圧倒的な力の差
始まった、クラス分けのための実技試験……それはすでに三分の一の生徒が終えたところで、次に呼ばれたのは……クリウス・ヴォルガニックという魔族。
エリート一家というらしきヴォルガニックの家の魔族……そして、先ほどオレに絡んできたガラム・ヴォルガニックと同じ家名を持つ魔族。
その二つが、無関係だとは思えない。
「……」
呼ばれたその魔族……男は、なにを話すわけでもなくゆっくりとステージに上がる。なんだろう……第一印象は、ただただ白い。
服装も白、髪も白、肌も白い……細身の体は、ちゃんと鍛えているのかと心配になるほど。見た感じは、オレやファウルと同じく人間に見える。異形の部位は見当たらないしな。
今までの生徒に比べ、いやに静かだ……
「なあファウル、あいつの家名……ヴォルガニックってまさか」
「……そう、ガラム・ヴォルガニックの兄弟。ガラム・ヴォルガニックの兄で、ヴォルガニック家の長男」
小声でファウルに聞くと、オレの聞きたいことを察して答えてくれる。
やはり……あのガラム・ヴォルガニックと身内の存在か。しかも、あいつの兄貴とは。あの落ち着き払った態度も、エリート一家の長男と言われれば納得だ。
しかし兄弟だってのに、あの二人まったく似てないな……まあ、人間と魔族とじゃ血の繋がりに関する仕組みも違うのかもしれないな。
『よし、始めろ』
緊張の瞬間……ガラム・ヴォルガニックでさえあれだけの魔力を放出したのだ、奴の兄貴でヴォルガニック家長男の魔力はいかほどのものか。
「……ふっ」
ゾクッ……
「……? なんだ、なにかしてる?」
「さあ、なにも感じないけど」
周りの連中は、なにが起きたのかわかっていないらしい。それどころか、クリウス・ヴォルガニックが魔力を放出していることにすら気づいていないようだ。
その証拠に、なにが起きてるのか、訳がわからないといった具合にざわついている。
なるほど……こりゃ、別格だ。
「……ユーク」
「あぁ……ファウルも、感じてるか?」
どうやら、ファウルも感じたらしい。肌を突き刺すような、この魔力を。
ガラム・ヴォルガニックや、今までの生徒のようなただ暴力的な、力を示すだけの魔力とは違う。クリウス・ヴォルガニックの魔力は静かで、それでいて肌に突き刺さる感覚。
それを、周りの連中はなにが起こっているか理解していない。つまり……わかる奴にしか、この魔力を感じとることはできないってことだ。
それは、あまりに実力がありすぎるがゆえ……だろうか。それとも、魔力を感じとるセンスに優れているからオレとファウルは感じ取れるだけだろうか。どちらにしろ、こいつはヤバい。
それと……気のせい、じゃないだろうが。クリウス・ヴォルガニックの額から、角が生えている。先ほどまではただの額だったはずなのに、今では額から白く輝く角が一本、生えている。
「ふんふん、素晴らしい魔力だ。これまでの者たちとは矜桁違い……おめでとう、キミは今回初めてのSクラスだ」
おぉ……と、戸惑いにも似た歓声が上がる。それはそうだ、ほとんどの奴は、クリウス・ヴォルガニックの魔力を感じとることすらできなかったのだから……
さすが、試験官だな。当然、あの魔力を感じとって且つ正しい実力のクラスに選別した。奴の魔力ならば、間違いなくSクラス……ガラム・ヴォルガニックのAクラス級ですら、比較にすらならない。
そのガラム・ヴォルガニックは、一際でかい声をあげて拍手している。その判定は当然だと、言わんばかりに。
そうか……あいつがAクラスに納得していたのは、自分より上がいることを理解していたからか。兄であるクリウス・ヴォルガニックがSクラスであることを疑いもしないからこそ、自身がそれより劣っている自覚もある。
ゆえに、Aクラスはむしろ納得でしかなかったのだ。ガラム・ヴォルガニック……ああ見えて、ちゃんと自分の実力は正しく受け止めているらしいな。
魔力の放出を止め、辺りから圧迫感が消える。同時に、額から生えていた角は消えていた。見間違い……じゃないよな。もしや、あれが魔力の源ってやつか?
『ほぉ、まさか貴様らの中からSクラスが出るとは……これは面白いことになるかもしれんな。さあ、次だ。ファウル・レプリカ!!』
「……」
続いて呼ばれたのは、オレの隣にいた銀髪の少女。彼女は小さくうなずくと、チラッとオレを見てから……足を進めていく。うーむ、なんか声でもかけた方がよかったかな?
「……別のクラスになっても、仲良く、してね」
しかし、最後に確かに……彼女は、言った。相変わらずの小さい声、背中越しだというのに……確かに、聞こえた。自然と、笑みがこぼれた。
「おう、もちろん」
それにしても、当然だがフルネーム呼ばれたな。レプリカ、か……なんか、な。深い意味はないんだろうけど。
人間の言葉で、レプリカは……偽物って意味だから。あまり、いい響きではないな。
『さあ、始めろ』
「……んっ」
ステージに立ったファウルが集中……魔力を、放出する。……が、その魔力はあまりに小さい。これは別の意味で、クリウス・ヴォルガニックの魔力と同じように感じとることができない奴がいるかもしれない。
周りからは、クスクスと笑い声が聞こえる。これは……あれだ、魔力があまりに弱いことへの、バカにした笑いだ。
要は、ファウルのことを見下し……そして、バカにして笑っている。ファウルは一生懸命だというのに、彼女のうわべの部分しか見ることのない最低な連中。
オレは別に、ファウルに同情しない。というか、そもそも魔族になにも感じはしない。感じるとすれば、人間を襲い、殺すその行為に対する怒りだけだ。
けど……ファウルはきっと、この日のためにたくさん努力してきたんだろう。オレはそれを知らないし想像でしかないが、今ステージに立つ彼女の顔は必死だ。必死に、成果を残そうと頑張っている。
その姿は人間も魔族も、変わらないのかもしれない。それをバカにするなんて、やはりこいつらは所詮魔族……いや、これも人間とも変わらないか。
オレはファウルに、いや魔族に同情なんて……しない。魔族の体に生まれ変わってしまったが、それによってオレの心までも魔族になることはない。
オレの心は、人間のままだ。
「はい、お疲れ様。ううん、残念だけどキミはDクラスだ。けど、キミの魔力には伸び代を感じる。これに諦めず努力すれば、上に上がれるはずだよ」
「……ありがとう、ございます」
結局ファウルは、Dクラスに落ち着いた。この学園で、最底辺のクラス……つまり、ファウルはそう判断されてしまったってことだ。
残念だが、これも運命ってやつか。
『では、次だ……ユークドレッド・ボンボールド!!』
ざわざわっ……
名を告げた瞬間、辺りのざわめきは今までで一番大きなものとなる。それは、ボンボールドという家名に反応して……現魔王の家名に反応しての、ものだ。
あぁ、やっぱりこうなるのか……オレは別に魔王になるつもりはないが、周りの反応はそうはいかないよな。魔王の子供、というレッテルがある以上、オレは周りからどうしたって好奇の目で見られるわけだ。
ったく、面倒な話だ。さっさと……適当に終わらせてしまおう。