22話 いきなり◯◯?
アリスにプロポーズし成功した日から、エマにはある悩みを持つようになっていた。
いや、以前から悩んでいたが、顕在化してきたというべきだった。
それは、夜の迎え方だった。
エマとアリスは婚約したものの、互いに初めての恋人であり、エマには知識がまったくなかった。
一方でアリスは男性との行為については知識があったが、女性との行為についてはなかった。
そんな二人の夜の過ごし方は、ベッドの上でお互いに抱きしめ、キスをして満足し、安らかな眠りについてしまうのであった。
それはそれで、幸せで楽しい恋人生活ではあったが、エマの心の中にある大きな感情がもっともっとというのであった。
その日、エマは騎士隊の騎士長として、メンバーともともに訓練に励んでいた。
メンバーの一人である女騎士のリリナスの姿を見る。
リリナスは、以前プロポーズのことを相談に乗ってもらっていたし、
城下町に住む女性と付き合っていて、さらには経験が多いとも聞いていた。
恥ずかしいけど、わからないことは人に聞くのが一番。
エマは、訓練後にリリナスに教えを請うことにした。
「ふーん。エマさんはタチかな?」
「タチ?」
訓練場に二人残り、ベンチに座りながら、リリナスとエマは話あっていた。
リリナスはエマの性知識のなさに驚いてはいたが、微笑ましいものと感じているようだった。
「まあいいです。エマさんは少し難しく考えすぎ。騎士長がしたいように、したらいいんです。」
「したいようにって、そんな難しいですよ。」
「難しくありませんって、アリス姫に何がしたいんですか?」
「だって、私はキスだけじゃなくて、姫様のお胸とかお尻とかを……。」
エマは手をもじもじと怪しい動きをしながら、顔を赤くして話す。
「わかってるじゃないですか。それでいいんです。」
「そんな、不敬罪です。」
「何言ってるんですか。エマさんは固いんです。アリス姫と婚約しているれっきとした恋人同士なんですよね?
なら気さくにアリスぅーとか呼んでみたらどうですか?」
「そんな無礼なこと私にはできないぃ。」
エマは想像してしまわないように、首をなんども振りながら答える。
リリナスはそんなエマを見て厳しい顔をして、言った。
「エマさん、あなたのその行動の方が相手にとって失礼ですよ。
あなたはアリス姫のことを恋人ではなく、主人として見ているように見えます。
それでいいなら、それでいいですが、アリス姫がどう考えているか一度じっくり考え直してみてはどうですか?」
「……。」
エマは、リリナスの指摘に心打たれていた。
そして、アリスのことを思い浮かべた。
アリスは使えるべき主人であり、そういう風に接していた。
しかし、私たちは恋人同士、さらには婚約も済ませている。
主人からその先に進む時が来たのだ、エマは思った。
「リリナスさん、ありがとうございます。私、姫様との関係をもっと深めたいと思います。」
エマはリリナスに笑みを浮かべながら言った。
「はい、その意気です。」
「あと、おすすめとしてはこう押し倒してはどうですか?」
そういうと、リリナスはベンチの横に座るエマの肩を押し、体を寄せ、押し倒す。
エマはリリナスの自然な動きに、経験を感じた。
そして、自身もアリスに試してみようという気になった。
押し倒された状態から、起き上がろうとして、視線を横に向けた。
視線の先には、怒った顔のアリスがいた。
アリスはエマが気づいたことに気がつくと、プンプンとして訓練場を後にした。
エマは、アリスからするとリリナスがエマを押し倒しているところを見られてしまったことに気がつき、愕然とした。
「あ、あれってもしかしてアリス姫じゃ?」
リリナスが言った。
「……。まずい、誤解をとかないと。」
エマはすぐに立ち上がり向かおうとすると背後から、他人事のようにリリナスは言った。
「いきなり不倫ですか。良いスパイスになると思いますよ。」
リリナスの言葉を無視し、エマはアリスの元に走って行った。