ちゃんと話す
エリザは、ファウルに自分の上着を羽織らせていた。同じ女として、服がボロボロな様子は見ていられなかったらしい。それから、ファウルが落ち着いた頃……ファウルも今になって自分の姿に気付いたらしく、自分の体を抱きしめるように隠す。
珍しく顔を赤らめ、なぜかオレを睨んでいる。
「なぜ睨む」
「やれやれ、乙女心のわからぬ奴め」
「乙女? ならオレだけじゃなくシャーベリアだっているだろ」
「はぁー、乙女心のわからない人ですわ」
「理不尽な」
なんなんだいったい。
体の傷は魔法で治せても、服はそうはいかない。なので、ファウルはメルデュース・マ・ガランドーラに付き添われて早退すること。オレとシャーベリア、エリザは教室へと戻る。
……学園ではいろいろあったが、このあと、とある場所でファウルたちと落ち合うことになっている。
『ちゃんと話す、ね……私の、こと』
ファウルから、彼女自身のことを聞くために。ファウルが自分から、話したいと言ってくれたのだ、無視することはできない。
その後、教室に戻ったらいったいどこに行っていたのかととわれたが、適当に誤魔化して……
放課後になり、待ち合わせ場所へと向かう。それは、学園の女子療……ファウルの部屋だ。オレとシャーベリア、エリザは、ファウルとメルデュース・マ・ガランドーラが先に待つ部屋へと向かっているわけだ。
まあエリザは、ファウルのルームメートなのだから、実質自分の部屋に帰るようなものだ。
「うひゃー、ここが女子寮か。初めて来たよ、なんかいいにおいする」
「そりゃ、前にも来たことあるとか言ったら引くわ」
本来、男子が女子寮に入ることは許されていないが……今回エリザに案内を頼んでいるように、女子と一緒ならば入れる。しかも、目的地はエリザの部屋でもあるのだから、道案内も兼ねている。
「しかし、いいのか。いくらファウルが落ち着ける場所とはいえ、お前の部屋でもあるんだろ」
「し、仕方ないじゃないですの。あんな弱々しい彼女の申し出、私の一存でノーとは言えませんし」
「変なもんとかあったりして?」
「ないですわよ!」
そんなやり取りをしつつ、目的地へとたどり着く。魔族とはいえ、異性の部屋か……やはり女であるから、その辺の感性は人間と同じなのか? それとも、人間と魔族じゃやはり違うのか。
エリザが、ドアをノックする。コンコンと音が響き、「エリザですわ」と告げた後、中からの応答を待つ。
「……入って、いいよ」
「ではお二人とも。どうぞ」
「お、お邪魔します」
「しまーす」
ドアノブを回し、部屋に入る。中に広さは……うん、オレらの部屋と変わらないな。全体的に白とピンクの色合いってとこか。
なんとなく、よかった。魔族だし、紫や黒の色合いに侵食されていたらどうしようかと思った。かわいらしい人形も置いてあったり、感性は人間と近いか。
で、部屋にある二段ベッド……その下の段に腰掛けているのは、メルデュース・マ・ガランドーラと……
「……ファウル、それ部屋着、か」
「着替えのために戻ってきたのじゃから、当たり前じゃろうが」
メルデュース・マ・ガランドーラは制服のままなのはいいとして……ファウルは、部屋着であった。そりゃその言い分に間違いはないんだが……なんというか、新鮮だ。
今まで制服姿ばかりを見てきたため、上下水色単色で涼しそうなだけのイメージの服が、やけに珍しく見えた。
「……あまり、見ないで。恥ずかしい」
「あ、すまん」
部屋着とは、自分がもっともリラックスできる服と言っていい。それはつまり、一番無防備な姿も同然。ファウルが顔を赤らめるのも、仕方ないのかもしれない。
「め、メル……」
「言ったじゃろう、ここに替えの制服はないし、まだ疲れておるお主にきっちりした格好をさせては息が詰まると」
なるほど、犯人はこいつか。もっともらしい理由をつけて、ファウルに部屋着を着せやがったな。
しかし……ファウルなら、いかに部屋着とはいえ無表情でいると思っていたが。やはり恥ずかしいのか、部屋着ってのは。
「適当に、座って」
と、用意された座布団に座る。ベッドは二人が座っているし、そうでなくても異性ものなど使えない。
とにかくこれで、話を聞く体勢が整ったわけだ。




