28話 跡継
エマとアリスが新婚旅行から帰ると、日常に戻っていった。
エマは将軍補佐として、兵士の育成から予算の振り分けなど多数の業務をこなす必要があった。
そして、今日も難しい顔をして、城の中を歩き回っていた。
「こんにちは、エマさん、」
エマが執務室から出るときに、ちょうど訓練を終えて詰所に戻ろうとしていた、騎士隊のリリナスと出会った。
「あ、お久しぶりです。リリナスさん。」
「何かすごい難しい顔してたけど、やっぱり将軍補佐は大変?」
「あー。仕事はそこまでではないです。」
「えーと、じゃあもしかして結婚して困ったことになったとか?」
「うーん、それに近いです。」
「へー。姫様は大人しそうだけど、わがままだったりしたとか?」
「姫様は関係ないんです。姫様と私の中はもうそれはもういい感じです。」
「はいはい、のろけのろけ、乙です。」
むふーと満足そうにエマが答えるのを、うっとおしさ半分、羨ましさ半分でリリナスが答える。
「じゃあ何に困ってるの?」
リリナスは不思議そうな顔をした。
ふと、エマは経験豊富なリリナスに聞いてみれば良いことに気がついた。
エマは急に真剣そうな難しい表情をし、リリナスに言った。
「リリナスさん、この国の将来のことで相談に乗りたいんですが、時間ありますか?」
「え、あ、はい、時間あります。」
リリナスは将軍補佐で将来の将軍、国王と召されているエマに、国の将来に関して相談されることになり、表情が固くなった。
二人はエマの執務室に入り、話すことになった。
「で、要はエマさんは、姫様との間に子供が欲しいと。」
「はい、そうなんです。」
「はぁー。」
リリナスがため息を吐く。
「リリナスさん?」
エマはリリナスがため息をついたことで心配になる。
リリナスは微笑を浮かべた。
「恋愛のレの字も知らないかった、エマさんが気づけば素敵な相手を見つけて、
さらには私も試みたことのないことをしようとしていて、羨ましくなっただけ。」
「……。その節はリリナスさんにお世話になりました。」
エマはリリナスにアドバイスをもらったことを思い出し、感謝する。
「ふふ。今の感じを見ると、あのアドバイスはなくてもエマさんと姫様は結ばれたと思いますけどね。」
リリナスにそう言われ、エマは照れた表情をした。
「で、二人の子供の話をすると、実は私も何回か調べたことがあって、確証はないんだけど、一つだけ情報があります。」
リリナスの発言にエマは身を乗り出す。
「それを教えてください。」
「……。情報が正しくない可能性があり、入手するには危険性があるのですが、
魔女は代々女性同士の家系で跡継ぎを残していて、そのための秘宝があると聞いたんです。」
「魔女?」
「ええ、魔女です。人よりも長く生きる魔女が数十年一度くらいで秘宝を使って、子宝を授かっているようです。
ただ、魔女の秘宝についての情報はないから、魔女に会って話を聞かなければならないでしょう。」
「……。危険でも可能性があるのなら、魔女に会いに行かないと行けない気がします。」
エマは納得したように一人頷く。
「噂では、魔女はこの国の北にある冥界へと通じると言われる森の近くに住んでいるようです。」
「なら、試しにそこまで行くしかないようですね。リリナスさんも一緒についてきてくれませんか?」
「私が言い出した手前責任もあるので、ついていきますよ。」
「ありがとうございます。」
エマはいつも助けになってくれるリリナスに感謝する。
「ただ、気をつけてください。魔女は悪知恵があり、冥界に住む悪魔と繋がっていると言われています。
非常に危険な相手なので、交渉するには気をつけないといけません。」
リリナスがそう注意するのを聞きながら、エマは魔女に会いにいく覚悟を固めた。




