13話 誕生日
次の日になり、アリスの18才の誕生日となった。
しかし、主役であるアリスは部屋に閉じこもったきりで、部屋の外に出てこなかった。
アリスはベッドの上で泣いていた。
一方でゼルクは執務室にこもり、バーン国までの道に潜んでいると伝えた敵の軍勢を追い払う作戦を立てていた。
といっても見回りの際に確認したが、実際には存在していない軍勢であり、作戦を立てて、進んでいったところで、戦いになる心配はなかった。
さっくりと作戦を立てると、決行の承認を取るために将軍の執務室に向かった。
ゼルクは将軍に作戦を説明すると、将軍はその作戦の承認を出した。
あとはゼルクがその作戦を遂行するだけだった。
ゼルクは、騎士隊のメンバーに作戦を伝えるために、執務室を出ようとすると、
ノックもなく勢いよく、門兵が入ってきた。
門兵の表情は真っ青だった。部屋に入ると同時に叫ぶように言った。
「た、大変です。囲われています。」
「何があったのだ?」
将軍が聞く。
「バーン国の軍にこの街全体が囲われているんです。」
「なんだと。」
ドーン。大きい音がした。
そして、ウォーと叫ぶような多くの雄叫びが聞こえた。
将軍は、窓から外を見ると、何もかも遅かったことを悟った。
ゼルクは何が起こったのか、頭が追いついておらず、呆然と外を見ていた。
アーラン国の城が敵兵で包囲されていたのだった。
そして、すでに門は抉じ開けられ、広場にいる兵士達は制圧されていたのだった。
「アーラン国国王に告ぐ。降伏せよ。既に城は包囲されている。城門を開場せよ。
無駄な犠牲を払う必要はない。我々は国王含め、兵の命を取るつもりはない。」
バーン国の将軍と思わしきものからの通達も聞こえてくる。
誰の目にも勝敗はついていた。アーラン国にできることは無駄な犠牲を出さないためにも降伏すべきことは明らかだった。
将軍とゼルクは、玉座に向かった。
玉座には悲しい表情の国王が呆然と座っていた。
国王は将軍が来たことに気づくと、ぽつりと言った。
「全軍降伏し、城門を開場せよ。」
城門が開けられると、バーン国の将軍を先頭に敵兵達は玉座に進んだ。
敵兵は玉座に到着し、国王の姿を見つけると、バーン国の国王に降伏要求書を手渡した。
降伏要求書には、バーン国の国王含め、人員の命を助けるための条件が挙げられていた。
そこには、アーラン国の兵士の半数は、バーン国の兵士として働くこと、
残り半数は、奴隷として、バーン国で働くこと、が挙げられていた。
そして、最後の条件として、アーラン国の姫であるアリスをバーン国国王の妃の一人として嫁ぐことが挙げられていた。
それは、アリスが人質としてバーン国に送られることを暗に示していた。
既に制圧されている状況下で、国王には断るという選択肢はなかった。
降伏要求書に受理のサインを記載し、バーン国将軍に手渡した。
国王は降伏書を手渡しながら、最後に聞いた。
「いったい、いつこんな大群で我が国を包囲できたんだ?」
バーン国将軍は降伏書を受け取ると満足そうに国王を見た。
「我々はアーラン国までの道を通らず、遠回りをして、時間をかけジワリと包囲していったのだ。
バーン国までの道は、見回りに来ることは想定して、そこには兵を置いてなかった。
お前たちは見回りにきたようだが、本隊を見逃したのだ。」
そう、敵国の将軍は言うと、城の外に向かっていった。
ゼルクは呆然とアーラン国が降伏する様を見ていることしかできなかった。
そして、昨日のあの崖で、エマが森の中の不審な煙を怪しんでいたことを思い出した。
エマの気づきを重視し、煙の発煙元付近を調査していれば、敵兵の存在に気づいていたかもしれなかったのだ。
しかし、今更知ってももう遅かった。
ゼルクの父であるアーラン国の将軍は、愕然とした表情をしていた。
なぜなら、降伏したこと以上に、バーン国の将軍が言った話が、ゼルクの言った話と違うことに気がついたからだった。
であれば、エマ君は……。