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元勇者の魔王候補生生活  作者: 白い彗星
勇者の記憶
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仲良しごっこは反吐が出る



 クラスの親睦会とやらに、まったく魅力を見出だせないオレは、やろうがやるまいがどうでもいいのだが……少なくとも約一名、やる必要がないと声をあげて拒否する奴がいた。


 たとえ一人でも、たいして多くもない人数の中で声をあげる意味は大きい。しかも、今はイベント企画でクラス中が注目している。


 つまり、今クラス中の注目は、エリザとあの男……えっと…………あの男に注がれている。



「なんだよその目は。俺、なんか間違ったこと言ってる?」



 納得いかない様子のエリザに対し、男は挑発めいた笑みを浮かべて周囲を見回す。その視線に、目をそらす奴らばかりだが……


 間違っては、いないだろう。あいつは言った、仲良しごっこのために学園(ここ)にいるわけじゃないと。いくら上のクラスに上がろうと、魔王になれるのは最終的にたった一人。ここで仲良しやったって、意味がない。


 オレの意見としては、あいつに全面的に賛成だ。親睦会どころかクラス、いや魔族と仲良しイベントをするつもりはないし、みんなで協力して上のクラスに……なんて思うつもりもない。


 別にクラスで協力しなくても、いい評価を出す個人がいればそいつは上にいける……そういうシステムなのだ、ここは。だからあの男は、クラスで協力するつもりもなく、一人無心で上に行くつもりなんだろう。


 好きにすればいい。エリザも、放っておけばいいのにムキになってやがる。ったく……なんですでに泣きそうになってるんだ。



「だいたい、なんでお前が仕切ってんだよ。代表の座賭けて戦った挙げ句無様に負けた、負け犬のくせに」


「ま、け……」



 ダメだ、エリザは他人によく絡むくせに、挑発に弱い。オレとのクラス代表を決める勝負だって、オレにも責任がないとは言わないが、エリザがムキになった結果のことだ。もう少し冷静になれば、話し合いで解決できたものを。


 挑発に弱く、しかもエリザが気にしているであろう『勝負に負けた事実』をぶつけられたとなれば……



「ふ、ふふ……負け犬ですって? このわたくしを、負け犬と呼びましたわね。取り消しなさい、さもないと……」


「さもないと?」


「わたくしがあなたをぶちのめしてその言葉撤回させて差し上げますことよですわぁ!!」



 ほーら、めんどくさいことになった。しかも、興奮しすぎて言葉おかしくなってんぞ。


 鼻息荒く、顔を赤くしている姿は完全に起こっている。オレに金髪ドリルって言われたときの比じゃない。だって尻尾が、二本の尻尾がすげー逆立ってるんだもの。


 既にその鋭い牙で、あの男に噛みつくんじゃないかと思うくらいに。



「へぇ……俺をぶちのめす? はは、面白いこと言うねぇ」



 男の、伸びた前髪から覗く瞳が、髪と同じ紫色に光る。それは、まるで獲物を定めた狩人(ハンター)のようだ。直接睨み付けられたエリザは、少しだけ怯んだ。が、持ち直した。足はかすかに震えているが。


 ……おいおい、まさかまた漏らさねーだろうな。



「いいぜ俺は。その申し出受けてたとう」



 男は、答える。エリザの仕掛けた勝負に乗るというのだ。この野郎め、面倒なことを! けどまあ、オレが直接被害を(こうむ)る訳じゃないからいいか。



「勝負内容は? あんたが決めていいぜ」


「わたくしのことを負け犬といったその言葉を撤回していただくには、わたくしの実力を見せつける必要があるでしょう」


「つまり、そこの代表さんとヤったのと同じ内容……力と力のぶつかり合いって訳だ」



 ……ん? 力と力のぶつかり合い? オレ、エリザとそんなことやった覚えないけど。オレの知らない勝負の話かな?


 確か、エリザの攻撃を受けたがノーダメージで、直後に寸止め拳で勝負が決まった……という記憶しかない。力と力のぶつかり合いなんてものはなかった。



「ふふふ、あなたの吠え面を見るのが楽しみですわ。なら、時間と場所は……」


「お前ら……いい加減にしとけよ?」



 勝手に盛り上がる二人……いやエリザはもう止められない。そう思っていたところへ、教室内へ響くどすの効いた低い声が響く。これはあの二人のどちらでも、もちろんオレでもない。


 この場において、最も権力を持った魔族……



「さっきから黙って聞いてりゃ、ずいぶん盛り上がってるなぁ?」



 担任、アリス・ニーファだ。そう……今は、授業中なのだ。正確には授業中、いきなり「クラスの親睦を深めるイベントをしたいですわ!」とほざき出したエリザがきっかけで今に至る。


 つまり、授業中に勝負事にまで発展していたということだ。アリス・ニーファが止めたのも、傍観するだけでは始末がつかないと感じたからだろう。



「せ、先生……これは、ですね……」


「騒ぎ出したのも勝負吹っ掛けてきたのもあいつだ、言ってみりゃ俺ぁ被害者だろ」



 被害者、ねぇ……まあ、騒ぎ出したのがエリザである以上、否定はしないが……



「黙れ、エリザ・カロストロン、ヤードラ・サイフェン。気に入らぬことがあるなら白黒つけろ……古くからの言葉だ。そんなに勝負がしたいなら、舞台はこちらで用意してやる」



 ただ喋っているだけなのに、アリス・ニーファの言葉には威圧感がある。魔力を当てられているわけでもない、なのに身体中にビリビリくる。


 その口から、舞台を用意すると言った。おいおい、叱るどころかちゃんと戦わせるのか……オレの時もそうだったが、あんた意外とこういうの好きだろう?


 エリザと、あの男……ヤードラ・サイフェンと言うらしい。は、アリス・ニーファの計らいによりめでたく白黒つけるための勝負をすることになった。どうしてこうなった。


 だいたい、オレの時はクラス代表の座を賭けたが、今回はなにを……



「わたくしが勝ったら、負け犬を撤回していただきますわ」


「あぁいいぜ。それどころか、地面に頭擦り付けて謝ったっていい。その代わり、俺が勝ったら二度と仲良しごっこだの反吐が出ること言うんじゃねえぞ」



 ……賭け事は、決まったらしい。どうしよう、ヤードラ・サイフェンを応援したくなってきた。


 ……それにしても、だ。ただでさえファウルの件で面倒な事態になってるんだ。そっちが片付かないうちに、また新たな厄介事を持ち込まないでほしい。

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