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元勇者の魔王候補生生活  作者: 白い彗星
偽物と真実
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ファウルの話



 話を聞く姿勢が、整った。あとは、ファウルの話をしっかりと聞くだけだ。


 オレたちの視線を受け、ファウルは目をつぶり一度深呼吸をする。大きく、ゆっくりと……息を吸って、吐いて。そして、覚悟を決めたかのように目を開く。



「私は……本当なら、ここにはいなかったかもしれない存在なの」



 言うと決めたことを、きちんと言葉を選んでいるように……確かに、言葉を紡いでいく。



「私は、作られた存在、なの」


「……作られた?」



 ファウルのその言葉には、嘘は見受けられない。この状況で嘘をつくなんてことはするまいが、それはあまりに信じがたい内容だった。少なくとも、一般的には。


 オレには、勇者時代の記憶がある。だから、この世界のいろんなことを知っている……作られたからといって、あまり驚くことはない。


 オレは魔族は嫌いだが、同族だった人間にも、クズというのはいるものだ。たとえば、己の欲望を満たすためだけに村の人間を実験に使ったマッドサイエンティスト。たとえば、永遠の命を手に入れるためあらゆる非道に手を染めた老人。


 人間にだって、そんな連中がいるのだ。魔族にいたって、不思議じゃあない。



「そう。私は、家の……ヴォルガニック家の、実験体」


「実験……」



 作られた存在、と言った時点で、そんな予感はしていたが……まさか本当に。


 それからのファウルの話をまとめると、こうだ。ヴォルガニックでは、兄のクリウス・ヴォルガニック、弟のガラム・ヴォルガニックと、優秀人材仮名生まれていった。


 こういう場合跡取りという表現が正しいかはわからないが、ヴォルガニックの跡を継ぐ者としてこれ以上ないほどの成果を、二人の母親は遂げた。しかし、父親の野望はそれでは終わらなかった。


 三人目の、子供……これがファウルだ。彼女がお腹の中にいるときに、母親に……正確にはお腹の中の子供に薬物を投与した。これは、秘密裏に開発していた、魔力を増幅させる薬だという。


 本来それは、魔力が足りなくなったとき、魔力を補うときなどに使う用途のものだ。だが、これを生まれてくる前の段階で、投与したら? 生まれてくるのは、これまでにない強い魔力を持った最高の魔族ではないか?


 つまり……ヴォルガニック家、いやファウルの父親は、最高の魔族を作ろうとした。それは、家の繁栄のためか、それとも己の欲望が暴走したからか。



「でも……うまくは、いかなかった」



 その後三人目の子供が生まれた。ファウル・ヴォルガニック……彼女は、父親が期待した通りにすさまじい魔力を持ち、生まれてきた。父親は大いに喜んだ。


 だが、物事というのは思い通りにはいかないものだ。生まれてきた子供(ファウル)の持つ魔力は、あまりに強すぎた。それだけならばよかったのだが、赤ん坊ゆえ魔力の制御などできるはずもない。


 さらに、生まれる前に薬を投与されたためか……時折、ファウルの体には異常が出始めた。強い吐き気や痛みに襲われ、意味もなく暴れたくなる衝動。それを抑えたのが、あの眼帯だ。


 あの眼帯は、ファウルの魔力だけでなく、内から湧き上がる衝動を抑えるためのものだった。



「それから……みんなは私を、避けるようになった」



 魔力の暴走、暴れたくなる衝動……そしてとどめとなったのが、ファウルの魔力の上達のなさだ。生まれたときにはすさまじかったその魔力は、年を重ねるごとに強く……ならなかった。


 伸びしろのなさ……それがファウルが避けられるようになった、一番の理由。兄たちは順調に魔力を伸ばしているのに、自分はまったく伸びない。


 それはおそらく……ファウルが、生まれてから育つはずの魔力を、薬のせいで赤ん坊の頃に、その後発現するはずの力をすべて発現させてしまったからだろう。


 よって、この先の成長の見込みなしと、そう判断された。それに、ファウルの『作られた』発言から察するに……ファウルの魔力自体も、薬で無理やり上昇させたものなのかもしれない。


 もちろん、あの力が今後一生分のファウルの魔力だとは思えない。だが、目に見えるほどの魔力上昇はおそらくもう、ない。



「この力は、偽物。私も……偽物……」



 生まれるはずだった命……それすらも、薬のせいで(いびつ)になってしまったのではないか。そんなことを、考えてきたのだろう。その果てか、ファウル・レプリカ……オレの知っているのと同じ意味である、偽物。


 話を聞いた側が、勝手なことを言うのは簡単だ。ファウルの生い立ち、それに対して……オレは、彼女の思いを無視して勝手なことを言うことはできない。


 ファウルは実際に、過ごしてきたのだろう……自分が、本当に存在しているのか。自分じゃない誰かがいるはずだったんじゃないのか……そんなことを考えて、過ごしてきたんじゃないだろうか。

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