14話 人質
アーラン国が、バーン国に降伏した日、
国王や住民の命だけは取られないようにするため、アーラン国の兵士をバーン国の軍門に下す必要があった。
それは、事実上、アーラン国が、バーン国の属国になることを指し示していた。
さらに、アリスを人質のような形で、バーン国国王の妃として差し出す必要があった。
敵兵に連れられ、国王とゼルクはアリスの部屋に向かった。
部屋の前にはバーン国の兵がいたが、部屋には鍵がかかっていて、扉は閉まったままだった。
「アリス、私だ。開けてくれるか?」
国王は部屋の中にいるアリスに向かって声を掛ける。
すると、ガチャリとして、扉が開いた。
そこには、目が真っ赤にし、悲しい表情のアリスがいた。
「アリス、落ち着いて話を聞いてほしい。」
「……。私たち、負けちゃったの?」
アリスは感情のないような声で言った。
アリスの部屋の中からも、外の音が聞こえていてアリスもなんとなく状況を把握していたのだった。
「……。そうだ。我々はバーン国に降伏した。」
「これから、どうなるの?」
「……。アリスには、バーン国に行ってもらう必要がある。」
国王の話で、アリスの目に猛然と怒りが浮かんだ。
「エマを殺したバーン国に行けるわけない。」
「……。」
国王はアリスの気持ちを察し、それ以上言えないように黙った。
すると、ゼルクが姫に向かって言った。
「アリス姫、我々は負けたんです。降伏するしかないんです。抵抗すると我々騎士隊含め、
アーラン国の国民がどんなひどい目にあうかわからないんです。」
ゼルクは冷たく言い放つ。
アリスは本当は降伏条件に従うしかないことはわかっていた。
しかし、婚約者であったはずのゼルクにも冷たく言い放たれ、悔しい表情を浮かべる。
そして、しばしの沈黙の後に覚悟を決め、国王に向かって言った。
「アーラン国の姫の最後の役割を果たします。」
バーン国の国王に降伏完了したことを伝え、国王からの指示を聞くまでの間待つ必要があったため、
アーラン国の国王、将軍、ゼルクは騎士隊のメンバーと一緒に広間に集められていた。
敵兵達は、広間の中に敗れたアーラン国の兵士たちを囲んでいた。
そして、敵兵は互いに雑談と、降伏した者達を嘲笑しながら、見張っていた。
「この国には魔王を退けた騎士がいると聞いたが、本当にいるのかそんなのが。」
「デマだろ。」
敵兵の話す雑談の中で、エマの話が、ゼルクや騎士隊のメンバーの耳に聞こえてきた。
騎士隊のメンバーは、エマのことを思い出し、さらに悲しい気持ちになった。
しかし、何人かのメンバーは違和感を覚えた。
ゼルクは言っていたはずだからだ、エマは敵兵に撃たれ崖から落ちたはずだと。
であれば、敵兵がエマのことを知らないわけなかったからだ。
ゼルクは真っ青な表情をしながら、ただ静かにしていた。