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15話 初夜

アーラン国が降伏した、次の日になった。

バーン国の将軍の隊に連れられて、アリスはバーン国に向かうことになっていた。

バーン国の国王のお妃になるため、馬車が用意され、アリスは丁重に扱われていたが、周りには兵士がいて、軟禁状態だった。


アリスは怒りの感情を抑え、力なく連れられていた。

エマのことを忘れていなかった。

馬車は、カタカタと揺れながらバーン国に向かっていった。


道中何事もなく、しばらくするとアリスを乗せた馬車はバーン国の城下町についた。

そして、さらに進んでいくと、バーン国の門があった。

門を入ると、バーン国の国王が待ち受けていた。

国王は、中年で美しいとは言えない顔つきをしていて、体も大きく膨らんだ体型をしていた。

アリスは嫌悪感を感じたが、諦めるしかなかった。


国王は噂通りの美しい姫の姿に下品な笑みを浮かべ、宮廷内を案内した。

アリスは城下町の様子や城の中を見ながら、バーン国はアーラン国と、細かなところでは違っても大きくは変わらないようにも見えた。

しかし、兵士の様子を見ると、皆精悍な顔つきをしていて、アーラン国の兵士よりも優れているようにも見えた。


最後に玉座に案内されると、玉座に座った国王のそばに第一王妃がいた。

王妃は年齢は40才近くだろうか、美しい顔つきのすらりとした女性だった。

アリスのことを哀れに思うのか、悲しい表情をしているように見えた。

それが、さらにアリスは自身のことを何よりも哀れに思えた。

大切な人を葬った国の国王に嫁ぐことになったのだ、哀れに思うしかなかった。


アリスは、付き人に案内され、アリス用に用意された部屋に連れられた。

そこは、大きなベッドと、机、クローゼットなど基本的なものが揃えられていた。

部屋の入り口は外から鍵がかけられているようで、自由には出られないようだった。


「はぁ。」

アリスは部屋の中で、一人ため息をついた。

あまりに環境が変わり、戸惑う気持ちもあり、自身を悲しむ気持ちは当然あった。

しかし、何よりも、ずっとエマのことを思っていた。

エマが側にいないということが、アリスの心に大きな空虚な気持ちを持たすのだった。


周りを見ても、一人。

ドンドンと部屋を叩く音がした。

「アリス姫、私だ。入るぞ。」

そういうとドカドカとバーン国の国王が入ってきた。

尊大な行動と態度に、虫酸が走りそうになる。


「どうだ、この部屋は。バーン国の調度品で揃えている。

しかし、眠りやすいように寝具はアーラン国の品で揃えている。

といっても、もはやアーラン国はバーン国の属国にすぎないわけだが。」

そういうと何が面白いのか、国王は満足そうに笑い声を上げる。

あのアーラン国はもうなくなるんだと思うと、アリスは悲しい顔をした。

そのアリスの姿を国王はいやらしいく舐めまわすように見つめる。


「長旅で疲れたろう。体の汚れを落としてくるんだ。」

国王はアリスにそう伝えると、部屋を出ていく。

部屋の入り口で振り返って言った。

「その後に私の部屋に来るんだ。」



バーン国の大浴場は広く、アリスはゆったりと湯に浸かることができた。

内心怒りを感じ、沈んでいたはずだが、だんだんと諦めがつき、どうでもよくなっていた。

国王のことは好きになれるはずもなく、顔も見たくないが、これでアーラン国の人々の命が助かるのなら、

自己犠牲になるのはアーラン国の姫の最後の勤めと覚悟もついていた。


お風呂に浸かりながら、昔のことを思い出していた。

それはエマとの思い出ばかりだった。

小さい頃いつでも一緒にいてくれてたエマ。

城の外に連れ出してくれて、下界というものを教えてくれたエマ。

盗賊に捕まったときに身を呈して守ってくれたエマ。

離れ離れになっても、裏口から夜な夜な会いにきてくれエマ。

そして、魔王から助け出してくれたエマ。


アリスはエマのことを何より大切にしていたと、強く思う。

その気持ちを忘れないと、この後がつらいこともわかっていた。

過去の記憶を忘れるように、アリスは気高く立ち上がった。

気高く美しい、アーラン国の姫としての姿がそこにあった。


付き人に連れられて、アリスは王の寝室に入った。

そこには、広いベッドが置かれ、開かれた窓からは綺麗な月や星々が見えた。

国王は手に二つのグラスを持ち、そのうち一つをアリスに差し出す。

アリスはそれを受け取らなかった。

国王は一口を飲むと、アリスに近づいていく。

覚悟は決めていたものの、アリスは近づかれると、後ずさってしまう。

それが国王に火をつけたようで、目は燃えるように開いていき、興奮した表情をする。


「……っ」

アリスはその目が怖く、怯えたような声をあげる。

一瞬ガタッと音がして、アリスも国王も振り返る。

しかし、そこには何もなく、風が家具を動かしただけのようだった。

バーン国王は、気を取り直し、アリスに向かい合う。

その目は何か興奮しすぎているのか、徐々に虚ろになっているように見えた。

「アリス、さぁ、こっちに……。」

バタリと、バーン国王が急に倒れた。


「静かに」

声が聞こえ、アリスはカーテンの方を見た。

カーテンの裾が開くと、そこにはアリスが一番会いたかった人がいた。

それは崖から落ちたはずのエマだった。


アリスは呆然とエマの姿を見た。

エマは敵兵の手で、崖から突き落とされていたはずにも関わらず、元気そうな姿をしていた。


「エマ」

アリスはエマに走り寄り、抱きつく。

「あなた、一体どうして。」

「姫様を救出しにきたんです。詳しくは後で。」

そう言いながらエマは、側で倒れていたバーン国の国王を縛り挙げていた。

「早くこの城を脱出して、アーラン国に戻りましょう。」


「でも、アーラン国は制圧されちゃってる。もう戻れるところじゃない。」

「私に策があるんです。」

そういうとエマは笑みを浮かべた。

アリスはその笑みの中に希望を見た。

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