賛成しかねる
暴走するファウルを元に戻すために、一切の集中力をファウルへと注がないといけない中で……現れた、クリウス・ヴォルガニック。あとその弟のガラム・ヴォルガニック。
ファウルを早く元に戻したかった理由は、他のやつらにばれないようにするためではあるが、一番の理由はこの二人にばれたくないからだ。
ヴォルガニック家のエリートであるクリウス・ヴォルガニックと、本来ヴォルガニックの姓でありながら別の名を名乗っているファウル……
ここにどんな思惑があって、どうしてそんなことになっているのかオレは知らない。だが、姓を捨てるなんてどう考えても悪い意味にしか捉えられない。
「なんかややこしいことになってきたな……!」
ファウルを止めるのは大前提として、この二人の動きにも注意しないといけない。こいつら、隙あらばファウルを殺すつもりだ。
「やれやれ……相変わらず、短気な奴じゃ」
「! お前……」
と、言葉を並べて隣に立つのは、メルデュース・マ・ガランドーラだ。正直、こいつの立ち位置はいまいちわからないのだが……
「どういうつもりだメル。なぜそのバカにつく」
「バっ……!?」
「ふん、このバカの味方というわけではない。ただ、あの子をこのまま殺そうというお主の意見には賛成しかねるというだけのこと」
こいつら、揃いも揃って人のことをバカバカ言いやがって……!
……まあ、今はいい。あとで問い詰めるとして、今は……
「賛成しかねる、か。お前もわかるだろう、まだ力を制御できていない今のうちに、アレを始末すべきだ。もはやアレを元に戻す手立てはない」
「手立てはない、って、決めつけんなよ! あの眼帯さえ元に戻してつけ直せば、また魔力を抑え込めるはず……」
「……だとして、また同じことが起こったらどうする? 現状手を持て余している貴様に、なにができる」
「っ、それは……」
悔しいが、クリウス・ヴォルガニックの言葉は正論だ。今元に戻したとして、また同じようなことが起こったら、果たしてオレに抑えられるのか?
それは、正直……
「けどっ、殺すなんて……」
「ぐ、ぁあぁあ!」
「ちっ、うるさい奴め」
こうして話している間にも、ファウルが迫る……が、クリウス・ヴォルガニックが魔力によって抑え込む。あの状態のファウルを抑えるなんて……
やはり、いけすかない奴だが……力は、本物だ。とはいえ、あんな奴にファウルを殺させるわけにいかない。
……殺させるわけにいかない、か。相手は魔族だってのに、オレはなにを……
「とにかく、やらせるか!」
「吠えるのは自由だが……果たして、実力が伴うか。ただの妄言とならないといいがな」




