話すことなんてなにもない
……翌日。オレは、クリウス・ヴォルガニックに呼び出された。登校したらまさかの待ち伏せをされていたのだから、逃れることは出来なかった。
「……で、なんだよ。魔王育成学園生徒代表サマ」
「相変わらず癪に障る話し方をする男だ。まあいい……昨日のことは、問題となる前にもみ消しておいた。目撃者への対応もな」
二人きりのこの部屋は、生徒代表となった魔族に与えられる専用の教室だ。この部屋に入るのは、何度目だろうなあ。
と、そんなオレの気持ちなど関係なく、クリウス・ヴォルガニックはオレへの不快感を隠そうともしない。まあ、オレだってこの男のことは良く思っていない……昨日ファウルから話を聞いて、余計にな。
こいつがファウルに直接なにかしたわけではなくても、一人でもファウルに味方がいれば、彼女は救われていたたはずだ。それにこの男は、ファウルを妹として見ていないどころか物としてしか見ていない。
昨日の件をもみ消したのだって、ファウルのためではなく自分の……ヴォルガニック家のためだろう。そのためにあんな騒ぎがあっても、平気でもみ消す。あんな騒ぎだ、完全に誰にも見られていないとは思わないし、そもそもファウルの眼帯を取った奴らもいる。
そいつらへの、対応……思惑はまったく違うが、オレたちにとっても都合が良かった。
「そいつは良かった。で、まさかそれだけの報告のためにオレを呼んだのか? そういうことなら一応礼を言うよ。もう行っていいか?」
「いいわけないだろう。貴様を呼んだのも、そんな理由ではない」
「それもそうだ」
わざわざ、生徒代表サマ自らのお出迎えだ。適当に遣いを出せばいいものを。そうしなかったということは……
「オレに聞きたいことがあるんだろ。それも、思わず自分からオレのところに来るくらいに気になって」
「……ちっ」
わかりやすく、舌打ちをされた。なんだか初めて、こいつよりも上に立てた気がする。なんか気持ちいい。
とはいえ……
「ま、お前に話すことなんてなにもないけどな。あの力のことも、オレ自身わかんねーし」
この男の知りたいことを、素直に教えてやるほどオレは親切じゃあない。せいぜい、知りたいことを知れない焦れったさを味わうといいさ。
「ファウルからいろいろ、話は聞いた。お前らに対して、オレがなにを思ってるかわかるか」
「……興味はないな」
「けっ」
いけすかない奴だ。ま、不本意ながらこの男のおかげで昨日の件はもみ消されたわけだし、それで良しとしておこう。
部屋を、出る。クリウス・ヴォルガニックはそんなオレを止めるでもなく、黙ったままだ。止められたところで、足を止めることはないが。
パタン
「……やれやれ、妙な男だ」
……部屋に一人残ったクリウスは、小さなため息を漏らす。そして、部屋の隅に視線を向けて……
「もう、いいぞ」
誰もいない空間に、声をかける。そう、そこには誰もいない……今クリウス一人の、はずだった。
だが、声をかけた先に、視線を向けた先に、彼女はいた。
「……」
姿を見せたのは、クリウスと合わせて二人しかいないSクラス……その残りの一人の魔族。クォロ・ダンライオという女性だ。生徒代表として選ばれたクリウス同様、副会長として選ばれたのが彼女だ。
そんな彼女が、いなかったはずの部屋に現れた。それをクリウスは当然のように受け入れた。というか、話しかけた。
「……よかったんですか、彼」
クリウスへと話しかけるクォロは、感情を読み取らせない声色だ。それを受け、クリウスは……今、部屋から出ていった男のことを思い浮かべながら、扉を見つめていた。
「……調べる必要がありそうだな。魔王の息子、ユークドレッド・ボンボールドか」




