20話 デート
エマと、アリスが正式に付き合ったという話はすぐに城中に広まっていた。
エマがリリナスに告白が上手くいったことを伝えた際に、周りの騎士団のメンバーに聞かれしまい、広まってしまったのだった。
すると、城の中で特に何もしてなくてもエマとアリスが二人でいるだけで、あらあら、うふふ、など外野が囃し立てるようになってしまっていた。
二人は囃し立てられると何か恥ずかしくなってしまい、落ち着いて二人きりになれる場所が欲しくなっていた。
そんな中、バーン国にアリスとエマが招待されることになった。
あの事件の後、バーン国の国王も、アーラン国の国王も、互いに敵対し合うことは無意味であることに気づいたのだった。
違いに使者を出し合い、交易を持つようになり、友好関係を築くようになっていた。
そして、兼ねてからのバーン国国王からの希望で、エマとアリスがその使いとして向かうことになったのだった。
二人は客品の扱いであり、アーラン国まで、馬車で迎えが入った。
エマとアリスも、一度は敵対していた国同士であり、不安な面があったが、
アーラン国国王からの強い奨めで、馬車に乗ってバーン国に向かうことになった。
アリスの付き人は別の馬車に乗り込んでいたため、
馬車には、エマとアリスの二人だけが乗っていた。
「なんだか、こうして二人で馬車に乗っているとデートみたいですね。」
エマがアリスの横に座りながら、照れた表情で言った。
「何いってるの。これから一度は妃にされそうになった国王に会いに行くのよ。」
「そうですけど、もう友好国同士ですし。それに、」
エマはずいとアリスに近づく。
「もし、また姫様に危害加えようとしたら、私は姫様を必ず守ります。」
「ふん、ならいいけど。」
アリスはプイと横を向く。
エマは笑みを浮かべる。
「あ、外見てみてくださいよ。川が綺麗ですよ。」
エマに言われ、アリスが外を見ると木々の中に川が流れていた。
水面は太陽の光が反射され、美しく光り輝いていた。
「本当に綺麗。」
エマは普段城から出られないので、外の広大な自然の景色を見ていると心がワクワクしていた。
外をじっと眺めていると、不意に密着するような形でエマが近づいてた。
アリスは驚くと、エマはアリスに向き合う。
「あの、姫様、手を繋いでいいですか?」
「……勝手にしなさい。」
エマはアリスにそう言われると喜んだ表情をして、アリスの手を握る。
二人は手をつないだまま、バーン国までの道中、外の景色を堪能した。
しばらくするとバーン国に到着した。
城は焼け焦げて瓦礫の箇所もあったが、広間の部分含め、大部分は修繕されていた。
広間に案内されると、バーン国の国王がいて、エマとアリスをにこやかに歓迎した。
国王に怪我はなく、無事だったようだった。
アリスは事前にアーラン国の国王から受け取っていた、同盟国の契りの書状をバーン国の国王に手渡す。
国王は受け取ると、同じように同盟国の契りの書状をアリスに手渡した。
これで、アーラン国とバーン国は正式に同盟国となり、協力関係を築いたのである。
契りを結んだ後に、盛大に宴会が開かれた。
広間のテーブルには、バーン国の名産料理、お酒が配膳され、
アリスもエマも食べ切れるだけ、食べていた。
すると、国王が近づき、二人に話しかけた。
国王は縛られたことは気にしていないようで、命を救われたことに感謝しているようだった。
「ところで、いったいどうして私の部屋に侵入できたのか教えてくれないか?」
国王は、いくら警備兵が少なかったとはいえ、エマが簡単にバーン国に侵入できたことに驚いていたようだった。
アリスも、気になるようで、エマを見る。
エマは照れ笑いしながら、説明した。
「私は数年前にある事件から、城を追い出されて、城の中に入ることが禁止されてたんです。
でも、姫様に会いたくて、城に侵入することにしたんです。」
「ほう。」
国王はニヤリと笑みを浮かべ、アリスとエマを見る。
アリスとエマは二人の関係に気づかれ、照れた表情を浮かべる。
「城に侵入したことがバレてしまうと、次は本当に国を追われかねない状況でした。
それで、侵入するための道具を念入りに開発したんです。」
国王は納得したような顔でエマの話を聞き、頷く。
「始めて城に侵入したときは、警備兵の数が少ない日だったので、思いの外簡単に侵入することができました。
ただ、私は一度侵入した後も、姫様に会いたくて、毎週のように通いました。」
「それはすごい。見つかることはなかったのか?」
「はい、何度か見つかりそうなこともあったんですが、その度に回避しました。
そして、さらに楽に侵入できるように道具を改良していきました。最後は白昼堂々でも侵入できるくらいになってました。」
「なるほど、ハッハッハ。それで我が城に見つかることなく入れたわけだ。」
エマの話を聞き、国王は満足そうに笑い声をあげる。
「アリス姫への愛が、エマさんを成長させたんですね。」
国王の問いにエマは、どう答えるべきか迷った。
アリスの方を見ると、照れた表情で俯いていたが、横目でエマの方をじっと見ていた。
「はい、そうです。」
エマが照れたように答える。
アリスはエマがそういうのを聞き、嬉しそうな表情をした。
「お二人が好き同士とは知らなかった。」
国王はそう笑みを浮かべながら言った。
アリスとエマは照れるしかなかった。
宴会が終わり、その日はバーン国で一夜を過ごすことになっていた。
二人を案内する付き人についていくと、部屋の前立ち止まる。
「お二人のお部屋のなのですが、一つの部屋で大丈夫と国王から伺いましたが、よろしいでしょうか?」
と付き人に聞かれ、エマはどう答えようか迷った。
「ええ。問題ないわ。」
すると、アリスがあっさり答えた。
二人は用意された部屋に入ると、デスクなどは二つ用意されていたが、ベッドだけは大きなサイズものが一つだけ置かれていた。
こ、これは、と思いエマがアリスを見ると、アリスも同じ思いのようで、顔を赤くしていた。
気にしないように、部屋に入るが、一つって部屋の数だけじゃなくて、ベッドの数もか、とエマもアリスも心の中で思っていた。
小さい頃は二人は一つのベッド眠ることはあったが、その頃の関係と今の関係は違っていた。
さらに、大きくなって二人が一つのベッドで眠ることはなくなったので、ついついベッドでのことを意識してしまうのであった。
お互い意識してしまうため、会話も固くなってしまう。
エマは、雰囲気をときほぐそうと、カーテンを開けると、外は満点の星空が広がっていた。
さらに窓を開けると、星空が綺麗によく見えた。
「あ、姫様、見てください。星空が綺麗ですよ。」
「え、本当?」
アリスはエマのそばにより、星空を見上げる。
そして、うっとりした表情で空を見上げていた。
エマはアリスに近寄られ、胸の鼓動が早くなった。
そして、勇気を出して、アリスの手を静かに握った。
アリスは握られて驚いたようだったが、握り返す。
お互いに向き合う。
「アリス」
「エマ」
二人の顔の間隔は狭くなり、口づけをする。
二人は、美しい星空の下で、抱きしめ合った。
次の日の朝になった。外ではチュンチュンとスズメが鳴いていた。
エマが、ベッドから起き上がると、そばには静かに眠るアリスの姿があった。
昨日は、星空下で、抱きしめあい、そして、そして……、寝た。
文字通り、旅疲れもあり、睡眠を取った。
エマは本当はもう一線を超えたいとも思っていたが、アリスの無垢な表情を見て、それ以上進むことができなかった。
「うん…。む」
アリスも寝ぼけ顔で目を覚ます。
「エマ、なんで、ここにいるの?」
アリスはどうも寝ぼけているようで、ここを自身の部屋だと思っているようだった。
「姫様、ここはバーン国ですよ。昨日に来て、この部屋で一泊したじゃないですか。」
「ああ、そうだった。」
アリスは少しは目を覚ましたのか、起き上がろうとして、エマの方に向く。
そして、可愛らしい笑顔をしたと思うと急にエマに抱きつく。
「ひ、姫様!?」
「おはよう、エマ。」
驚き硬直するエマをアリスはぎゅーと抱きしめ、満足し終えると起き上がる。
そして、呆然とするエマに向かって言った。
「ほら、早く起きて、この国出るわよ。」
アリスは元気に笑みを浮かべていた。
エマもその表情を見て、心の底から笑みが広がった。