9話 決戦
エマは朝早くに起きるとすぐに支度をし、まっすぐに将軍の執務室に向かった。
執務室の前に立つと、扉をノックする。
「どうぞ。」
将軍の声が中から聞こえ、エマは扉を少し開ける。
「ゼルク騎士隊のエマです。」
将軍は来たのがエマで少し驚いたようだが、にこやかな表情をし、中に招いた。
「中に入りたまえ。」
「一体なんのようかな?」
「はい、大変不躾な話になってしまうのですが、姫様とゼルク騎士長の結婚の話です。」
「そうか。」
そういうと将軍は悲しいような表情をした。
その目はこれからエマが話そうとしていることがわかっているかのように思えた。
「二人の結婚は予定通り、姫様の誕生日に合わせて、実施される予定なのでしょうか?」
「……。現状はそうなっている。」
「姫様がその婚約を破棄したいと言われているとしても、なのでしょうか?」
「……。」
将軍は難しい表情をしていた。
「エマくん、君は国王陛下の思いを知っているかね?」
「……。いえ、特に伺ってません。」
「陛下はアリス姫のことを何より大切に思われている。アリス姫には誰よりも幸せになって欲しいと願われている。」
「……。」
「そして、同じくらいこの国の後継のことを考えられている。」
「だから、アリス姫には素晴らしい相手と結ばれて、後継を残して欲しいんだ。
私の息子であるゼルクは指揮官としても兵士としても優秀だ。」
将軍はそういうと急に悲しいそうな表情をした。そして顔を少し下げると話を続けた。
「しかし、ここ1,2年のゼルクの成果を陛下は認められていない。私自身もゼルクを甘やかしてしまったと反省している。」
「え?」
「ゼルクは、訓練では圧倒的な強さを見せるのに、実戦で成果を挙げてない。」
「……。」
そのことをエマはわかっていた。ゼルクが実戦で成果を挙げたことがないことを。
そして、偵察時に敵兵と交戦になりそうになると急に隊の後ろに下がり出すことを。
「その表情だと、エマくんも気づいていたようだね……。」
「陛下からおって、ゼルクに伝えられるだろうが、結婚は延期の予定だ。」
将軍は寂しそうにそう言った。
エマは驚いた表情をし、将軍を見る。
「ゼルクが成果を上げ、国王陛下に認められるまで、結婚は実施されない予定だ。
婚約破棄までは進んでないが、ひとまずそう言う状況になっている。エマくんから、この話をアリス姫に伝えてくれて良い。」
話はそこまでのようで、話し終えると将軍は後ろを向き、窓から外を見た。
「将軍、お話頂き、感謝します。失礼します。」
「何、こちらこそエマくんには感謝している。君にはいつも息子がお世話になっている。」
「?」
「ふふ。騎士隊の成果の大方は君の貢献によるものだということは、みんなわかっているということだ。」
エマは将軍の執務室を出ると、将軍から聞いた話を伝えに、まっすぐアリスの部屋に向かった。
アリスの部屋に入ると、一人どころから十人でも運びきれない量の荷物がそこには積まれていた。
エマは荷物の陰にいたアリスに話を伝えた。
「そう、結婚が延期されたのね。」
「はい。」
「それは良かったぁ。」
そういうと、アリスは安堵した表情をし、座り込んだ。
そして、優しい笑みをエマに向けた。
「ふふ。これだけの荷物をどうやって持っていこうか迷ってたの。」
アリスは笑い出し、エマも笑った。
アリスは立ち上がると、エマに綺麗に光り輝くペンダントを差し出した。
「エマに、このペンダントあげるわ。」
エマは渡されるままに手に取ると、それは金でできた小洒落たペンダントだった。
「それは、祖母からお守りにもらったものなの。それが荷物に詰めてる時に出てきて。
エマに似合う気がするから、お守りの代わり使って。」
アリスにそう言われ、エマもそのペンダントが気に入り、すぐにそれを首から垂らし、胸元に入れる。
肌身離さずにもっておこう、エマは思った。
「で、悪いのだけど、」
アリスはバツが悪そうにエマに向かっていった。
「この荷物元に戻すの手伝って。」
エマとアリスは協力して、荷物を片付け終わると、夜遅くになっていた。
エマはアリスの部屋を出て、自身の部屋に戻る。
自身の部屋で今日一日あったことを思い出しながら、考えを巡らせる。
結婚が延期され、アリスとゼルクの結婚が延期された今がチャンスなのではないのか?
そして、エマはアリスからもらったペンダントを胸に誓った。
誕生日の後に姫様に告白しよう、と。