1話 始まり
これは国々が勢力拡大のために争っていた時代のお話。
各国は城と城下町を築き、自国を守るための軍隊を整備していた。
そして、勢力を高め、他国に攻め入り、領土の奪い合いをしていた。
そんな時代に、深い森に囲われた場所に一つの国があった。
そこはアーラン国といった。
アーラン国は至って平凡な小さな国であったが、
冥界に通じると言われる森や、天界に通じると言われる山に囲われ、
隣国から離れた場所にあったため、攻め込まれることが少なかった。
アーラン国の周辺の気候風土はよく、作物はよく育ち、
国の規模は小さいながらも、人々はのびのびと生活を送っていた。
しかし、アーラン国の近く魔王と呼ばれる怪人が住む魔王城があった。
そして、魔王城の近くには魔物たちが跋扈していた。
さらに、距離的に最も近くにある隣国、バーン国から送られてくる偵察隊がいた。
アーラン国は、騎士隊を主とする兵士たちを送り込み、銃や剣で、魔物だけでなく敵国と衝突を繰り返していた。
そんなアーラン国は、建国当時から優れた国王が統治していた。
現国王も知力、統率力に優れ、兵士だけでなく国民から強く支持されていた。
国王には、アリスという一人の娘がいた。
アリスは、美しい金色の髪を持つ、美しいお姫様だった。
一人娘ということもあり、大層可愛られて育てられていたので、わがままなところはあったが、
両親から受け継がれた聡明さがあった。
アリスには二人の幼馴染みがいた。
一人は騎士隊の騎士長を務めるゼルクで、大きな体躯と優れた頭脳を持つ男だった。
ゼルクの父親は将軍であり、小さい頃から学問を学び、騎士として厳しく鍛えられていた。
人並みに外れて厳しく指導されていたが、情に厚く騎士隊含む兵士一同からの人望があった。
そして、アリスとも仲が良く、国王と将軍の間で婚約者の契りを結んでいた。
もう一人の幼馴染みは騎士見習い兼、道具屋のエマだった。
エマは短めの黒髪で、色黒の顔つきで遠目からは女の子に見えないようだった。
しかし、近寄ってみると整った顔つきをしていて、騎士隊の中で人気があった。
エマは幼少の頃、アリスのお付きだった。
付き人として、アリスの衣食住の世話をしていた。
エマはアリスの言うことは何でも聞いていた。
そして、アリスが城の外に出たいという要望を素直に聞き、エマは夜な夜なアリスを街に連れ出し、付近を散策していた。
ある日、いつものように夜に街に出ると、二人は夜道で盗賊に出会ってしまい大変な目にあってしまった。
なんとか二人は無事に助かったが、エマは国王の怒りに触れ、この国を追放されそうになった。
しかし、アリスの命令だったことがわかり、アリスからも強く反対されたこともあり、
国王の恩赦として、城からは追放され、付き人は解雇されたが、城下町にいることは許され、道具屋として働くことになった。
そして、エマはアリスに面会が許されることはなくなった。
アリスには代わりの付き人がついた。
アリスは成長するにつれ、将来の将軍とされるゼルクとの婚約が決まっていた。
エマはアリスから離れたところで、二人の行く末を見守ることしかできなかった。