貴様は何者だ
クリウス・ヴォルガニックの介入により、場の騒動は一旦事なきを得た。そしてこの件については、クリウス・ヴォルガニックが預かることに。
そう言われては、他の連中はなにも言えない。直接の被害を受けたヤードラ・サイフェンや、教師であるアリス・ニーファでさえだ。あの男以外に適任がいないと判断してのことだろう。
とはいえ、それで全員が納得するわけではない。特にヤードラ・サイフェンなんかはそうだ……なにせ、オレに殺されかけたわけだし。やり返したいと思うのが普通だろう。
まあ、あんな奴にやり返されるほどやわじゃない自信はあるがな。
ちなみに、エリザとヤードラ・サイフェンの勝負の結果だが……決着つかずということで、その場はお預けとなった。状況的にはヤードラ・サイフェンが優勢だったが、決着までいってない中でオレが乱入したからおじゃんというわけだ。
そんなわけでオレは今、クリウス・ヴォルガニックに連れられとある一室に来ている。ここは……あれだな、人間時代の時、よく指導部屋として使われてたあの雰囲気に似ている。
「で、こんなとこに連れてきてなんだよ。お説教タイムか?」
この件は自分が預かると言い、その直接の原因であるオレを連れ込み……今後こんなことがないように、注意でもするつもりか?
そんなこと言われたところで、守れる自信はないがな。
だが……オレの考えていたものとは全く異なる発言を、クリウス・ヴォルガニックはした。
「貴様……何者だ?」
オレに向き直り、奴は鋭い眼光をオレに向ける。なんの敵意も感じないのに、寒気が全身を走っていやがる。
それはクリウス・ヴォルガニックの眼光にオレが心から震えているせいか、それともその言葉に、大きく心を揺さぶられたからか。
「……どういう意味だ?」
何者だ、なんて……普通にしてたら出てこないはずの言葉。そう言うってことは、そう言わせるだけの不信材料がなにかしらあるということで……
そしてそれは、オレにも心当たりがある。
「貴様のあの力……力だけなら、Dクラスのそれではない。あの時、手を抜いてわざとDクラスに? ……いや、貴様は本気の力を出したはずだ。……貴様のその力は、なんだ?」
珍しく……というほど付き合いも長くはないが、冷静に物事をズバッと言うクリウス・ヴォルガニックにしては、言いたいことを整理できていないように思える。
だが、その内容はわかる。言わんとしていることも。その上で、あいつは自分の頭の中で、言うべきことを整理している。
「貴様のそれは、純粋な魔力だけではない……その力は、なんだ?」
直接対峙したからこそ、確信にも近い気持ちを持ってオレに問いかける。それはリーズロットにも言われたことのある、オレの中にある魔力とは別のなにか……に通ずるもの。
その、魔力とは別のなにか……がなにかはわからないが、オレが人間の生まれ変わりであることに関係しているであろうことだけは、想像がつく。
だが、素直に「オレ人間の生まれ変わりなんだよね。しかも前世じゃ勇者やってたんだよね」なんて言えるはずもない。信じてもらえないのは前提として、万一にも敵意を向けられる可能性は否めない。
オレの中に人間時代の記憶が残っているように、魔族にだって勇者に同族を殺された記憶は残っているのだから。
「……さあ、なんのことだか」
だからオレは、とぼけることしかできない。第一、オレが人間の生まれ変わりである事実と、オレの中にある魔力以外のなにか……それがイコールで繋がっていると、百パーセント確証があるわけではないしな。
オレの答えに、クリウス・ヴォルガニックは納得していない。それはそうだろうな。逆の立場でも、オレもそう思う。
「話はそれだけか? なら……」
オレにすらわからない仮定を、答えるつもりのない事実を、これ以上ここでこいつと問答するつもりはない。
これ以上の話がないのならば帰る。そう言いきる前に、クリウス・ヴォルガニックは「待て」と言う。まだ話があるのかよ。
「貴様、どうしてヤードラ・サイフェンを殺そうとした?」
……あー……そっか、それか。そもそもそれが本題だもんな、ここに呼ばれた。
どうして殺そうとした、か……これこそ、正直に答えるわけにはいかない。勇者の頃に仲間を殺した魔族に類似していたからかっとなってしまった……なんて。
しかし、適当な言い訳で逃げられそうもない。先ほどの話題と違い、これはここに連れてこられた本命の話なのだから。
「あー……それは……さっきも言ったろ? 蚊が……」
「ふざけているのか?」
やはりダメだった。
とはいえ、この状況をどう脱するべきか……クラスメートを殺そうとした危険人物を、理由も聞かずにクラスに戻すわけにはいかないだろう。
「理由を言わなければ、貴様をクラスに戻すわけにはいかん。なにを考えているかわからん奴を戻したところで、また同じ事が起こるだけだ」
うわぁ、思ってたのと同じ事言われてしまった。これは正直に話すよりも、どう話せばこの男を納得させられるかが問題だな。
かといって適当なことを言えば、こいつにはすぐに勘づかれてしまうだろう。さて、どうしたもんか……
「あ、あの!」
しかしその時……部屋の扉を開け、現れた人物により場の空気は一変した。
オレも、クリウス・ヴォルガニックでさえも目を見開いた。そこにいる人物、ファウルの姿を目にしたからだ。




