抑えられない感情の行く先
「おいやめろボンボールド! そこから降りろ!」
誰も彼もが、混乱している。それはそうだ……だって俺もまさか、こんな衝動的に体が動くなんて思ってなかったんだからな。あぁ久しぶりだ……この感覚。
感情が、抑えられないこの感覚……!
「ダメだ、聞こえてない……コントラス、お前あいつの側にいただろう。なにがあった」
「し、知らねっすよー。オレっちも意味不明で……エリちゃんと戦ってるあいつが変化したと思ったら、急に飛び出して」
「そうか……っち、にしてもなんだこの圧力は! 魔力じゃないのか!?」
もう周りの声が、雑音にしか聞こえない。今オレの頭の中で囁きかけるのは、こいつを殺せという声だけだ。
「なーんか知らないが、あんた俺ってばひどくお前に嫌われてるみたいだな」
「あぁ、そうだよ」
今、わかった……オレが魔王の息子に、魔族に生まれ変わったのは、仲間を殺した奴をこの手で殺すため!
「っ……いきなりかよ!」
ちっ……瞬間的に殴ろうと飛びかかったが、避けられたか。さすがに二度も同じ手は通用しないみたいだな。
なら、今度は……魔力の塊を、思い切りぶつけてやる!
「らぁ!」
「はっ、そんな小さな魔力で俺を倒せると……っ!?」
奴へと放ったのは、手のひらサイズの魔力弾。しかしそれは、小さいからといって油断したが最後……威力を圧縮し、可能な限り小さくしただけのこと。
それは、いわゆる魔力の爆弾だ。触れれば爆発する……この施設丸ごとな!
「お前、正気か!」
それに気づいたヤードラ・サイフェンは、自身の魔力を放出しオレの魔力にぶつける。そう、爆発を防ぎたければ……オレの魔力を上回る、圧倒的な力で抑え込む他にない。
それがわかったから、今オレの魔力を押し潰そうとしている。まあ……無駄だろうけど。
「ぐっ……なん、だこの……力は……!」
オレにもよくわからんが……多分、ここにいる誰の力を使っても、オレの力を上回ることは不可能だ。本能が、そう告げている。
このまま、ヤードラ・サイフェンの魔力を押し通し……この施設ごと、奴を粉々にする。それで、あいつの仇をとれる!
だからさっさと、死……
「ちっ、仕方ない私がとめ……」
「ゆ、ユーク!」
この場においてもっとも要注意なのはアリス・ニーファ……教師であるあの女だ。だからあいつを始末する算段をつけていたところへ……声が、聞こえた。
久しく聞いてなかったような、懐かしい……そしてどこか、安心する声。
「ユーク、落ち着いて! どうしちゃったの!?」
それは、ファウルのものだ。あれから話していないし、今日この場にいるのかすらもわからなかったというのに。
一瞬、心が揺らぐ。ここを吹っ飛ばせば、ファウルも吹き飛んでしまうのだと。だが、それよりも奴への復讐心が上回る。
所詮、ファウルも魔族だ……魔族がどうなろうと、知ったことじゃない!
「ユーク……やめて」
「やめない。そいつは殺す。お前らも死ぬ。死にたくないなら……せいぜいここから逃げろ」
オレは、この期に及んで……魔族に、逃げろだなんて。
「いやいやユーくんやめろって! なにキレてんだよ、わけわかんねえって!」
「シャーベリア……」
ファウルに続いて、シャーベリアまで……くそ、うっとうしいことこの上ないな。こいつらも、エリザのように気絶させてやろうか……
「いや、誰か俺のことも気にし……ヤバいヤバいヤバい!」
「よし、よく耐えたサイフェン!」
あの二人がどれだけ叫んだところで、オレの力が奴を巻き込めば詰み……あと一歩だったのに、アリス・ニーファめ邪魔しやがって。
いくらオレの力が強くても、教師まで加われば力の押し合いは崩れる。それでも、まだ拮抗している状態ではあるが。
「くっ、なんだこの力は……!」
やっぱり邪魔だな……いっそ、直接ヤードラ・サイフェンをこの手で殺すか……
「ユーク! ……やめて、くれないなら…………私……!」
いつもはそんな大声なんて出さないくせに……最近は、ファウルの大声をよく聞く。そのどれもが、ヴォルガニックに関することではあったが。
だが今は……オレに対して、声を張り上げている。しかも、なにかを決意したような表情まで見せて。
ファウル、お前……なにをしようとしてるんだ? お前なんかの魔力じゃ、オレの力には遠く及ばない。それは本人もわかっているはずだ。
「……っ」
なんだか知らんが、嫌な予感がする。ファウルの一挙一動を見逃さないように、オレは注意を集中させて……
「なにをしている?」
聞き覚えのある、この場にいるはずのない声により吹っ飛んだ。この状況において、落ち着き払ったこの声……聞いたばかりの、聞きたくなかった声。
なんでお前がここにいる!
「クリウス・ヴォルガニック……!」
「ふん、ユークドレッド・ボンボールド……この時間、この施設はエリザ・カロストロンとヤードラ・サイフェンの私闘のみに使用許可が下りている。なぜ貴様が暴れている?」
許可……だと? ……そういやあいつ、生徒の代表だったか。この施設の使用許可も、あいつが通していたと。
なら、ここに現れても不思議じゃない、か。
それからクリウス・ヴォルガニックは、オレの放った魔力の塊をチラと見ると……軽く手を振るう。それだけで、オレの魔力は破壊され、アリス・ニーファとヤードラ・サイフェンを解放する。
「ちっ」
「す、すまないなヴォルガニック……」
「いえ……さあどうするボンボールド。まだ暴れ足りないのなら、私が相手をするが?」
こいつ……やっぱりただ者じゃない。ただ手を振っただけで、オレの力を……
暴れ足りない、とは少し違うが……お前は個人的に気に入らない。ヤードラ・サイフェンを殺す前に、お前を殺してやる!
「に、にい……あの……」
「喋るな……貴様には失望したぞ、愚図」
なんだ……? ファウル、なんでそんな顔をしている? 離れた位置からじゃ聞き取れない。今、クリウス・ヴォルガニックに、なにを言われたんだ?




