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銀髪の少女



 先ほど変なのに絡まれてしまった結果、周りに誰もいなくなってしまった。一人を除いて。


 ま、数が多くてうっとうしかったから、ちょうどよかったんだが……同時に、騒ぎを起こしてしまった当人ということで注目を集めてしまっている。あぁ、騒ぎを起こしたのあいつなんだけどなぁ。



「……災難、だったね」



 とにもかくにも騒ぎを起こした当人……そんなオレに話しかけてくるのは、ただ一人だけ残った銀髪の女だ。なにを考えているのかはわからないが、文脈から察するに、あの変なのに絡まれて災難、と言いたいのだろう。


 やっぱオレ、災難に映ってたよな。あいつが勝手に絡んできただけだもんな。オレに非はないよな?



「あぁ、まあ、な。お前は知ってる? ヴォ、ヴォ……」


「ヴォルガニック」


「そう、それそれ」



 単純な好奇心……家名を出したとたん、周りの雰囲気が変わったから、それはそれは大層な家柄なのだろう。


 そんなオレの疑問に返ってくるのは、感情を読み解かせない女の視線。いや、これはわかる……「え、マジで言ってたんだ?」「とぼけてたんじゃないんだ?」って目だ。



「はいはい、どうせオレは世間知らずですよ」


「まだ言ってないし、そこまで思ってない」



 まだって言っちゃったよ。しかもそこまでってことは、それに近いことを思ってたんだな。



「ヴォルガニック家……由緒正しい魔族の家で、歴史で言ったら魔族歴最古のうちの一つ。数多くの魔王を、輩出している」


「ほー……」



 相変わらず感情どころか抑揚すらも感じさせない口調だが……それでも、彼女の説明は要点をまとめてあった。


 なるほど、数多くの魔王が生まれた家か……そりゃ、充分なほどに家の名前は便利だろうなぁ。歴史が深いってのは、それだけで讃えられるものなのだ。


 しかも、その後の歴史においても……いずれも、魔王でなくとも幹部クラス、それに準ずる魔族を選出している。まあ、言っちまえばエリート一家だ。


 これは、生まれたばかりの赤子ですら知っている話だという。ったく、リーズロットめ……魔族のたしなみだなんだと耳にタコができるくらい言っておいて、世間的なものは全然教えて……



『いいですか坊ちゃま、世に名高い家柄の者とは仲良くしておいて損はないですよ。上位魔族とのコネクションは必ずや役に立ちます』



 ……いやー、もしかしたら言ってたかも? 魔族の歴史なんかまったく興味ないから聞いてなかっただけかも?



「ま、まあ仕方ないな、うん。過ぎてしまったものは仕方ない」


「?」



 リーズロット、疑って悪かった。ちょっとだけ反省しておくよ。



「しかしまあ、仲良くどころか……完全に目ぇつけられちまったなぁ」



 これではコネクションもなにもあったものではないだろう。無論最初からそんなものに頼るつもりも仲良くするつもりもなかったが。



「大丈夫……あれは、不安を紛らわせたいだけ。きっと。……でないと、呑まれちゃうから」



 しかし女はオレの呟きに対して……まるで、先ほどの男ガラム・ヴォルガニックを庇っている……いや、フォローしているようだった。


 つまり……そんなエリート一家だからこそ、自分にのし掛かる責任は果てしなく重いってことか。


 その点のみで考えると、オレと立場は似ているのかもな。ガラム・ヴォルガニックは、歴史あるエリート一家の魔族として……オレは、現魔王の子供として、それぞれプレッシャーがある。


 ま、オレは魔王の跡を継ぐ気はないから関係ないんだけどな。



「いろいろ大変なんだな、エリート一家ってのも」


「……そう、だね」



 何気なしに言った言葉……それに対し返答する女の表情は、どこか、暗く見えた。



「ま、オレには関係ない話ってことだ。エリートさんはせいぜい頑張ってくれってことだな」


「……けど、ここにいるの……ほとんどは、有名な魔族の一家の出」



 げ、そうなのか……じゃあ、どいつもこいつもエリート揃いってことか?


 そりゃ、次期の魔王を決めようって学園だ。それなりに影響力のある家柄の魔族が選ばれていると言っても不思議ではない。



「あれ、ってことはお前は有名どころのお嬢様とか?」



 もしそうなら、この銀髪少女も有名なエリートサマということに……?



「私は……違う」



 しかしその予想は外れ、女は左右に首を振る。嘘をついている風でもないし、本当にそうなのだろう。


 エリート一家ばかりでなくても、適正さえあればすべての魔族に平等にチャンスが与えられる……志願、推薦、スカウト、そういったものに選ばれた者たちが集う場所がこの学園だ。



「そうか。お前も大変……そういや、まだ名乗ってなかったな。オレは、ユークドレッド。ユークでいいぞ」



 ここまで会話をして、この女の名前をまだ知らないことに気づく。魔族と仲良くするつもりはないが、いい加減女女というのも面倒だ。名前くらいいいだろう。



「……私、は……ファウル。ただの……ファウル」



 銀髪の女……(もとい)ファウルは、名乗る。ガラム・ヴォルガニックのように、フルネームを名乗ることはなかったか……いや、オレもだけど。


 エリート一家じゃないって言ってたし、もしや有名でないからってバカにされると思ったのか? そんなことしやしないのに。そもそも、有名であろうがなかろうがオレにはさっぱりなんだけどな。



「ファウル、か。これもなにかの縁だ……お互い、いいクラスになれるように祈ろうじゃないか」



 何度も言うが、オレは上のクラスに頑張ってなるつもりはない……が、魔王育成の学園に来ているのだ。これくらい言っておかないと、不審がられる。



「……うん」



 やはり無表情のままであるが……どこか、その表情は嬉しそうであるとオレは感じた。へぇ、魔族にもこんな顔を出来る奴がいるのか。


 これは、学園生活が思いの外楽しいものになるかもしれないな。



『これより、クラス分けのための実技試験を行う!』



 そこへ、どこからともなく建物全体に響く大きな声が轟いた。

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