風邪とかじゃないだろうな
「ユーク!」
「おっ」
教室に戻った俺に、真っ先に駆け寄ってきた人物がいた。それは、ファウルだ。だがその声は、これまでにあまり聞いたことのないトーンであったため、一瞬誰だかわからなかった。
「あ、その……大丈夫、だった?」
と、聞いてくるファウルは、オレよりも身長が低いため、見上げる形になっている。
大丈夫か、とは主語がない……だが、なにを聞きたいのかはわかる。クリウス・ヴォルガニックのことだろう。まあ、待ち伏せされてていきなりオレだけが連れていかれたのだから、気にもなるか。
「あぁ、大丈夫だ。問題ない」
実際に、なにも問題はなかった。昨日の件はもみ消して、オレの力のことを追及される前に先手を打って誤魔化しておいた。ま、あの程度で誤魔化されたとは思わないが。
とにもかくにも、問題がないのは事実だ。それを聞いたファウルは、表情を緩ませる。
……なんだろうな、この違和感。ファウルなんだが……いつものファウルじゃないみたいだ。さっきだって、いつもならばちゃんと主語を立てて話をするのに。
「ファウル、どうかしたか?」
「え? 別になにも……!?」
「ほら、顔が赤いぞ」
もしかしたら、昨日の件がまだ尾を引いていて、調子が悪いのかもしれない。証拠に、ファウルの顔は少し赤い。顔を近づけてみても、余計に赤くなるばかり。
しまったな、見た感じ元気だと思っていたが……体調が悪かったのを、無理していたのかもしれない。魔族って風邪引くんだろうか……いや、そんなのはどうでもいいか。こうなりゃ、今からでも帰らせて……
「ユーくん、それわざとやってる?」
「おう、シャーベリア。ファウルが具合が悪いかもしれない」
「あなた、それ本気で言ってます?」
「なにがだよ、エリザ。当たり前だろう」
ファウルの後ろからやってくるのは、シャーベリアにエリザ。この二人も、ファウル同様先に教室に行っていてもらった。
それにしても……なんだ二人の顔は。シャーベリアは、面白そうなものでも見つけたと言わんばかりの表情。エリザは、あきれに近い表情だ。なんなんだ。
「あっははは。まったくお主らは、退屈せんのう」
「お前まで……」
隣から笑い声が聞こえる。机に座り、なにがおかしいのかケラケラ笑っているのはメルデュース・マ・ガランドーラ。どうやらこの三人は、オレの知らないことを知っているみたいだが……
聞いたところで、教えてはくれないだろうな。
「ゆ、ユーク!」
「ん?」
赤くなっていたファウルが、話しかけてくる。ちなみにファウルは、まだ顔が赤いままだ。本当に風邪とかじゃないだろうな。
「あ、あの、えっ、と……」
「うん」
……やはり、ファウルらしくないな。いつもなら、どんなことでも無表情に近い表情で、あっさりと言ってしまうのに。
まあ、ファウルの心境になにかしらの変化があったのなら、見守っていよう。急かさず、じっと待つことにする。
「あの、明日……お、お出かけ、しない? その、ふ、二人で!」
明日の休日……いつものメンバーでなく、二人でのお出かけを、提案された。