新しい友達が心配
周りとの付き合いが悪いメルデュース・マ・ガランドーラであるが、どうしてかファウルにはよく話しかけている。
そこにどんな魂胆があるのか、それともただ仲良くしたいだけなのか……よくはわからないが、今のところ問題はないようだし、放っておいてもいいだろう。
ただ……それとは別の問題があるらしい。それは……
「ちょっとあんた、待ちなさいよ」
オレはメルデュース・マ・ガランドーラの付き人とはいえ、常にいっしょにいるわけではない。特に、ファウルと話すようになってからは、その傾向も強い。
オレが見ていないそのその時間……メルデュース・マ・ガランドーラは、他の女に絡まれることが多いらしい。ま、あんな性格をしてたらそれも仕方ないが。
ちなみに、オレが見てないのになぜそんなことがわかるかというと……ファウルから、聞いた話だからだ。
だがこれは、オレに問題を解決してほしい、というものではなく……
「……」
「ちょ、ちょっと! 待てって言ってんのよ!」
「ん、もしや余のことか?」
それは、同じクラスの連中だという。こういう奴らは大抵、数で有利だと調子に乗る傾向がある。
「そうよ、決まってるじゃない」
「はて……なぜ、余が貴様のために足を止めねばならん。それとも、この数秒を余に有意義な時間として提供するつもりか?」
もちろん、絡んでくるのはクラスメートだけではない。ただでさえ傍若無人な態度だ、他のクラスの奴に違った態度をとるわけがない。
Dクラスの、それも転校生に横柄な態度をとられたらどうなるか? 特に、クラスが上になればなるほど、下の奴から生意気な態度をとられるのは我慢できないだろう。
「っ……あんた、生意気なのよ。何様のつもり? 家が最古の魔族だからって、調子乗ってんじゃないの? 私は由緒あるダラン家の長女なの、あんたみたいな古いだけの魔族、お呼びじゃないのよ」
「ふむ、用はそれだけか? つまらん用事で余を引き止めるなど、次は見逃さんぞ。行こうファウル」
だから敵は、多い。だが、そんなこと、メルデュース・マ・ガランドーラにとってはまったく気にならないようだ。
「なっ……この、そういう態度が目障りなのよ!」
「そうよそうよ!」
「……はぁ」
それでも、いちいち相手にしてやるとは、なんというか……意外なものが、あるが。
「わめくな愚図共。次は見逃さんと……そういった、はずだが?」
「……ひっ」
その威圧感は、直接向けられていない、隣にいたファウルでさえ、背筋が凍るほどだったという。
正面からぶつけられた連中は、たまったものではない。
「貴様らこそ、分をわきまえよ。後ろに取り巻きを侍らせねば、自信の家名を使わねば、自分を大きく見せられない小物が。誰に向かって吠える」
「あ……ぁ……」
「何様だ、と聞いたな。余は余だ。それ以外の何者でもない。このガランドーラの血に誇りこそ持っていようと、それを盾に自分の価値を認めさせるような下種な真似はせん」
そこにいたのは、最古の魔族ガランドーラ家の娘ではなく、メルデュース・マ・ガランドーラという魔族であったという。
「……で、なにが問題なんだ? 自分で絡んできた連中を返り討ちにしてるなら、いいことじゃないか」
「それは、そうなんだけど……」
ファウルが、どうしてこれをオレに話してきたのかわからない。今のやり取りを聞くに、特に問題はないように思われる。
が、ファウルはそれでも心配そうで。
「その場は、治まるんだけど……その……」
ふむ……なんとなく、言いたいことが分かってきたな。
「つまり、学園内であれば大事にはならないと思うが……敵が多いことに変わりはないから、いつどこでなにがあるかわからないと?」
「そ、そう!」
うぅん……確かにな。ただでさえ野蛮な魔族の巣窟だ、いくら学園内でも、なにも怒らない確証はない。
今は大人しくしてても、ああいう連中はどこで爆弾のスイッチが押されるかわからんからな。
「……で、そうなる前にオレにどうかしてくれと?」
期待は嬉しいが、それは過度な期待というやつではないだろうか。
「ううん、そこまでは、言わない。ただ、なにか起きたらでいい、協力してほしい」
「……まあ、そのくらいなら」
協力、か。あいつのためにってのが気に入らないが、ファウルに頼まれちゃ仕方ないよな。それに……
「? どうしたの?」
「いや、なんも?」
気づいてないんだろう、今ファウル本人がどんな顔をしているか。
メルデュース・マ・ガランドーラは確かに気に入らないが、ファウルに対しての態度に嘘はないと思う。ファウルも、そんなあいつを友達のように想っていることだろう。
新しい友達……その存在に、とてもいい笑顔をしている。そんな顔を受けられたら、断ることなんて出来やしない。仕方ない、あいつのことを注意深く観察しとくとするか。そう、決めた。
……この決断を、遠くないうちに後悔することになる……と、俺自身気づくことなく。