ファウルのために
ファウルの体に、メルデュース・マ・ガランドーラの魔力を込めた一撃が打ち込まれる。がら空きの背中からの、強力な衝撃波だ。あれをあんな至近距離で受けて、ただでは済まないだろう。
とはいえ、メルデュース・マ・ガランドーラだってファウルを殺すつもりはないだろう。意識は飛ぶだろうが、致し方ない犠牲だし元に戻ったら説明すればいいだけのこと……
「なっ……」
しかし、そう狙い通りに事は進まない。衝撃波を打ち込まれたはずのファウルは、気絶するどころか倒れることもなく、メルデュース・マ・ガランドーラの腕を掴み取る。
そして、まるで砲丸投げのようにその場でぐるぐると回り……砲丸のように、メルデュース・マ・ガランドーラを投げ飛ばした。
「う、ぉ!?」
小柄な女だ、重くはないだろうが……それでも、同じく小柄で同性のファウルが、ああも簡単に飛ばせてしまうとは。やはり、身体能力もかなり強化されている。
それとも……あれが元々のファウルの力ってんじゃないよな。さすがに怪力すぎるぞ。
「あだっ!」
メルデュース・マ・ガランドーラが投げられた方向には誰もおらず……また、誰も彼女を助けるために力を使わなかったため、彼女は顔面から地面に激突する。
とても、痛そうだ。
「ぐ、ぬぬ……貴様ら! なぜぼーっと見ておるのじゃ! 助けんか!」
「そんなこと言われても……」
確かに魔法を使えば、ぶん投げられたメルデュース・マ・ガランドーラの体を浮かせるなりなんなり、助けることはできたが……
「今まで偉そうにしてきたお前のことだし、一人で大丈夫かなって」
「ホントはただ嫌なだけじゃないだろうな?」
……いやそれはない。二割くらいは。
「それより、どうすんだファウルのやつ」
「それよりとは……しかし、思っていた以上に手強いな。まさか余の魔力も効かぬとは」
メルデュース・マ・ガランドーラの放った一撃は、確かにもろに受けて無事で済むようなものじゃない。攻撃の余波で服にこそダメージは入っているが、当の本体は無傷。
メルデュース・マ・ガランドーラの魔力で傷をつけられないなら、この場の誰も太刀打ちできはしないぞ。
「なぁなぁ、ユーくんなら、どうにかできるんじゃないか? だってほら、このクラスの中でもかなり異質だし!」
と、シャーベリアが期待を込めた声で話しかけてくる。にしたって、異質って言い方は……
シャーベリアがそう言うのは、わからないでもない。俺は以前、エリザとヤードラ・サイフェンの両名を一方的に下している。実力は、頭一つ抜きんでていると思われても不思議ではない……が……
「悪いな……オレにも、無理そうだ」
「そんなっ」
これは謙遜でも、なんでもない。オレだって、自分の力でなんとかできるなら初めからそうしている。
だが……これは、ちょいと厳しい。まさか、ファウルの力がここまで大きいとは思わなかった。
とはいえ……このままでは、メルデュース・マ・ガランドーラが疑念しているように、魔族が集まってしまう。そして、その中にヴォルガニック家の奴がいたら……勘だが、まずいことになる気がする。
「ま、やれるだけやってみるさ」
だから、このままなにもしないという選択肢はない。無理だと思っても、初めから諦めることはしないと、勇者やってた時から決めてるんだ。
……そういや、オレがヤードラ・サイフェンへ我を忘れて襲い掛かって来た時、ファウルはなにかを決意した顔をしていた。その時は、意味が分からなかったが……
今思えば、オレを止めるために自ら力を解放しようとしてたのかも、しれないな。そんなことになったら、オレだけでなくファウルもどうなっていたかわからない……とんでもない迷惑を、かけるところだったんだな。
ファウルがオレのために、それほど危険なリスクを犯そうとしてくれたんだ。
「ならオレも、ファウルのためにやれることは、やらないとな……!」