みんなと一緒に
ファウルの話を聞いていて感じたのは、やはりファウルは家ではよく思われてはいないということだ。特に、父親からは……でなければ、姓を変えることまでしないだろう。
他にも、クリウス・ヴォルガニックとガラム・ヴォルガニック。こいつらは、ファウルのことを下に見ている。まあ、下に見ているって表現はファウル以外にも有効だろうが。
「私の魔力は、無理やりいじられてる。そのせいか、常に全開で……暴走する。だから、この眼帯は、外せない」
ファウルのことを『アレ』だあの『処理』だの、物扱いしていたのはこのためか。薬で、体の中をいじられた……しかもその結果が、失敗だ。魔力の暴走は、魔力を制御できていない証……それが、あの二人には耐えられなく見えたのだろう。
ま、試みが成功したらしていたで、また別の要因で遠ざけられていたとは思うが。
ファウルの魔力が暴走してしまうのは、本人の意思とは関係ない。生まれる前から体をいじられてしまったせいだ。魔力は常に漏れ出し、それどころか暴走する。それを防ぐのが、あの眼帯の役割か。
せぎょできるならまだしも、確かに暴走するあの状態で放置なんて出来ないからな。
「その眼帯、家の人が作ってくれたの?」
「よくわからないけど、科学者の魔族。これを、外さないようにって……次に暴走したら、壊れるから、って」
シャーベリアの質問に、ファウルは自分の眼帯を撫でつつ答える。
要領を得ない回答だが、怪しげな薬を作っているのだ、いろんな奴がいるのだろう。眼帯を作ったのが、優しさなのかすら疑問だ。暴れたら家が壊れる……そんな理由が十二分にありそうだ。
ただ、その言葉に大きな嘘はない。あのまま暴走していたら、遅かれ早かれファウルは壊れていた。もしそうなれば……ファウルの中にあった、行き場のなくなった膨大な魔力はどこにいくのか。……考えるのも恐ろしい。
そうならないために、クリウス・ヴォルガニックとガラム・ヴォルガニックはファウルを殺そうとした、か。妹の命より、学園の安全を取ったわけだ。その判断は間違っている……少なくとも、ファウルをあっさり切り捨てるような判断は。
「だから、私は……もう、みんなの側には、いられ……」
「ま、安心しろ。次暴走が起こっても、オレが止めてやる」
「……え?」
ファウルがなにを言おうとしていたかは、予想がついた。そんなこと、言わせはしない。
「でも……」
「でもじゃねー。あんなんで、離れるわけないだろ」
「そうそう。ちょっとビビったけど、問題なしだって!」
「ですわ」
オレたちの言葉に、ファウルは目を丸くしている。今日は、ファウルのいろんな表情を見れてなんだかお得な気分だ。
まさか、こんなことを言われると思っていなかったのだろう。言葉に詰まっている。
「今さら、危険だからって離れやしないよ」
「まあ危険度で言えばユーくんのが上だしね」
「やかましい」
そりゃ確かに、クラスメートを殺そうとしたが……勇者時代に、因縁のあった相手だ。思わず感情が爆発してしまった。
それに、勇者時代にはあのファウル以上に危険な奴らにも会ってきた。あんなので危険とは言えない。
「で、でも……」
「だーもー、うるせえな。だいたい、今さら離れるくらいなら、最初から友達なんて作らなきゃよかったろ。最初に話しかけたのはオレだが、迷惑なら無視すればよかったんだ。……寂しかったんだろ?」
そう、ファウルが誰にも迷惑をかけたくないと思うなら、誰にも関わらなければいい。ファウルと初めて会ったあの日、誰とも関わるつもりがなかったら、無視するなりなんなりすればよかった。その後も、互いに絡んでいった。
それは、これまでずっと一人で……寂しかったからだろう。
「へー、最初に話しかけたのってユーくんからなんだー、ふーん」
「うぜぇ」
うるさいシャーベリアは放っておいて……オレはファウルに、向き直る。
「お前は、どうしたい。もし本当に、オレたちの側にいられないってんなら、諦める。同じクラスだからある程度関わることはあるだろうが、それ以上はなしだ。お前の望みを、言ってくれ」
「!」
これは、少し卑怯な聞き方かもしれない。でも、これくらいしないと、ファウルの本音は聞けないと思ったから。
数秒の沈黙。しかし、ファウルはゆっくりと口を開いていく。
「……たい……みんなと、一緒に……いたい!」
それは、紛れもなく……ファウルの本音だ。目に涙を溜めながらも、本音をついに吐き出した。ならばオレも、それに応えよう。
またファウルが暴走したなら、必ず止める。あの勇者の力と魔族の力が合わさった力……それならば、ファウルを止められる。
「よし、任せとけ。どんだけ不安でも、また沈んでも、オレが引っ張り出してやる。みんなと一緒にいたいなら、その願いを叶えてやる」
ファウルには、暴走中の記憶がどこまであるのか、わからない。だからオレの力のこともわからないかもしれないし、なんの自信もないかもしれない。
それでも……ファウルは、安心したように微笑んでいた。
「確かにユーくんすごかったもんねー。こりゃ、ファーちゃんはこの先ずっとユーくんの傍にいるしかないね」
「あぁ?」
「っ……」
なにをいきなり言ってんだ、こいつは。見ろ、変なこと言うからファウルうつむいちまったじゃねえか。
「ファウル、あの馬鹿のいうことは気にすんなよ?」
「なんか今すごい失礼なルビ振ってなかった!?」
覗きこんだファウルの顔が赤いな……もしや、魔力の暴走による障害か?
そんなオレの心配をよそに、ファウルは、近くにあった枕でオレの頭をパンパンと叩いてくる。な、なんなんだいったい……?




