29話 魔女の秘宝
エマは魔女の秘宝を入手するために、リリナスに聞いた情報を元に北にある魔女の家に向かうことにした。
出発の前に、エマは、城内の図書館で、森周辺の地図を探し出した。
さらに城内や城下町の物知り達や魔女の館を見たことがあるというものに、その地図のどこに魔女がいるかを聞いて回った。
聞いた結果、冥界に通じる森の東付近にし魔女の住む黒い館があるのではないかと検討がついた。
幸いにもリリナスも一緒に付いてきてくれることになったので、二人は馬に乗り、城を出た。
城を出て、しばらく北上していく。
すると目の前に森が広がっていた。
地図を見るとそこが冥界に通じると呼ばれる森のようだった。
エマとリリナスは付近を見通す。
一面木々があるだけで、魔女の住む館らしきものはなかった。
物知り達に聞いた話を元に、東の方に進んでいくと川の流れる場所にたどり着いた。
エマとアリスは、川に沿ってさらに森の方に進んでいくことにした。
すると、黒い大きな館のような家があった。
それは、話に聞いていた魔女の館のようだった。
エマは馬から降りると、はやる気持ちを抑え、館の入り口をノックした。
「すいません、私はアーラン国のエマと言います。少々込み入った話で参りました。」
「中に入れ。お前たちが来ることはわかっていた。」
館の中から、低い女の声が聞こえた。
エマとリリナスは、言われた通りに入り口を開けて、館の中を見た。
そこには黒装束の魔女がいた。
黒いフードで顔を覆い隠していて、顔つきは見えなかったが、年老いている訳ではないよだった。
「お前はいったい何が欲しいんだ?」
魔女はエマに向かって聞く。
「魔女の秘宝について知りたくてきました。」
「秘宝はいろいろあるが貴様は何がしたい。」
「魔女同士で子宝を授かる方法があると聞きました。」
「なるほど、女同士で子供が欲しいと。ふん」
魔女は怒ったような笑っているかのような声で話す。
「秘宝はありますか?」
エマは魔女の雰囲気に飲み込まれないように、堂々と尋ねた。
「それなら、ある。」
魔女はそう言った。魔女はフードの下でニヤリと笑みが浮かんでいるように思えた。
「部外者は席を外してもらえないか?」
魔女はリリナスにそう言う。すると扉が急に開いた。
リリナスは心配そうな表情をしたが、エマにも席を外すように言われ、リリナスは渋々と館の外に出た。
リリナスが出るのを見計らって、魔女はエマに話を続けた。
「これがその秘宝だ。」
それは赤い林檎だった。
不思議なくらい赤く、何か生きているかのようだった。
「お前が、この林檎を食べ噛み砕き、相手に口移しして、その物が食べきると、その物はお主の子供を授かるだろう。」
「それを私に頂けるのでしょうか?」
「ふん。これが欲しいなら条件がある。」
「何でしょうか?」
「その相手が最も大切にしているものを私にくれることだ。」
「えっとそれは宝石とかですか?」
「かもしれない。それを渡すと約束するなら、この林檎を差し上げよう。」
エマは、アリスが大切にしていた宝石や装飾品を思い浮かべる。
そのうち一つくらいなら大丈夫だろうと思った。
「わかりました。」
エマは承諾した。
魔女はフードの上からでもわかるくらいニヤリとした笑みを浮かべた。
そして、林檎をエマに差し出した。
エマは林檎を受け取る。
「ありがとうございました。では後日、大切なものを聞いて持ってきますね。」
そうエマは答え、魔女の館から出た。
エマが出た後の部屋で、魔女はクククと笑い声を立てていた。
エマとリリナスと魔女の館を出てると、まっすぐに城に戻った。
エマは魔女の秘宝である林檎をアリスに見せに、アリスの部屋に向かった。
「この林檎が魔女の秘宝?」
アリスは見たこともないくらい赤い林檎に興味津々のようだった。
「はい、魔女からそう言われています。」
「これをどうやって手に入れたの?」
「あ、えーとですね。自然にお伝えできないで申し訳ないんですが、
何かアリスの大切なものを差し出すように約束しました。」
「え、大切なもの?」
アリスは直感的に嫌な予感がした。
「そんな大層なものじゃなくていいと思います。アリスの大切な宝石とかで。」
「ああ、宝石ね。それならいくらでも差し出すわ。」
アリスはホッとしたように言った。
そして、その日の夜になった。
エマとアリスの二人はベッドの上で向かい合っていた。
エマの手には例の林檎が握られていた。
「では、林檎食べますね。」
そうエマは言うと、林檎に口をつける。
その林檎の味は、今まで食べた林檎とはまったく異なる甘さがした。
それを一口含みよく噛む。林檎は唾液を含んでいき容量を増していく。
それを飲み込まないようにしながら、よく咀嚼する。
噛み砕き、十分にどろっとした状態になると、アリスを見る。
アリスは目を閉じ口を前に出す。
エマは口づけし、アリスに流し込んでいく。
アリスは頰を赤らめ、口に含んでいく。
そして、流し込むと味わうように口に含み、そして飲み込む。
エマも、アリスも何か強い興奮を覚えていた。
林檎を全て食べ終えるまで、それを何度も繰り返す。
エマも、アリスだんだんとトロんと目つきになりながら続けた。
そして、夜は更けていった。
次の日になった。
アリスは朝起きると、特に体に異変はないようだったが、何かいつもと違う気がした。
そして、しばらく何事もなく日が経った。
一ヶ月も過ぎようとした日の夜、アリスはエマの部屋に急に飛び込むと、エマに抱きつく。
エマは無言で抱きつかれ驚くが、アリスが本当に嬉しそうで、幸せそなう表情をしていて、何が起こったかわかった気がした。
「今月になってもこないから、私もしかしたら。」
アリスは恥ずかしいそうに言った。
「アリス。」
エマは強くアリスを抱きしめる。
アリスも抱きしめ返した。
まだ確信はなかったはずだったが、二人は嬉しかった。
次の日に、エマもついて、アリスは医者に診てもらうことになった。
医者はエマが妊娠している可能性がかなり高いと伝えた。
魔女の秘薬により、アリスとエマは子供を授かっていたのである。
二人は幸せだった。その日も、二人はお互いを強く抱きしめながら眠りについた。
次の日の朝になった。
アリスは起き上がると、エマはぐっすり眠っているように見えた。
「エマ、そろそろ起きないといけない時間よ。」
そう言いながら、エマを揺り動かす。
何度かエマの体を揺らすが、エマは起きなかった。
「エマ?」
アリスは大きい声で何度も何度も呼ぶもエマは起きなかった。
アリスの一番大切なものは、エマだった。
魔女は契約に従い、魔女の秘薬である林檎の代償にエマの魂を奪っていったのである。