願いは聞かない
たとえ、殺してくれとファウルが望んでいたとしても……それをわざわざ、オレが聞いてやる理由はない。そもそも、魔族の望みを聞く義理すらないのだから。
ファウルがこうなってしまっている以上、ファウルの体にあまり強い後遺症を残すようなダメージを残すのは避けるべきだと思っていたが……そんなことも、言ってられない状況だ。
「おらぁ!」
「むんっ」
ファウルに向けて放たれるガラム・ヴォルガニックの魔力は、メルデュース・マ・ガランドーラの手によりすべて撃ち落とされる。二人の力関係は、明らかだ。
「無駄じゃ。お主では抜けられん」
「っ、勘弁してくださいよ……!」
とにかくこれで、ガラム・ヴォルガニックは抑えたことになる。問題はもう一人……クリウス・ヴォルガニックだ。
あの男は、ファウルが無作為に放つ魔力が、校舎などに被害を出さないように一つ一つ正確に撃ち落としている。パワーだけではない、テクニックもある。
さすがは、エリート一家とされる長男ってことか。あいつ一人に任せただけで、ファウルの末路は悲惨なものになるだろう。
「……ち!」
ファウルの無差別攻撃を防ぐだけではない……クリウス・ヴォルガニックは、それに加えてファウルへと攻撃を向ける。
それを見て、オレは魔力を撃つ。ただし、オレの力ではクリウス・ヴォルガニックの魔力を上回るには至らない……だから、攻撃の軌道を、変える。
攻撃の軌道を変える角度で、魔力を撃ち込む。それにより、ファウルに直撃するはずだったクリウス・ヴォルガニックの攻撃は、外れる。
「雑魚のわりに面倒な……」
「はっ、思い通りにさせるか!」
あのままクリウス・ヴォルガニックにファウルを攻撃され続けられたら手立てがないが……ファウルの攻撃を防ぐことにも意識を向けなければいけない。
そして、無差別な攻撃はクリウス・ヴォルガニックが処理してくれる。意図せず、オレに都合のいいように動いていることになる。
「よし、このまま……!?」
うまい具合に、ファウルへと近づけている。……しかし、ラッキーはそう長くは続かない。
ファウルが無差別に放っていた魔力が、オレへと向かってくる。オレへ向かうものは当然放置されるわけで、自分で対処するしかない。
オレは向かってくる魔力に放ち、反撃の魔力を放つが……
「! 無理か……!」
やはり、威力では叶わず弾かれる。軌道を変えようにも、それすらも通用しない。
だから、魔力を避けるために体勢をずらす……が、それを追うように、魔力も軌道を変える。いわゆる、追尾してきた形になって……
オレの腹を、撃ち抜いた……
「ぐ……っ!」
腹に、穴が開いた感覚……見たらショック受けそうだから、見ないけど。
勇者時代でさえ、腹に穴が開いた経験などない。初めての体験だ……こんな初めて、願い下げだが。
仮にも魔族の体なのに……人間のものよりも、丈夫なはずなんだけどな。そんなこと関係ないと言わんばかりの、殺傷力だ。
少しでも気を抜いたら、意識を失いそうだ……それでも……!
「ぬ、ぐうぅうう……!」
踏みとどまる。ここで倒れてしまえば、ファウルを見殺しにしてしまうも同然だ……そんなことは、させない。
一歩、また一歩と近づいていく。その間も、何度か放たれる魔力……今度は魔力により体の強度をあげたためか、風穴が開くまでのダメージを負うことはなかった。
足を止めること泣く……目の前の、ファウルへ……
「ファウル……!」
動きの鈍くなった体を、投げ出すように……ファウルへと、飛び付いた……




