元勇者の魔王候補生生活
この部を持って、元勇者の魔王候補生生活は完結となります。
最後は、いわゆるデート回!いろいろ詰め込んだせいか、いつもよりかなり多くなったな文字数が……
それでもどうか、最後までご覧ください!
「お、お待たせ……ごめんね、遅れて」
「いや、問題ない。まだ時間じゃないしな」
昨日ファウルから提案された、お出かけ。休日であるし、予定もないので構わないのだが、いつもと違うのは二人きり、というところだ。
シャーベリアもエリザも、メルデュース・マ・ガランドーラも。普段ならばいそうな他のメンバーはオレの前にはおらず、この場にいるオレとファウルのみのお出かけだ。
待ち合わせ場所、時間を決めたのはファウルだ。同じ学内の寮にいるのだから、わざわざ外で待ち合わせなくてもいいと思ったのだが……せっかくのファウルからのお誘いだ。ファウルがそうしたいのならばそうしよう。
来たのはファウルが後であるが、指定した時間よりは早い。なので、遅れたなんて問題はない。オレが早く来すぎただけなのだから。
「あ、えっと……お、おはよう、ユーク」
「ん、おはよう、ファウル」
言い忘れていた、と言わんばかりに「あ」と声を漏らした後、ファウルは挨拶をしてくる。いつもしているやり取りだが、その仕草がおかしくて笑ってしまう。
「な、なに?』
「いや、くく……なんでもない。行こうか」
「あ……うん」
なにやら、言いたげな表情をしているが……その先が出てこないため、追求することはなく、足を進めていく。その後ろについてくるように、ファウルが歩いてくるのがわかる。それにしても、ファウルの私服は淡い水色のワンピースか。シンプルだが、それだけに素材の良さが際立つというもの。色合いもファウルにぴったり、似合っている。
さて、ファウルに誘われたため、オレはどこに出掛けるのかはわからない。そもそも、こうやって気軽に出掛けることなんて……そうあるものじゃない。まして、同い年の誰かと二人きりなど。
「ファウル、今日はどこへ?」
「えっと……まずはご飯、かな」
んん……確かに今は、昼前だ。朝飯は軽く食ってきたとはいえ、そろそろ腹が空く頃だ。しかしこの辺りだと、なにがおいしいのかとかなにも知らない。それに、ファウルがなにを食べたいかも……
……そういやファウルの好物とか、なんにも知らないなあ。それは逆も然りだろうが。
「えっと、あそことか、どうかな」
などと考えているうちにファウルが指さしたのは……見た感じファミレスのようなところだった。魔族の土地でも同じ呼び方をするのかはわからないが、まあ心の中でくらいオレの知っているファミレスという呼び方でもいいだろう。
ファミレスならば、好き嫌い関係ない。様々なメニューがあるのだから、好みを選ぶことが出来る。
言い方を変えれば、選んだもので相手の好みもわかるはずだ……多分。
「いいな。よし、あそこに行こうか」
ファウルの提案にうなずき、ファミレスへと足を進めていく……
………………
わかってはいたことだが、魔族の食べる料理は見た目は人間のものとそんなに変わらない。味については、オレが魔族の味覚になってしまった可能性もあるので、考えようもないが。
端的に言えば、うまかった。それに、ファウルも満足そうにしていた。くさい台詞になるが、それだけでオレの腹は満たされていく。
食事を終えれば、ファウルの申し出により次はショッピングだ。部屋に飾る小物や、今日のお出かけのお土産を選ぶつもりだという。お土産か、せっかくだしオレも……
『ユーくん、ファーちゃんとふ、た、り、で、お出かけなんだぁ。ふーん。いや、別になんにもぉ? あ、なんならお土産期待しちゃおっかなぁ』
……やっぱいいか。あいつうざかったし。
ファウルに案内を任せ、オレたちは店に入っていく。
「~♪」
わかりやすく鼻歌を口ずさみながら、店内を物色していく。買い物で、こうも上機嫌になるのか……オレにはあまり、理解できない感覚だな。
「楽しそうだな」
「うん。こうして、誰かになにかを送るなんて、やったことがなかったから……相手のことを考えながら、どんな顔をするのかなって考えていると、楽しいの」
……そうか。贈り物とかだと、それこそ醍醐味だろうな。
それにファウルの場合、これまで一人だった。それこそ、本人が言うように。だから、誰かに、なにかを贈るというのが、新鮮なのだろう。というか、こうして誰かと出掛け、買い物をするのだって、もしかしたら初めてかもしれない。オレの知らないところで、女性陣だけでなんかやってた可能性はあるが。
……こりゃ、ただお土産、なんて言葉は味気ない。贈り物と呼ぶべきだな。
「じゃ、じっくり考えな」
「ご、ごめんね、私の用事ばっかりで……ユークは、なにか買わないの?」
「いや、気にすんな。……あー、オレは別に、いいかな」
ファウルの言葉は確かに心に響くものだったが、だからといってシャーベリアになにか買って帰ってやろうとは思わない。許せ。
その後、店内でさんざん悩み、ファウルは複数の品を購入していった。それがなにかは、オレにも教えてくれなかったが。袋に詰めてもらったのを見て、試しに持ってやろうか聞いたら、拒否されてしまった。
店を出てからは、続けてファウルの行きたいところへ言った。以前までの無口無表情が嘘だと思うくらいに、しゃべり、笑っていた。今まで胸にため込んでいたいろいろなものが、解消されたおかげだろう。
こうした時間を過ごすことは、オレにとっても新鮮なものだ。最近は、いろいろなことがあったからな……自分で思っていた以上に、心休まるときがなかったということか。
「……ふぁ、あ」
「ん、疲れたか?」
食事に買い物巡りといろいろなことをしているうちに、気づけば日が傾いてきていた。気が緩んだためかあくびをしたファウルは、オレの指摘に顔を赤くしていく。
「ち、ちがっ……これはその、昨日、よく眠れなかったせいで……」
「眠れなかった? もしかして、今日のことが楽しみで眠れなかったか?」
「……!」
あくびをしてしまった事実をごまかすため、かと思っていたがファウルの口から出てきたのは、今あくびをしてしまったその理由であった。自分でも自分がなにを言っているかわかっていないのでは?
眠れなかったなんて、遠足を楽しみにして眠れない子供のようだ。からかうつもりで指摘したのだが、赤くなった顔はますます赤くなっていく。
「や、あの、だから、あくびをしたのは、ユークとのお出かけが、つまらないとかじゃなくて……」
「……」
なるほど。あくびをしたのは、つまらないから……そうではないと説明するために、支離滅裂な感じになっているのか。
ったく、面白いな。
「わっ……」
オレは気づけば、ファウルの頭に手を置いていた。うん、なんか手を置きやすい位置にあると思っていたが……これはなかなか。
「はぅあぁ……」
そのまま頭を撫でていくと、ファウルから気の抜けた声。ほぉ、これはなんだか面白いな。ファウルが嫌でなかったら、ちょくちょくやらせてもらおう。
……さて、と。
「そろそろ暗くなってきたし、帰るうとするか」
「……うん」
「そんな残念そうな顔すんなっての。これから何度だって、遊べるんだから」
ファウルにとって、羽を伸ばせるいい機会になってくれたかと思う。これまで一人だった分、オレでよければ何度だって付き合ってやろう。
「何度だって……本当に?」
「あぁ。もちろん、オレだけじゃなくな。……そうだろ、お三方」
不安そうな、期待するようなファウルの視線。それにオレは笑って答え、『後ろにある茂み』へと声をかける。すると、茂みはガサガサと音を立てて……
「うぇっ」
「きゃっ」
「ぬぅっ」
茂みから、三人の影が出てくる。ったく、やっぱりか。そこにいたのは……
「! 三人とも、なにをしてるの?」
「あ、いやぁ……あっはは」
シャーベリア、エリザ、そしてメルデュース・マ・ガランドーラの三人が、転がっていた。ファウルの質問に、シャーベリアは苦笑いを浮かべるばかり。
あぁ、やっぱり気づいてなかったのか。
「よぉ、偶然だな。三人で買い物か?」
「そ、そうなんですのよー。おほほ、いやぁ偶然……」
「んなわけあるか」
三人で買い物……その言い訳は、ここでは通用しない。字面だけなら、なんの問題もないだろう。問題は……三人が、揃って茂みから出てきたこと。ただの買い物で、そんなところにいるはずがない。
オレの問いかけに、エリザは自ら買い物でないと認めてしまったわけだ。
「バカめ。……いつから、気づいておった?」
「最初から」
メルデュース・マ・ガランドーラからの問いに答えるが、その答えにシャーベリアはピンと来ていない様子。最初から、とはどこからのことを言っているのかと。
仕方ない、解説してやろう。
「一番上から数行目を見てみろ」
『普段ならばいそうな他のメンバーは"オレの前には"おらず、"この場にいる"オレとファウルのみのお出かけだ』
「ホントだ最初からだ!」
「な?」
「いや、な、って」
最初から、少し離れた所からオレたちを観察していたのはわかっていた。あんな下手な尾行で、ごまかせると思っていたのか。メルデュース・マ・ガランドーラはまだしも、その他二名はバレバレだ。
というか、普段のファウルならあの程度の尾行、気づけてもいいと思うんだが……
「最初から……最初から……」
そのファウルは、またも顔を赤らめている。尾行に気付けなかったことが恥ずかしいのか?
そういや、今日が楽しみで眠れなかったって言ってたもんな。浮かれていて気付けなかったということだろうか。
……それにしても。
「最初から今までずっと観察してたって、お前ら暇かよ」
「ほっといて!」
よくもまあ、ずっと観察していたものだ。呆れを通り越して、感心すらする。オレたちのように出掛けるのではなく、出掛けているのを観察とか……いったいどんなつもりだ。
「なんでストーカーしてたんだ」
「いや、言い方……まあ、否定はできんけど」
結局、なにを持って三人が尾行をしていたのか話すことはなかった。だというのに、妙にニヤニヤしているのが腹立たしかった。とりあえずシャーベリアは殴っておいた。
結局、ファウルと二人だけで買い物に出たはずが、帰りはいつものメンバーとになってしまった。いつもと違うところといえば、買い物のために大量の荷物を持っていることくらいか。
「いやあ大量だねえ。なに買ったのさ?」
「尾行してたなら見てたんじゃないのか、ストーカーくん」
「ご、ごめんて……そりゃどの店でなにしてたのかとか昼食はなに食べたのかとか、だいたいは見てたけどさすがになにを買ってた、とかまでは見てないよ」
「こいつもう隠すことすらしねえな。見てないじゃなくて見えなかったの間違いだろう」
とはいえオレも、わかっていて泳がせていた部分はあるため、変な行動はしないよう心がけたつもりだ。尾行に気付いていなかったファウルはともかくとして。
で、なにを買ったかというシャーベリアの質問。それに答えるのは……
「……お土産。みんなに」
オレが持っていた荷物を取り、その中から商品を取り出すファウルだ。彼女の言葉に「お土産?」と首を傾げるのはエリザで……
「ん。……はい。はい」
「まあ、嬉しい!」
「ほぉ、なかなかに良い心がけじゃな」
お土産、基贈り物を受け取るエリザとメルデュース・マ・ガランドーラ。その表情が緩む。エリザはともかく、メルデュース・マ・ガランドーラのあんな表情は珍しいな。本気で嬉しいのか。
それは、手のひらサイズの箱を包み紙で包んだものだ。なにを買っていたかは知っているが、それをどちらに選んだものかまでは知らない。
「あ、あのー、ファーちゃん? 俺には……」
「もちろん、あるよ」
「いやっほぅ!」
自分からせがむのか、シャーベリア。それでも、嫌な顔しない辺りファウルらしいというかなんというか。
シャーベリアに渡したのは、少々大きめの箱。受け取った本人は嬉しそうなのは言うまでもなく、ファウルも嬉しそうだ。あげたものを喜んでもらえて、自分も嬉しいのか。
「ねね、開けてもいい?」
「寮まで待てないのかお前は」
そのはしゃぎようは、まるで子供だ。とはいえ、ファウルからの初めての贈り物なら、わからないでもないか……
「それと……ユークも」
「ん? オレ?」
ふと差し出されたのは……オレへの贈り物だという。これは予想外だ……オレの見ていた限りでは、ファウルが買っていた贈り物は、『五人』に対するものだ。オレのものまで買っているとは。
買う場面なら、いくらでもあっただろう。たとえばオレが用を足しに行った時。時間はあっただろうが、一緒に出掛けているのに贈り物をされるとは思わなかった。
……ま、人のことは言えないか。
「実はオレもな。ファウルにプレゼントだ」
「えっ」
オレも、ファウルにプレゼントを買っていたのだから。
ファウルの目を盗んで買うことは容易だった。まさか、向こうも同じことを考えていると思わなかったが。
「……私に?」
「なんだ、あげることばかり考えていて、貰うことは考えてなかったか? いらないというなら無理にとは……」
「いる!」
少しもったいぶったように品物を揺らすと、ファウルはそれをひったくるように取る。オレもファウルからの贈り物を受け取り、互いに受け渡しは終了する。
「なーユーくん。俺らのは?」
「ないんですの?」
「ない」
オレが買ったのは、あくまでファウルにだけだ。二人から非難の声が聞こえ、メルデュース・マ・ガランドーラからは「小さい男よの」なんて聞こえるが、気にしない。なぜお前らになにか贈らなきゃならんのだ。
「……なあファウル、これ開けてもいいか?」
「あーユーくん、さっきと言ってること違うじゃん」
「ふふっ、いいよ。みんなで開けよ」
結局、それぞれが箱を開け中身を確認する。
帰り道、それぞれが贈られたプレゼントを身に付ける。エリザはハート型の髪止めを、メルデュース・マ・ガランドーラはイヤリングを、シャーベリアはブレスレットを。
「あ、その……私、誰かに贈り物とか、初めてで……」
「いえ、これは素晴らしい品ですわ! 大切にします!」
「うむ、こういうものは気持ちが大切だからな」
不安げなファウルだが、それはプレゼントを貰った本人たちからの言葉により喜びへと変わる。初めて選んだにしては、確かになかなかのセンスをしている。
しかし……ここにいる三人に加え、あの二人にも贈り物を用意していたとは。いくら兄とはいえ、自分を殺そうとしたどころかものとしか見ていない相手に、よくもまあ……
さすがにあの二人に贈るのはどうなのかと口は挟んだ。その際ファウルは、自分が変わりたいから……と言っていた。それに、状況はどうあれ暴走した自分を止めるために、そしてその時の隠蔽のために動いてくれたお礼だと。
兄たちへのその気持ちは理解できないが、本人がいいならそれでいい。
さすがにファウルから渡すのはキツいだろうから、オレから渡そう。否が応でも受け取ってもらうが……捨てないだろうな、あいつら。
「これ……ネックレス?」
と、考え事をしていたところにファウルからの驚いた声。ネックレス、ということはオレが渡した箱を開けたようだな。
そう、オレが贈ったのはネックレスだ。銀色のチェーンに、その先には水色の宝石が嵌め込んであるタイプのものだ。思えば、異性に贈り物なんて今はおろか、勇者時代にもなかった気がする。
「あぁ。……どうした?」
なにやら、固まっている。さては気に入らなかったか?
「……私の、プレゼント、も……」
「ん? ……ネックレス?」
オレがファウルから貰った箱を開けると……そこには、ネックレスが入っていた。しかも、オレの贈ったものと同じタイプ……唯一、水色の宝石が赤色の宝石である違いくらいだ。
まさか、同じ店で?
「……ぷっ」
「ふふっ」
同じ店で、お互いに同じものを買って贈っていたとは……こんな偶然があるか? なんとも、おかしな話だ。
さっそく、ネックレスをつける。同様に、ファウルもつけていく。が、苦戦しているようだ。横からなぜかエルザに突っつかれ……ファウルの背後に回り、ネックレスをつけてやることに。
「……うん、よく似合ってるぞ」
「ありがとう。ユークも」
うん、ちゃんと似合っている。オレのセンスも捨てたもんじゃないようだな。
「けどさー、ユーくん。誉めるべきところは他にもあるんじゃない?」
「ん?」
「服だよ! 今日待ち合わせてから一回も、服誉めてないじゃん!」
呆れたような態度から、急に怒るシャーベリア。どうしたんだこいつは、情緒不安定か。てかマジで全部見てたのか、キモいぞ。
しかし、服か……
「服、オレなにも言わなかったか? 似合ってるしかわいいなとは、思ってたんだが」
「……」
しまったな、どうやら口に出していなかったようだ。これは失敗だ。
もうお出掛けも帰宅を残すのみ……今さら誉めても遅いだろうと思いつつも感じていたことを正直に言うと、ファウルは固まっている。
「……それ、本音?」
「あ、あぁ」
「……そう」
それっきり、顔を隠してしまった。耳が赤いように見えるが、きっと夕日のせいだろう。
なぜかシャーベリアとメルデュース・マ・ガランドーラから呆れたような目で見られた。なんだというんだ。
「ま、そるでこそユーくんだよ。帰ろうぜ」
「なんか腹立たしい言い方だな」
シャーベリアの言葉に、悪意は感じない。それを軽く流しながらも、歩みを進めていく。
……まったく。魔族と、こんな風に出掛ける日が来るなんてな。勇者の頃には、考えられなかった光景だ。今だって、実はすべてを信じられてはいない。
こうして共に歩き、笑いあい……次なる魔王を決める同じ学校で、クラスで、授業も受けている。人生というものは、わからないものだ。いや、もう人じゃないか……
魔族を殺してきたオレが、こうして……魔族となり、魔王の息子として生まれた。そこにどんな意味があるのかは、まだわからない。だが……
「……ユーク」
「ん?」
「ありがとう……ね」
今は、これで充分だ。この言葉と、笑顔を見れただけで。こうしてここにいる意味があるのだと、思えるから。
これからも、まだいろんな苦労はあるのだろうが……ま、なんとかなるだろう。こいつらと、一緒ならば。それに、信じられないといってもいい加減、腹を決めなければならないだろう。
明日も、その次も……魔族として、生きていこう。そう、元勇者の、魔王候補生生活を。
元勇者の魔王候補生生活、無事完結です!
元々ファウル関係のことを書きたくて書いていたので、書きたいことはやりきれたかなって思いです。
連載開始から約一年。お付き合いいただき、ありがとうございました!
他の作品も連載してますので、よければそちらもお願いいたします!




