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元勇者の魔王候補生生活  作者: 白い彗星
勇者の記憶
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最古の魔族



 さて謹慎になったオレであるが……謹慎ということはすなわち、学園の敷地内には入ることが出来ないということ。つまり、学園の敷地内にある寮にもいられないということだ。


 なので、オレは実家(と呼ぶのも反吐が出るが)の現魔王城に帰省したわけだ。そこでは、事情を聞いたリーズロットにこっぴどく叱られたり、親父(まおう)が病床にに伏せていたり……まあそれなりにいろいろあったのだが、省略しよう。


 誰も俺の魔王城での生活に興味ないだろうし。



「……と、あっという間だったなあ」



 謹慎の期間は、一週間。クラスメート殺し未遂の罰にしては軽すぎるものだが、本命の罰はおそらく別の所にある。それがなにかは明かされなかったが、相応に重いものであろうことは察しがつく。


 その罰というやつは、ファウルが庇ってくれたからといって軽くなるものでもないだろう。あの時は感情が爆発してしまったとはいえ、とんでもないことをしてしまったな。


 この一週間、オレは自分の気持ちを自制することに必死だった。だから、次またヤードラ・サイフェンと会っても殺しにはいかないはずだ。……多分。



「坊ちゃま。今後は問題を起こさないことを固く誓ってくださいませ。現魔王様のご子息であるボンボールド家の長男がこれ以上問題を起こすなどもってのほか。ただでさえ、今回の謹慎によりあらぬ噂が立っているというのに……だいたいクラスメートにいきなり襲い掛かるなんてなにを考えてガミガミガミ」


「だー、わかったって。うるさいなあまったく……ってぇ!」


「またそのような乱暴な口調を! 紳士たるものの言葉遣いは教えたはずですが?」



 くっそこのばばあ……人の頭ぼかすか叩きやがって。


 この謹慎中、リーズロットにはまず言葉遣いの修正を徹底された。ボンボールド家の魔族がそんなでは示しがつかないとかなんとか。


 リーズロットに言葉遣いを徹底されるのは、これで二度目だ。一度目は、学園に入学するまでの教育として……その時はまだ小さかったから甘えもあったんだろうが、謹慎で戻ってきた今回はそうもいかない。


 だがオレは、いくら言葉遣いを直されても我を曲げはしなかった。当たり前だろう、オレには人間の時の記憶がある。なぜ魔族相手にお行儀のいい言葉を習い、使わなきゃならないんだ。



「はい、わかりましたリーズロット、今後は問題は起こしませんことを約束するます」


「……言葉遣いも言葉の中身も不安以外の感想が出てきませんわね」



 不安とは、失礼な。この完璧な言葉遣いでも満足いかないとは。


 まあそれは置いといて。最後まで心配するリーズロットであったがそろそろ行かないといけないことを理由に押し切り、オレは学園に向かう。久々だなあ、この道も。


 周りには、オレと同じように登校する生徒はいない。それはそうだ、生徒は基本、学園の敷地内にある寮から通う決まりとなっている。それに、オレが投稿している時間は、普段よりも早いものだ。


 クリウス・ヴォルガニックに、謹慎後は早く来るようにと言われている。そこで、オレへの本命の罰を言い渡すらしい。ややっこいことしやがって。



「さあて、一週間ぶりの我が母校、か」



 登校中なにかイベントがあるわけでもなく、学園へとたどり着く。一週間でそれなりに懐かしく感じるが、だからといってなにが変わっているわけでもない。


 さて、とクリウス・ヴォルガニックに指定された教室へと向かうとするか。そこは、生徒代表となった魔族に与えられる専用の教室だ。たった一人のために教室を当てるとは、贅沢だねえ。


 その教室の前へと着くと、ノックせずにドアを開ける。そこには、すでにクリウス・ヴォルガニックが座ってなにかしらの資料を見ていた。



「どーも、生徒代表さん。ユークドレッド・ボンボールド、ただいま謹慎を終えました」


「ふん、ノックも出来んのか愚図め」



 うわぉ、第一声がそれかぁ……相変わらず憎たらしいったらないな。


 まあ言い分はもっともだけど。



「すいませんねぇ、久しぶりの学園に緊張してるのかもしれませんですよ」


「まずはその気色悪い敬語をやめろ」



 リーズロットに不評だった言葉遣いは、どうやらクリウス・ヴォルガニックにも不評だったようだ。まあもともと魔族に丁寧な言葉なんて使うつもりはなかったから、それっぽい言葉遣いしてただけなのだが。



「それでも、気色悪いはひどくないか?」


「これでもずいぶんマイルドにしたつもりだが。今の気持ちを正直に伝えてやろうか?」


「遠慮しとく」



 オレもオレだが、この男もこの男だな。



「ま、いいや。で、オレへの罰の内容を聞きたいんだけど」


()くな阿呆が。この資料に目を通すまで待っていろ」



 ……く、口悪すぎだろ。今に始まったことじゃないけどさ。俺でもこんな言葉遣いしねえよ。


 それから、数分が過ぎた。たかが数分だが、なにも喋らない相手と二人きり、しかもクリウス・ヴォルガニック相手というのは息が詰まりそうだった。



「……ふ。さて……貴様のクラスメート殺し未遂についての罰だが……」



 こ、こいつ……何事もなく、続きを噛み始めやがった。「待たせたな」みたいな一言もなく。他人に対する思いやりってものがないのかよ。



「今日から、貴様のクラスに転入生が入ることになった。貴様には、そいつの世話係を命ずる」


「……は?」



 いったい、どんな罰が下されるのか……覚悟していたが、下されたのはなんてことはない。転入生の、世話係だと?


 それは、ある意味謹慎よりも軽いんじゃないか。なにを、考えているこいつ……!


 ……いや、クリウス・ヴォルガニックのことだ。罰が単なる転入生の世話で済むはずがない。というかそんなもの、罰でもなんでもない。たとえば、他に狙いがあるとか……その転入生が、とんでもない問題児とか……



「転入生の名は、メルデュース・マ・ガランドーラ」


「! なっ……ガランドーラ!?」



 その転入生の名前……いや姓を聞いた瞬間、オレは衝撃に打たれた。なぜなら、ガランドーラというのは……



「ふん、さすがにその姓は聞いたことがあるようだな。ガランドーラ……初代魔王を生み出した、由緒正しき貴族の一族。その末裔が、メルデュース・マ・ガランドーラだ」



 そう、ガランドーラ……それは、オレが魔族になってからも、人間の時も嫌というほど教えられた姓。この世界に生まれた、最初の魔王にして……最古の魔族。


 全ての魔族の始まりと言われる存在、それこそが、ガランドーラなのだ。

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