対ファウル
溢れるファウルの魔力。あれがファウル本来の魔力だなんて、にわかには信じられない。
それに……あれだけの魔力を持っているのなら、ヴォルガニック性を隠すこともないんじないのか。てっきり、ヴォルガニック家に相応しくない魔力を持っているから絶縁、くらいに思ってたんだがな。
「ま、それは後回しだ……で、どうやって眼帯を戻すって?」
ファウルの魔力を抑え込むには、あいつがいつも付けていた眼帯を付け直す……そう言ったのはメルデュース・マ・ガランドーラだが……言うほど簡単ではない。
眼帯を付け直すには、眼帯が落ちている場所まで近づき、且つかなり接近しなければならない。今のファウルの魔力相手では、半端な気持ちじゃ近づくことさえできない。
「こんなことなら、彼女たちに眼帯を付けてもらえばよかったんじゃ……」
「あれは、あのままあそこにいたらあれらが食われていたから退かしただけ。すでに、呑まれておるしの」
先ほどファウルに暴力を振るい、眼帯を外した張本人たちは……呆然と、座り込んでいる。最初からファウルの傍にはいたが、それだけあの魔力にあてられたということ……失禁していても、おかしくない。
「つまり、近づけても魔力に呑まれる可能性があるってことか」
いろいろと気になることはあるが……とにもかくにも、ファウルを元に戻さなければ。そのために、できることは……
「なるべく早く片をつけるぞ。でなければ、この魔力に気付いたあやつが来てしまうからな」
「あやつ?」
気になる一言を残し、メルデュース・マ・ガランドーラはファウルの下へと、歩みを進める。あのファウルの魔力に、押されていない……やはり、わかる。
メルデュース・マ・ガランドーラは、Dクラス程度で収まるような魔力の持ち主じゃない。A……いや、それこそSクラスであっても不思議ではない。それがなんで、このクラスに。
……こいつをDクラスに転校させたのは、クリウス・ヴォルガニックだったよな。この二人、なにかあるのか? あやつってのも、ファウルの本来の姓であるヴォルガニック、つまりクリウス・ヴォルガニックのことを指している可能性もある。
「……なんか複雑だな」
なんにせよ諸々を考えるのは後だ。今は、ファウルを元に戻すこと以外を考える余地は……
「ぅうう!」
「なに!?」
だが、事はそう思った通りに進んではくれないらしい。先ほどまで魔力の放出に自身の体を抱きしめていたファウルだったが、いきなりこちらに向かって突撃してくるではないか。くそ、魔力に完全に呑まれたか!
繰り出された拳を、オレは咄嗟に体の前で腕をクロスさせることにより、防御する。拳が体に直撃することはなかったが……重い!
「上がったのは、魔力だけじゃないのか!?」
「魔力の上昇に伴い、ファウルの身体能力も同じく上昇しておる! とにかく、そのままファウルを捕まえろ!」
「うおっ!?」
そんなこと言われても……と、メルデュース・マ・ガランドーラの言葉に反論するよりも先に、右視界の端に黒い影が。それがファウルの足であると気づく前に、体は反応していた。
その場でのけぞることで、放たれた蹴りを間一髪かわす。あ、ぶねぇ……髪の毛先端、少し持っていかれたぞ。
ファウルの小柄な拳から放たれた一撃が、もろに当たってなくてもあれだけ重いのだ。蹴りも同じく威力は高いだろうし、あんなもん頭にくらったらただじゃすまない……
ドスッ
「かはっ……」
次の瞬間、重い一撃が腹部に打ち込まれる。これは……さっき一応防いだ、ファウルの拳か……!
のけぞったことに生まれた僅かな隙を、狙われた。ヤバい、これ……体の中から、聞こえちゃいけない音が鳴っているのがわかる。体が、吹っ飛ぶ……踏ん張るための足が、言うことを聞かない。
「ユーくん! この……」
「……」
意識がはっきりしない。耳も、良く聞こえない中で……シャーベリアの声が聞こえる。
飛びそうな意識を、なんとか踏みとどめる。口から流れる血を拭い、顔を上げる。そこには、魔力を高めているシャーベリアの姿があった。
「ファーちゃん、ごめん!」
その魔力を攻撃手段として、エネルギー波を螺旋状に放つ。シャーベリアなりの、渾身の一撃であることは見てわかった。平常時のファウルに直撃すれば、意識くらい簡単に飛ばせてしまいそうな一撃。
それを、ファウルは避ける素振りもなく、黙って見つめていて……自身の前に手のひらをかざすと、真正面からエネルギー波を受ける。
「な、うそ!」
さすがにそれは、想定外だったらしい。避けられたら仕方ない、よしんば直撃して意識を飛ばさないまでも、数秒でも隙を生むことが出来れば。そう考えていたであろうシャーベリアの思惑は、打ち砕かれる。
バシュッ……
「そ、んな……」
エネルギー波は、シャーベリアの渾身の一撃は、いとも簡単に握り潰された。魔力で相殺するでもなく、ただその手のひら一つだけで。
驚愕に表情を染めるのは、シャーベリア本人、そしてエリザだ。彼女も、同じDクラスである以上、今のシャーベリアの一撃がよほどの威力を持っていたのは見て取れたはずだ。
それが通用しないとなると、自分の魔力も通用しないのではないか。そんな絶望感が、そこにはあった。
……だが。
「今の一撃、悪くなかったぞ!」
今の攻防のやり取り、そのほんの数秒にも満たないが生まれた隙を狙って、ファウルの背後に回っていたメルデュース・マ・ガランドーラは……魔力を手のひらに集中。
魔力を溜めた手のひらをファウルの背中に当て……魔力の衝撃波を、超至近距離から直接、打ち当てた。




