対を成す力
元々、生前は人間だった。それも、勇者をやっていた。転生なんて、信じていたわけではないが……こうして、自分の身にふりかかったのだから信じるほかない。
だがよりによって、魔族……それも、魔王の息子としての転生だ。生前の記憶はある分、自分の存在というものがわからなくなってくる。
この魔族の魔力の体に流れる魔力と、使うことのできないはずの勇者の力。理由はわからないが、今こうして使える……魔力と勇者の力、対を成す力を。
理由はわからない。だが対を成す力だからこそファウルに通用したのだろう。なら、この力なら……ファウルを止めることが、できるはずだ。
「せい!」
「ぐぅっ……」
対を成すはずの力が自分の中で混ざりあって、さらなる力に昇華されているのがわかる。魔力ではない、なにかに。速さも、力も……さっきまで翻弄されていたファウルを、逆に翻弄することができるほどになっている。
この力がなんなのか、そしてなぜ対となる力が混ざりあったのか……それは、わからない。そもそも勇者が魔王の子供になんて、その段階から馬鹿馬鹿しいことなんだ。
考えてもわかるかわからないし……今は、ファウルのことだけを考えろ。
「うぁあああ……!」
「もう、終わりにしようぜ」
ただ目の前に映るものをすべて破壊せんとする勢い。魔力を放出し、叫び、睨む。それは……いくらファウル本来の力だとしても、体にいいはずがない。無理をさせている、はずだ。
これは、時間との戦いでもある。ここにいる者以外に、バレてしまわないか……それとは別の意味での。
ファウルの体が、壊れていく可能性がある。だからきっと、ファウルは自分の魔力を封じていたんだ。
「ファウル……ちょっと、我慢しろよ!」
向かってくるファウルから繰り出される拳を、左に体をずらすことでかわす。だが、完全にかわしきることはできず、頬に擦り傷が刻まれる。
いってぇ……が、おかけでファウルの方から目の前に来てくれた。拳を握りしめ、力を込めたそれを……ファウルの腹部に、打ち込む。
「がっ……!」
「あとで、いくらでも謝るから」
眼帯をつけ直すために……ファウルを気絶させることができれば、動きは、止まる。言うのは簡単だが、今のファウルを気絶させるのは簡単なことじゃない。
この力が宿った、おかげだ。おかげでファウルに一撃打ち込み、気絶させることができた。
「や……やった、のか? てか、まさか殺して……」
「ねぇよ、気絶させただけだ。これで、もう元通りになるはずだ」
気絶させたファウルを支え、そこに落ちている眼帯を見る。あれをつけ直して、元に戻れば……あいつらも、もうファウルを殺すなんて言い出さないはずだ。




