勇者の力と魔力
「はぁ、はぁ……!」
「……なんなんだ、その力は」
……不思議な感覚だ……魔力とは別の力が、体内からあふれてきているようだ。この力には、覚えがある。
あれはそう、クラスメートであるヤードラ・サイフェンをぶっ殺そうとしたときに感じた力と、よく似ている。魔力ではないなにか、それは本能が、圧倒的な力だとわかっていた。
確かあの時は、突然生前の記憶が頭の中に流れ込んできたんだったな。そんで感情がむき出しになって、本能のままに暴れていた。
あの時は結局、乱入してきたクリウス・ヴォルガニックに止められたんだったか。しかも、暴れた罰として、メルデュース・マ・ガランドーラの世話をすることになって……って、流れだったよな。
そういや……クリウス・ヴォルガニックに止められる直前、ファウルはなにかをやろうとしていたよな。今のように、力を解放……いや暴走させてでも、オレを止めようとしたわけだ。
あの時とは、立場が逆だな。
「……」
あの時と違うのは、もう一つある。あの時のように感情に呑まれた状態ではなく、今はちゃんと本能を理性が抑え込んでいる。
この力を、自在に操ることが出来る。
『確かに坊ちゃまは、純粋な魔力とは別のなにかを感じさせていましたからな。それが、魔力が存分に発揮されなかった理由かと』
以前リーズロットがこんなことを言っていた。晴れてDクラスに入ることになった報告をしたときに、言っていたことだ。Dクラスになったのは、魔力とは別の力……つまり今のこの力により、存分な魔力が発揮されなかったと。
それが本当かは確かめる術はないが……すくなくとも今、オレはオレの魔力を存分に、いやそれ以上に発揮できているということだ。
「ぐぅう!」
迫ってくるファウルの動きが、やけに遅く見える。これは……そうだ、勇者をやってたときにも、感じたことがある。相手の動きが、とても遅く見える現象。
オレは、その場から少し横にズレ、足払いをする。前しか見ていなかったファウルは見事に足を引っかけ、バランスを崩すと……その背中を、軽く突き飛ばす。
……なるほど。これは謎の力なんかじゃない。これは、勇者の力だ。実際に使っていたあの力と、同じものだ。
「ゆ、ユーくん……?」
「……うし。なんとかなるかもしれん」
軽く手を二って開いて、確認。ちゃんと手足は動かせる。それに……この力で、暴走していない。クラス判定の時のように、この力が魔力を邪魔しているんじゃなく、この力と魔力が混ざり合っている。
この力ならば、ファウルを止められるかもしれない。
「っても、力に対抗できるだけだけどな。それでも、一歩前進か。魔族の体なのに、というか一回死んでんのになんで勇者の力を使えるのか知らねえが……ま、あとで考えるか……!」




