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元勇者の魔王候補生生活  作者: 白い彗星
最古の魔族、その末裔
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波乱の転入生



「えー……転入生の、メルデュース・マ・ガランドーラだ。みんな、仲良くするように」


「メルデュース・マ・ガランドーラじゃ。皆のもの、余を敬って尽くすがよいぞ。かっかっか!」



 教室内に響くのは、なんとも能天気な女の笑い声だ。耳に響く。


 明るく輝く長髪の赤毛を揺らす褐色の少女は、驚くほど整った顔をしており、どこか気品さえ感じさせる。眼球が不気味なほどの黒目だというのに、それを不快に感じないのは彼女の気品ゆえか。しかし、その口が開かれた途端、その気品さは途方のかなたに消え去る。


 その声の主に、扱いに、教師であるアリス・ニーファさえも困惑した様子だ。しかし、注意はしない。


 それは相手が、最古の魔族と言われるあの、ガランドーラ家の末裔だから……ではない。こいつの世話係はオレであり、注意だろうがなんだろうがオレにぶん投げるつもりなのだ。


 このサボり教師め……



「えーと……ガランドーラ、初日からその態度はどうかと……」


「メルデュース様、でよいぞ下僕。ええと……名は、なんと言ったかの?」



 この、クソガキ……さっき自己紹介しただろうが! てか下僕ってなんだ!



「ユークドレッド・ボンボールドだ、オレはお前の世話係なんだし、覚えてくれ。あと、下僕じゃない」


「なんじゃ、世話係とは下僕のことじゃろ? 下僕が主にそのような口を叩くとは、無礼千万。余のあまりの輝きに思わず伏し敬う言葉すら忘れたというなら許すが、次はないと思え」



 なっ……んなんだこいつは。人の名前を忘れた反省どころか、逆にこっちの態度に口出ししてきただと?


 こ、の、ア、マぁ……人が下手に出られないのを、いいことに……! クリウス・ヴォルガニックからの指示がなければ、今すぐにでも役割を放棄したい……!



「ゆ、ユークが……世話係?」


「えー、じゃあガランドーラの席は……コントラス、そこをどけ」


「ふぁ!?」



 困惑する教室内をよそに、アリス・ニーファはシャーベリアに席を退くよう言う。ここに来てまさか指名されるとは思わなかったのだろう、ひどくマヌケな表情だ。


 しかしその困惑は、この二人に通用しない。



「ふむ、なかなかいい席じゃ。さっさとどけ金髪」


「きん…………いや、そんないきなり言われても、まだ頭の整理がついてないっていうか……」


「聞こえなかったようじゃな。もう一度だけ言ってやる。()ね、金髪」


「あれ言い方悪化した!?」



 オレの肩ほどの身長しかないのに、この偉そうな態度は……ある意味尊敬する。委縮してしまったシャーベリアは、「はい」とだけ言い残して席を移動する。さらばだルームメートよ。


 この教室の中で、オレがこのくそ生意気な女の世話係だと知っているのは、アリス・ニーファだけだ。だが今のやり取りで、勘付いた奴もいることだろう。


 そして、それとは別に……



「ま、待て! 当たり前のようにその女の隣にいるお前は、なんなんだよ! 俺を殺しかけといて!」



 オレが戻ってきたのを、認められない奴だっている。他でもない、オレが殺しかけたヤードラ・サイフェン本人だ。


 ま、理由もなく突然戻ってきたオレを、すんなり受け入れられないのはわかるが……



「なんじゃ、余がおる前で目障りじゃぞモブ顔」


「もっ……うるせえ! お前には関係ねえよ!」



 驚くことに、吠えるヤードラ・サイフェンに言葉を返したのはメルデュース・マ・ガランドーラだった。


 もっとも、オレを庇って……とかそんなかわいい理由ではないだろう。



「こやつは、余の下僕よ。余に仕えるために側にいるのは当然であろう?」


「くっ、意味わかんねえこと言ってんじゃねえ!」



 おおう、同感だ。初めて意見があったな、ヤードラ・サイフェン。



「それとも、貴様も余に仕えたいか? 下僕は何人いてもいい。立候補ならよい心がけと、余に対するこれまでの無礼を不問に処してもよい」


「はぁ? 頭湧いてんのか」



 それも同感だ、ヤードラ・サイフェン。気にくわんが、案外お前とは気が合ったのかもしれないな。出会い方さえ違えば。


 それにしても……このガキがどれだけ偉いか知らないが、大丈夫か? 下手したら権力で消されるんじゃ……



「ふむ……どうやら貴様は、なにか余に気に入らないことがある。それで違いないな? モブ顔」


「……てめえのその態度が気に入る奴なんざいねえだろうが、そうだよ。それに気づけただけ、脳みそは詰まってるみたいだな」



 負けじと食って掛かるな、ヤードラ・サイフェン。だがメルデュース・マ・ガランドーラのすごいところは、これを素でやっているところだ。悪意ある言葉を選んでいるヤードラ・サイフェンとは違う。それと、ヤードラ・サイフェンってこんなギラギラしてたっけ? グレた?


 その言葉の殴り合いは、果たしてどのような結末を……



「ふむ……よかろう、言いたいことがあるなら力を持って証明してみせろ」



 お……よかった、権力とか言い出さなくて。そういうこと言い出した途端、そいつは小物になり下がるからな。



「力だぁ……? はっ、いいぜやってやるよ。ガランドーラかなんだか知らねえが、Dクラスに来るような奴だ、大したことねえだろ!」



 お前もDクラスだけどな。それ、特大ブーメランだぞ。それと、同じDクラスの(おれ)にやられた事実もう忘れた?



「言っておくが、余は挑発には相応の報いを持って応える。貴様、どうなろうと覚悟はできているな」


「ま、待て待て! あんまり騒ぎを大きくするなよ。二人とも落ち着け……」


「あのモブ顔から突っかかってきたのだ、落ち着けというならあれからだろう」


「それはそうかもしれんが……ああもう、とにかくおとなしくしてくれ頼むから!」



 それから、二人を説得するのに結構な時間を有した。ヤードラ・サイフェンはオレの言うことなど聞くわけもないが、また騒ぎを起こして目をつけられたらと脅したらおとなしくなった。


 片方がおとなしくなれば、もう片方もおとなしくなるのは必然だ。それでもメルデュース・マ・ガランドーラの高慢な態度が治るわけではないが。


 こうして、シャーベリアが退いた席にメルデュース・マ・ガランドーラがようやく座ることで、一騒動は収まった。ったく、転入生の自己紹介だけでなんでこんなに疲れにゃならんのだ。


 メルデュース・マ・ガランドーラの世話係を命じられたとはいえ……結局、面倒だからと教師であるアリス・ニーファは最後まで我関せずだったな。少しは生徒の注意くらいしやがれ、この給料泥棒め。



「なかなか良き席よ。おい下僕よ、これから余のために、仕えることが出来ることをせいぜい光栄に思うがよいぞ」



 なんてこった、これは……また、面倒ごとが増えた。これなら謹慎のほうがはるかにマシだ。だからこその罰ってわけか、はは……

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