10話 誕生日前日
アリスが18才になる誕生日の前日になった。
城内はアリスの誕生日会の準備のために、エマなど騎士隊のメンバーまで駆り出され、準備を進めていた。
本来は結婚式も兼ねていたこともあり、飾り付けは例年に比べて盛大だった。
エマは広間の装飾準備をしていて、手作りした飾りをぶら下げたりしていた。
「エマ、ちょっといいか。」
エマは声をかけられ、後ろを振り向くと、厳しい顔をしたゼルク騎士長がそこにいた。
「騎士長、何でしょうか?」
「手を止めて、ついて来るんだ。」
ゼルクはそうエマに付いてくるようにいうと広間を出ていく。
エマは飾り付けの準備を止めて、言われた通りに、ゼルクの後ろに付いていった。
ゼルクは将軍の執務室の横にある大会議室前に着くと扉を開く。
そこには将軍や騎士隊のメンバーがすでにそこに揃って、難しい顔をして議論しているようだった。
「エマを連れてきた。」
ゼルクがそう言いながら、部屋の前方にある地図の前に立つ。
「これから、ゼルク隊のメンバーで、バーン国までの道のりを見回りに行く。」
「え?」
エマはいきなり見回りと言われ、疑問を口にした。
将軍はエマが疑問を浮かべていることに気づき、ゼルクに向かって聞く。
「ゼルク、ここに来るまでにエマ君に伝えていなかったのか?」
「……。」
ゼルクは答えなかった。
将軍はゼルクが伝えていないことがわかったようで、エマに向かい状況を伝えた。
「エマ君、実は隣国であるバーン国が我が国に兵を進めてきているという情報が入ったのだ。」
将軍は心苦しい表情で言った。
そして、将軍はエマに、
その情報が事実かの確認に行く必要があること、
場合によっては敵兵のぶつかることが想定され、奇襲を受ける可能性がある危険な作戦となること、
その作成が遂行可能なチームとして、精鋭ぞろいのゼルク騎士隊のメンバーが選ばれたこと、を伝えた。
将軍が伝え終わると、騎士隊のメンバーの認識はそろったようで、全員立ち上がる。
そして、見回りに行く準備を始めた。
十数分後には、城門の前に騎士隊のメンバーと将軍、国王、アリスが集まっていた。
「そんな、エマは別に行かなくてもいいじゃない。」
アリスはエマに危険な作戦に出させないように国王と将軍願いでる。
国王と将軍は眉間にしわを寄せ、エマの意思を聞くためにエマを見た。
ゼルクは苛立った表情をしていた。
エマの意思は決まっていた。アリスを見て、自身の意見を伝える。
「姫様、私はゼルク騎士隊の構成員として、行かないといけないんです。」
「でも、危険だわ。」
アリスは反対した。エマはアリスに身を案じてもらえ、嬉しかったが、エマは騎士隊の命令に従わないといけない。
それに何より、アリスに危険が及ぶ可能性があるため、見回りに行かなければならなかった。
「姫様、それは隊の皆も同じです。ここで私が欠けると士気が落ちかねません。」
「……。そんな。」
アリスは泣きそうな顔をした。
「必ず、無事に戻ってきます。約束します。」
「……。絶対だから。」
そういうと、アリスはエマの背中を優しく撫でた後に何回も叩いた。
エマはアリスに押し出される形で気力が湧いてくるのだった。
騎士隊は城を出て、バーン国へと通じる道を進んでいった。
進んでいくと途中に茂みや木々が連な箇所があり、見通しが悪く、茂みの中に敵が待ち構えている可能性が高かった。
隊は一歩手前で止まると、ゼルク騎士長が隊に向かって振り返る。
「大勢でいくと目立つから状況を見てくる。敵に見つかった際にすぐ撤退できる準備をしておくように。」
そういうとゼルクは静かに単身で偵察に向かう。
他のメンバーはゼルクを見送ると、その場で待ち、茂みの中から、付近の様子を伺った。
すると、ゼルク騎士長が急いで戻ってきた。
「敵が森の奥に潜んでいるようだ。見つかってはいないはずだが、ただちに撤退し城に報告が必要だ。」
隊のメンバー間に戦慄が走った。そして、すぐに撤退を始めた。
「何組かに分かれて街に戻る。先頭にいるお前たちは先に戻れ。」
ゼルクがそういうと隊はいくつか組に分かれて、撤退を始めた。
エマも撤退を始めようとすると、ゼルクがエマに近づいてきた。
「エマお前は俺について残れ。隊のメンバーを送り出し、最後に敵兵の状況を確認した後に我々は戻る。」
エマは、周りの状況から敵軍が近づいている雰囲気もなく、敵兵が周りいるとは思えなかったので
不思議に思ったが、命令通りにゼルク騎士長に従ってその場に残った。
隊のメンバーを見送り、ゼルクとエマだけになった。
「敵は来ないようだな。」
ゼルクはそういうと、なぜか馬をアーラン国の方ではなく、森の方に向ける。
「敵兵の様子を見たい。お前が先に進め。」
「……。わかりました。」
ゼルクにそう命令され、渋々エマは森の中に進む。
エマが前に進んでいくと、予想て通りであったが、特に敵兵が隠れている様子はないようだった。
そして、さらに進むと崖があった。
崖付近から見える場所にも敵兵はいなかった。
しかし、遠く離れた場所を見ると何か煙が上がっている場所があった。
「騎士長、道のりではないのですが、あちらから不審な火が上がっています。何か嫌な予感がします。」
「……。」
エマはゼルクから応答がないため、振り向くと、拳銃を手にしたゼルクがエマを睨みつけていた。
「騎士長?」
「お前は父に、婚約破棄の話をしたな。」
「そ、それは。」
「婚約破棄の話をしたら、どうなるか言ったよな。」
「……。」
エマはまずいとポケットに入っている護身用の飛び道具をとろうとする。
「止まれ、手を両手に広げろ。さもないと撃つぞ。」
ゼルクはエマのことをよく知ってた。何よりエマの危険性がよくわかっていたので、何もさせないようにエマに手を広げさせる。
エマは仕方がなく、手を広げる。
ゼルクはエマが無抵抗な姿に満足すると、エマを睨みつける。
「エマ、お前のことは気に食わなかった。
昔からだ。俺もアリス姫のお笹馴染みなのに、いつもそばにはお前がいて。」
「……。」
エマはゼルクが自身のことを嫌っていたことはわかっていた。
ゼルクの話から嫌う原因がアリスに関わることがわかったが、わかったからといって今更取れる手段はなく
この状況から逃げ出す手段を思いつく必要があった。
拳銃で撃たれるよりは、後ろに崖があるので、崖から飛び降りたほうがよいかもしれなかった。
しかし、崖も高く、川の流れも激しいため、危険性が高かった。
ひとつ確実なのは、拳銃に当たり、崖から落とされると致命傷になることは間違いなかった。
エマが、安全にこの場を逃げ切るためにとれる行動は一つしかないと判断した。
エマが逃げる手段を考えているなど、つゆ知らずゼルクはエマの憎しみを持った行動を話していた。
「教会のときもそうだ。夜にアリス姫を連れ出して、気を引こうとして。
魔王も大したことなかったのに、お前ばかり手柄を立てて。」
ゼルクは次々と憎しみを持って話し、話し終えると、満足した表情でエマを見た。
「エマ、最後に言い残すことはあるか?」
「ゼルク騎士長、お助けください。」
エマは命乞いをすることにしたのだった。
アリスの元に帰れるなら、恥やプライドなど紙くずのようなものでしかなかった。
「ゼルク騎士長、私が悪かったです。見習いにすぎなかった私がでしゃばりすぎました。反省しております。」
「ははは。命乞いか?今更反省しても遅い。」
ゼルクはエマの命乞いに笑みを浮かべる。
しかし、拳銃はしっかり握りしめられていて、エマに油断している様子ではなかった。
「騎士長、お願いします。心入れ替えて、騎士長と姫様の間をとりもちます。」
「ふん、お前がいなければそんな必要もない。他に言いたいことはあるか?」
ゼルクは不機嫌な表情をした。
エマは命乞いの意味はないことを悟った。
そして、胸を張り、覚悟を決めた。
「……。姫様をお前みたいな非道な人と結婚させるわけにはいかない。」
そう言うと、手をポケットに入れ、飛び道具を使うとした。
ドン、ドンドンしかし、ゼルクは使わせる間も無く,
拳銃を何発もエマに打ち込んだ。
エマは胸に銃弾を受け、その勢いで、崖から落ちていくしかなかった。
「はっ、この状況でそういうのか。」
ゼルクはそういうと、崖に近寄る。
崖から下を眺めると、崖から落ちたエマは川に落ちると川に沿ってバーン国の方に流されていった。
ゼルクはそれを見て満足し、アーラン国に戻っていった。




