初めての友達
謹慎をくらった身で教室に戻るのもどうかと思ったので、荷物はファウルに取ってきてもらう。ま、今またヤードラ・サイフェンに会ったら今度こそなにをするかわからないしな、
あいつには聞きたいこともあるが、それには……少し時間をおいたほうがいい。あいつも、オレとは顔を会わせたくないだろう。なんせ自分を殺そうとした相手だ。
あの件で、オレのクラスでの立ち位置は最悪なものになっただろう。元々仲良くするつもりなんかなかったから別にどうだっていいが、謹慎明けにどんな扱いを受けるか覚悟しておかないとな。
「ユーク、お待たせ……」
いろいろ考え事をしていると、オレの荷物を取りに行ってくれていたファウルが戻ってくる。手には俺の鞄を持っており、それを胸に抱えて小走りで向かってくる。
「あぁ、悪いな。わざわざ取りに行かせてしまって」
「ううん、別にいい」
よくもまあ、ここまで付き合ってくれるものだ。魔族でありながら、ファウル個人に対してはある種の尊敬を抱いている。
そんなファウルが俺と一緒にいる場面をよく見られていたから、なにか言われはしないか不安ではあるが。
「けど……ユーク、心配。入学したばかりで、謹慎なんて……」
しかも、オレのこの先まで心配してくれている。オレと同級生なのに、まるで背伸びしているかのようだ。この場合、物理的な意味ではなく。
とはいえ、この先の心配については……正直、オレはあまり深く考えていない。心配してくれるファウルには悪いが、オレはこの学園にこだわるつもりはないからな。
「どうだろうな、確かに入学早々謹慎なんてまずいかもな。ま、なるようになるだろ……」
「私は……」
なるようになるだろうし、仕方ない……そう考えていたオレだったが、ファウルはそうではないらしく……
「私は……ユークに、学園、やめてほしくない……」
「…………」
入学早々謹慎、それだけでやめることになるとは限らないし、かといってそうでないとも言い切れない。どのみち、要注意的な認定はされるに違いない。
だからファウルの心配も、まったくの杞憂とは言えないが……そこまで心配されてしまうと、なんて言うか……むず痒い気持ちになってしまう。
どうしてそこまで……?
「なあファウル、なんでそんなにオレのことを気にするんだ?」
ここで、思いきって気になっていた質問をぶつけてみる。
それを問いかけられたファウルは、少しだけ顔を赤くしてから……恥ずかしそうに、しかし確かにこう言った。
「だって……ユークは、私の……初めての、友達、だから……」
友達だと……友達だから、気にしてくれているのだと。
それは嬉しいことだ。相手がたとえ魔族であっても、ファウルならば。しかしそこに、初めての……という言葉さえくっついてなければ。
「……そうか」
十余年を生きてきた中で、オレが初めての友達と言う……それはファウルの背景を考えると、気軽に踏み込んではいけないものに思えた。
「あの……友達、で、いい……?」
どうやらオレの反応に不安を感じたらしい。眉を下げ、首をかしげてオレに聞く。友達でいいか、なんて……なんてことを聞くんだろうかな。
「あぁ、もちろん」
「……よかった」
そんなファウルを気遣って、というわけではない。ただ自然と、口から出た言葉。オレのその言葉を聞き、ファウルは心底安心したように、ほっとした笑顔を浮かべたのだ。




