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元勇者の魔王候補生生活  作者: 白い彗星
偽物と真実
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本当の顔



 漏れた小さな声は、ファウルのもの……ファウルが意識を取り戻したということを、示していた。



「ファウル、気がついたか?」


「……?」



 まるで寝起きのように、ぼんやりと目を開き……視線をさ迷わせ、周囲を確認している。



「オレがわかるか?」


「……ユーク……?」



 耳は、聞こえているみたいだ。オレの声に反応し、首を動かし……視線があう。


 それから、一人一人の顔を確認していき……一旦、目をつぶる。



「なにがあったか、覚えてるか?」


「ん……なんだか、もやが、かかってるみたい……」



 どうやら、あのことはまだはっきりとは覚えてはいないらしい。もし、覚えていないというのなら……それでもいいとは、思う。無意識とはいえ、校舎を破壊してしまったわけだし。


 だが、当然それも目に入るわけで。だんだんと、ファウルの表情が変わっていく。



「そうだ、わたし……眼帯を、取られて、それで……あば、れて……」


「あー、まあそれはファウルの意思じゃないし……」


「! その手……」



 と、ファウルがオレの右手に注目。さっきのゴタゴタで切ったのか、血が流れてしまっている。


 それに……シャーベリアも、エリザも、メルデュース・マ・ガランドーラも……オレを含め、程度の違いはあれど傷だらけだ。


 ファウルが、自分の力のことを自覚しているのであれば……破壊された風景、傷ついたオレたち、飛んだ記憶……ここから、なにが起こったのかを想像するのは、難しくはないだろう。


 それは、本人が一番よくわかっている。ファウルの表情はさらに暗くなり、うつむく。



「わ、わたし……なんて、こと……」


「ファウル……」



 ここで気にするな、なんてうわべだけの言葉を言っても、ファウルには届かないだろう。しっかし、なんて言えばいいか……


 ふと、背後に振り返る。そこには当然、シャーベリアらが立っているのだが……、目で、訴えてくる。なんか気の利いた言葉をかけろと。オレを見てくる。


 こいつら、後始末をオレに任せようってのか……?



「あー……別に、こんなん掠り傷だし……」



 嘘である。少なくとも、外傷はひどくはないだろうが……中身が、やばい。結構損傷ひどうだろうなこれ。戦いの最中はハイになっていたからか、気づかなかったが。


 だが、それを表情に出すわけにもいかない。



「でも……」


「それに……さっきも言ったが、お前がやりたくてやったわけじゃないだろ? 誰も、お前を責めたりなんか……」


「そんなこと、ない」



 誰も責めない……そんなことないと、ファウルは否定する。あぁ、あの二人のことか……ファウルの実の兄。ヴォルガニック兄弟。本来なら、ファウルもその姓を名乗るはずだ。


 それと、今回の一件……ファウルの魔力については、無関係ではないのだろう。



「きっと……あの二人は、私を、処分しようとする」



 記憶がぼんやりだから、あの二人がこの場に居合わせたことは覚えてないのか。話した方がいいか……自力に思い出さない限りは、時間を置いた方がいいか。


 あの二人の、ファウルに対する態度……それに、今のファウル自身の言葉から、彼女がどんな扱いであるかは、想像がつく。


 それを、無理に聞こうとは思わない。そこにどんな意味があるのかはわからない。だけど……魔族でも、そんな扱いはあんまりだろうと、思った。



「……ま、あいつらは知らんがな。オレたちはファウルのこと、いらないとか思わないし……必要だと思ってるぞ」


「!」



 その瞬間、ファウルが驚いたように目を見開いたかと思えば……その目から、ぽろぽろと涙を流し始めた。



「うっ……」


「えっ、なに? おい、どうした? なんで?」


「あーあー、ユーくんなーかした」


「ですわー」


「この鬼畜め」


「うるさいな!」



 なんなんだこいつら、人の気も知らないで! なにを笑ってやがる! さては泣いた理由知ってるな? なんであたたかい目をしてるんだ!


 目の前で涙を流すファウル……それに慌てると同時、なんだか、初めてファウルの心を見れたような気がして。



「ファウル、どっか痛いのか? それとも、変なこと言っちゃったか?」


「っ、違う、の……はじめて、だった、から……っ……ひつ、ようだって、言われ、たの……!」



 涙を流し、ちゃんと声を出せていない……が、なんと言っているかは、はっきり聞けた。それはファウルが、これまで言われたことのない言葉だったからだと。


 おそらく、今までそれとは逆のことを言われてきたんだろう。それはあの二人の反応からも、明らかだ。


 泣き止もうにも、次々溢れてくる涙。これまでほとんどだったファウルの無表情が剥がれ、本当の顔を見ることができた。


 それから……ファウルが落ち着くまで、ただ、彼女を見守っていた。

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