16話 救出再び
アリスはバーン国に連れられ、バーン国の国王と一夜を過ごすことになりかけた。
しかし、その夜にエマが現れ、それを阻止し、国王を縛り挙げた。
後は、バーン国からの脱出とアーラン国を敵兵から取り返すことが必要だった。
エマは、ベッドの上の上に寝具を集めると、油のような液体を垂らした。
そして、そばには魔王城でも使用した丸い円筒状の爆薬を置いた。
エマは、配置を終えると、今いる部屋の窓から外を見て、
外に誰もいないことを確認すると、鍵なわを降ろす。
「姫様、こちらに。」
エマはアリスに声をかける。
アリスはエマに近寄ると、エマはアリスを抱き上げる。
エマに抱きかかえられながら、アリスはエマの厚く固い胸板にたくましさを感じた。
固くむしろ痛いくらいだったが、アリスはエマを抱きしめる。
「……。エマ、ありがとう。」
「姫様。私はいつでも姫様をお守りします。」
エマはそう言うと、アリスを抱きかかえたまま、なわを降りていき、城の中かから脱出する。
降り切ると、エマはアリスを下ろし、警備兵が付近にいないことを確認する。
夜分遅くでもあり、多数の兵士はアーラン国に残っているため、警備兵の数が少ないのであった。
「姫様、あの城壁のそばの草むらの中で待っていてください。」
「エマ、どこにいくの?」
「はい、最後にしないといけないことがあるんです。」
アリスはエマのすること察した。
敵国の王の命を取るのだと。
エマは、鍵なわを登っていき、アリスは草むらの中に隠れた。
アリスは、草むらの陰から、部屋の様子を見ていた。
すると、なんと、エマは意識がなく縛られている国王を抱きかかえると、なわを上手くつかい地面に降ろしていた。
地面に降りると、鉤なわを片付けた後に、国王を抱きかかえ、アリスのいる草むらのそばまで運んだ。
そして、草むらの中に隠されていた穴に国王を隠し、土と草をかぶせていった。
アリスが埋められていく国王を見ていると、国王の顔色はよく、死んでいるようには見えなかった。
アリスははエマの行動の意図がわからず困惑する。
「エマ?これはどういうこと?」
「国王を隠して、時間稼ぎするんです。」
エマはそう言うと、顔の一部と呼吸穴だけ残し、国王を土の中に埋めきった。
エマは最後に国王の部屋から垂らしていた細い導火線に火をつけた。
導火線は少しずつ燃えていき部屋の中に入っていった。
燃えていく、その間にエマは、城壁に鍵なわをかけ、アリスを抱えながら、城壁を乗り越える。
二人は城からの脱出に成功したのである。
しばらくすると、次々と城の中が炎上していった。
国王の部屋が発火元となり、煌々と火は燃え広がっていった。
最終的に城全体に炎が燃え上がっていた。
エマは城中に燃え広がるように爆薬を配置し、油などを流し込んでいたのだった。
エマとアリスは城を脱出した後に、エマが川下に隠した馬に乗り、アーラン国に向かった。
しばらく進むが、バーン国の方からは黒い煙が轟々と上がっているが、城からの追っ手は来てはいなかった。
城の中は消火活動と国王の救出で手一杯で、追っ手に回す人は余っていなかったのだ。
アリスは手綱を持つエマに寄り添うようにもたれかかる。
「エマ、来てくれて本当にありがとう。無事でよかった。」
エマはアリスと密着していることに気づき、鼓動が早くなる。
「……。私も姫様がご無事でなによりです。」
「エマが、敵兵に撃たれて、崖から落ちていったって話を聞いた時は本当に悲しかった。」
「そんな話になってるんですね……。」
「えっ?」
アリスはエマの反応に驚く。
するとエマは誤魔化すように微妙な笑い顔をする。
「い、いえ、銃で撃たれて崖から落ちた時は、私もまずいと思いました。」
「本当、なんで傷もついてないようだし大丈夫だったの?」
「それは、ですね。」
そういうと、エマは胸元からアリスからもらった金のペンダントを取り出す。
ペンダントは弾が当たり、大きく丸く凹んでいた。
「姫様からもらったペンダントが守ってくれたんです。ただ、弾が当たって、凹んじゃたんです。申し訳ないです。」
「そんなの気にしないわ。それでエマが助かったのなら本当によかった。」
「はい、お守りの効果があったんです。」
「ふふふ。でも敵兵も一発だけ撃つだけだなんて、お優しい方だったのね。」
「……。ええと、すいません、少し脚色していました。本当は何発も撃たれていて。」
「え?じゃああとの弾はどうしたの?」
「実は、そもそも着ている服が防弾仕様になってるんです。」
「え?」
「一発はペンダントで防げましたが、後の弾はこの胸当てが防いでくれたんです。」
そういうと、エマは上着を開く。
そこには厚い鉄でできているような胸板があった。
胸板には何箇所も銃痕が残っていた。
「え?それって?」
「特製の胸板です。銃弾で撃たれても、刀で切られてもビクともしない作りになってます。」
アリスは、城の中でエマに抱きかかえられた時に固い胸板と感じたことを思い出した。
「さっき抱えられた時に、それ固くて痛かったわ。」
「すいません。」
「もう。」
そういうとアリスはエマに抱きつく。
アリスの柔らかな胸と、エマの固い胸板が当たる。
「嘘よ。痛くないよ。大好き。」
エマはアリスに抱きしめられて顔が赤くなっていた。
「ところで、どうしてバーン国の国王の命は撮らなかったの?」
「城の中に潜り込んでいるときに、兵士たちの話を聞いてましたが、バーン国王は
アーラン国で無用な命を取らないように命令したはずです。
一端の騎士として、それに敬意を記しました。あと何より姫様にもお怪我はなさそうでしたし。」
「もう、エマったら。」
エマは国王の命は助かるようにわざわざ城の外に出し、土の中に埋めたのだった。
馬を駆け、アーラン国に近づいていく。
エマが背後を振り向くと、轟々とバーン国周辺から、黒い煙が上がっているのが見えた。
アーラン国の城下町につくと、城周辺はバーン国の兵士で囲われていた。
兵士達は不安そうな表情で、黒い煙が上がっているバーン国の方を向いていた。
エマは馬に乗りながら、敵兵達に大きい声で伝えた。
「バーン国は、我がアーラン国の隠れ部隊により制圧され、お前たちの王は討ち取った。」
敵兵達はエマの言葉に驚愕したように声をあげる。
そして、エマは話を続ける。
「アリス姫は今ここに戻られ、サインされた降伏書もここにある。」
といい、エマは執務室に忍び込み手に入れた降伏書をその場で破きさった。
「これで、降伏は解消された。
アーラン国の隠れ部隊が、すでにこの城を包囲している。
お前達は我々の命を取らなかったから、猶予を与える。
しかし、直ちにバーン国に戻らなければ、お前達の命もない。」
そう、バーン国の兵士達に聞こえるように、大声でエマは言った。
すると、敵の軍勢は騒ぎ出し、すぐに勢いよく散り散りに逃げ出した。
アーラン国はバーン国から解放されたのだった。