの顔を見つめ、手を握った。
エマの手はほんのり暖かかった。
「エマ?」
「……。はい?」ぼんやり寝ぼけた声がした。
アリスはエマに飛び付き、抱きしめる。
「エマ!」
「ひ、姫様?な、なんですか?」
エマは急にアリス抱きつかれて驚き、声を挙げる。
抱きついているアリスを見ると、アリスは泣いていた。
「アリス?」
エマが心配になり、アリスに呼びかけると、アリスは顔を上げる。
目には涙があったが、笑みが浮かんだ。
「エマ…。良かった。」
アリスはそういうと、エマをぎゅっと抱きしめる。
エマは状況がわからなかったが、エマをぎゅっと抱きしめ返した。
「アリス?」
エマがアリスに声をかけると、アリスから応答はなかった。
「……zzz」
アリスはエマの看病と魔女の館に言った疲れが出て、エマの側でぐっすりと眠った。
エマは、そんなアリスのことが可愛らしいと思うと同時に、
ぐうぅぅ、という音がエマのお腹からした。
エマは寝たきりで空腹だったのだ。
アリスが目を覚ますと、エマが横にいてアリスを見つめていた。
「エマぁ。」
アリスはまたエマに泣きつく。
「ふふふ。アリス。何だか心配かけてしまったみたいですね。」
「本当よもう。」
アリスは怒ったようにそういいながら、エマに抱きつく。
ぐうぅぅ、という音がまたエマのお腹からした。
「お腹空いたの?」
「はい、起きてからやたら空腹なんですが、アリスと一緒にいたかったので待ってました。」
「……嬉しい。」
アリスはそう言うとエマにキスをする。
そして、二人はベッドから出て、ご飯を食べにいった。
エマの元気そうな姿を見て、お付きも城の兵士も国王も皆、歓声をあげる。
ただ、一人リリナスだけは、心配そうな表情で、アリスとエマを見ていた。




