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その実力とくと見よ



 さて、いよいよ実技試験も終盤、次はオレの番となったわけだが……周りからの視線が、ものすんごい。



「なぁ、今ボンボールドって?」


「え、それって現魔王様の家名よね」


「ただ家名が同じ……ってだけなんじゃねーの?」


「あいつ、ヴォルガニックの次男と騒ぎ起こした奴じゃね?」



 ひそひそのつもりなのだろうが、めっちゃ聞こえる。人間、自分についてのことになるとよく聞こえるもんなんだな。もう人間じゃねえけど。もしくは魔族になったことで聴力が上がったか。そんなことはどうでもいい。


 くそ、なるべく穏便に済ませたかったのに。これじゃ嫌でも注目を集めてしまう。特に……



「ぼ、ボンボールドだと? あいつが……? はは、なにかの間違いだろ、ただ家名が同じだけだあんな奴!」



 先ほど絡んできたガラム・ヴォルガニック……特にあいつはすげー騒いでる。そのせいで余計に視線を集めることに。



「……」


「ゆ、ユーク……?」



 あっちじゃオレを心配そうに見ているファウルと、なぜか無言の視線をオレに向けてくるクリウス・ヴォルガニック。やはり魔王の子供ってのは、それだけで注目の的なんだな。


 けど、今はまだほとんどが半信半疑だ。単に同じ家名だと思い込んでる奴も多いし、このまま勘違いを続けてくれた方が都合が……



『ユークドレッド・ボンボールド……現魔王様のご子息とのことだ。現魔王様の血筋……その力、見せてもらおうか』



 ババァアアアー!!! なーに言ってくれちゃってんのあいつ! ふざけてんの!? ぶっ殺されたいの!?


 さらっと正体ばらした上に、変なプレッシャーまでかけていきやがった! この瞬間、周囲の半信半疑が確信に変わっちまったじゃねえか!


 くっそ……まあ、いいや。別にオヤジ……じゃなくて魔王の評価が下がろうがどうしようがオレには関係ない。適当に済ませて終わらせてもらう。



「あいつが……マジかよ。はっ、だが血筋だけで、このガラム・ヴォルガニック様を越えられると思うなよガキが!」



 お前もエリート一家の血筋だろ黙ってろ! だいたい、歳は同じくらいだろうが!



「ま、せいぜい頑張れや。俺様にビビってた程度でどれほどの実力を持ってんのか、見せてくださいよご子息サマァ」


『ヴォルガニック、口を慎め』


「へーい」



 ……作戦変更だ。いくらガキとはいえ、あんなに偉そうな態度でいられるのは我慢ならん。確かに魔族としての年齢は同じくらいだろうが、ここは人生の先輩としてお灸をすえてやる。いくら魔王の評価を気にしないとはいっても、あんのくそ魔族に見下されるのは我慢ならねえ!


 ならオレがお前より上のSクラスになって、今言ったことを後悔させて泣きながら靴でもなめさせてやるよ! リーズロットからしごかれた毎日……本気を出せばあいつなんか軽く超えられる。はずだ!



「じゃ、いくぜ……はっ!」



 静かになった……集中したおかげか、単に場が静まり返ったおかげかは知らないが、とにかくオレの耳には今、なにも聞こえない。


 集中……リーズロットは言っていた。膨大な魔力をコントロールするには、集中力が必要だと。集中が乱れれば、膨大ゆえに制御が効かなくなる、もしくは魔力の量が極端に少なくなる。


 そして、それを日々の生活の中で意識すれば……いや、意識することもなく手足を動かすように魔力を扱えるようになれば、一人前の魔族だと。


 元人間で、今でもその記憶が残っているオレにとってはどうでもいい話だったが……今この時だけは、そのアドバイスに感謝だぜ!



 ボゥッ



 わかる……自分でも、力が溢れているのが。そして力が暴走してしまわないように、制御できているのが。


 今まで、本気で魔力をおこすなんてことはしてこなかったが……こんな感じなのか。なんていうか、気分がいい、かも。……って、魔力にいい気分感じてどうする!


 と、とにかくだ……これは、かなりの好評価じゃないか? 自分で言うのもなんだが、魔王の子供として生まれてきたオレにはそれだけで膨大な力が眠っている。


 加えて、幼い頃からリーズロットとの訓練の毎日。ぶっちゃけ、ここにいる誰よりも強い自信がオレには……



「ふんふん、なるほど……はい、キミDクラスね」



 ある…………うん?



「はい?」


「だから、Dクラスだって。うん、勢いはいいんだけどね、勢いだけっていうか……膨大な力であることは認めるけど、そのほとんどが気合いで、魔力はほんの少ししか感じないんだよね」


「…………」



 聞き違い……では、ない。だって周囲の顔が、それを物語っている。呆気にとられている……と言えば聞こえはいいが、その真意は『なんだこの程度か』『期待はずれ』といったものが大多数だからだ。



「いや、待って……な、なにかの間違いだろ! だって、あの膨大な力は……」



 この黒魔族も言ってたじゃないか、膨大な力は認めるって。それって、魔力が膨大ってことじゃないのか?



「だっははは、だせえ! おいおい、いくらわめいても結果は覆らねえぞ!?」



 くっ、ガラム・ヴォルガニックめ……煽りが最高にうざい! けど、これに納得は到底できない。



「なあ、きっとなんかの間違いだ! もう一回……」


「うるさいなぁ、黙れよ」



 ……えっ?



「キミが現魔王様のご子息だろうが、どんなにわめこうが関係ない。お家の立場とか責任とかいろいろあるのはわかるけど、キミがDクラスである結果に間違いはないし、不正とか陰謀とかそんなものもない、それは誓おう。ただ一つ言えるとしたら……これ以上わめくようなら、この学園から出ていけ」



 ……一瞬、誰から言われたのかわからなかった。なんせ、先ほどまであんなに温厚そうに見えたのだから。いや、そもそも魔族に温厚を求める時点で間違いではあるのだが。


 だが、今のこいつは……この黒魔族は、まさに魔族そのものだ。冷たく、声だけで相手を殺せそうな、そんな感じ。


 こいつ、やっぱりただの試験官じゃない……



「……」


「うん、納得してくれて嬉しいよ。さ、Dクラスはあっちだよ」



 無言を抵抗の意思なしと判断したのか、先ほどまでの明るい口調にけろっと戻った。その変わり身が怖い。


 オレはというと、一言も発することなく、歩き出す。その先には、今まで試験を終えた生徒が集まっており……S~Dに分けられている。


 オレが黙っている理由は、あぁ、周りからの視線が痛い……とかそんなのじゃない。ただ、いくつかの疑問が浮かんできただけで……



「よぉよぉご子息サマァ、さんざんな結果だなぁ。そんなご立派な血筋を持ってるのに、最下層のDクラスとは……所詮お前も、そこにいるゴミどもと変わらねえ……聞いてんのかおい!」



 なんか横やりがうるさいが、無視だ無視。なってしまったもんは仕方ないし、それに……



「……同じクラス、だね。よろしく」


「……あぁ、よろしく」



 同じDクラスには、ファウルがいる。

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