厳しい勝利条件
さて、なんとかする、と覚悟を決めたのはいいものの……
「うーん、どうすっか……」
今のファウルは、自分を見失って暴走している形だ。触れることはおろか、近づくことすらも難しい。
また、シャーベリアやメルデュース・マ・ガランドーラの攻撃にビクともしてない様子から、体はかなり硬い。あれを崩すのはなかなか難しいだろう。
そういうのは本来、地道にでも攻撃を与えダメージを重ねていき、もろくなったところを叩くのが定石だが……そう、のんびりとしたことはやってられない。
いつ、騒ぎを聞きつけた野次馬がやってくるかわからない。その中に教師でもいてみろ、暴走したファウルにどんな処分が下るか。
それに……この状況を、ヴォルガニック家の魔族に見せたらまずいことになると、オレの勘が叫んでいる。
つまり……
「今のファウルを気絶させるほどのどでかい攻撃をぶつける。それも、誰か来てしまう前に片づけるためにスピーディーに……か。難易度高すぎだろ」
なんて厳しい……ま、これくらいの危機、勇者時代に何度だって味わってきた。やってやるさ。
そうこう考えているうちに、ファウルが辺りをきょろきょろと見回す。まずいな、ここで食い止めなきゃならないのに、ファウルにどっか行かれたら意味がなくなってしまう。
ファウルを移動させるわけには、いかない。
「そら、こっちだ!」
体の中にある魔力に意識を集中させ、手のひらに魔力の弾を作り出す。こんなものでダメージを与えられるとは思っていないが、気を引く程度ならば可能だろう。
ということで、魔力弾をファウルへとぶん投げる。こっちには気がついてないみたいだし、このまま弾は当たる……
「っ、ぐぅあ……!」
「あれ……?」
魔力弾は、確かに当たった。それは間違いない。間違いないが……聞こえるはずのない声が、聞こえた。
これまで、シャーベリアの攻撃もメルデュース・マ・ガランドーラの攻撃も、当たってもなんの反応もなかった。ビクともしなかったし、攻撃をくらった際の驚いたような声さえ、漏らさなかった。
それが……今確かに、ダメージを受けたことがわかるような声を、漏らした?
「くぅ……!」
攻撃を受けたファウルは、その攻撃主を探し……オレに、狙いを定める。
や、確かに注意をこっちに向けるつもりではあったが……あんな、殺意バリバリに向けられるとは思っていない……
「うぉああ!」
「やべっ……!」
次の瞬間、ファウルは目にも止まらぬ速さでオレに迫り、ぶん殴ってくるために拳を突き出してくるが……寸前で、しゃがんでかわす。その際、まるで獣のような咆哮を上げて。
今の、たった一発だけでわかる……まともにくらったら、骨が折れるじゃ済まないぞ!
「けど、やるしかない……」
骨が逝くくらいで、躊躇なんかしてられない。ファウルの体格に合わないような、この動き……完全に、体に無茶をさせている。ただでさえ、抑えきれないほどの魔力を放出しているのだ。
逃げに徹して、力尽きるまで待つ……その案もあるにはあったが、状況を長引かせればそれだけ誰かに見つかる可能性が高くなる。それ以外に、ファウルの体の心配もしなくてはならない。
このまま無理な動きを続けていれば、体が壊れてしまう。そうなってからでは、遅い……今動けるオレが、早々にどうにかするしかない。
さっき、なぜか攻撃も効いたし……オレに、やれって誰かが言っているみたいだ。




