親睦会をしよう
オレはなにも言えなくなり、クリウス・ヴォルガニックはその場から去る……残されたのは、オレとファウルだけという、なんとも気まずい空間であった。
その後のことは、あまりよく覚えていない。どちらともなくその場から教室へと戻る……その間、ファウルとの間に会話はない。教室に戻ってからもそうだ……代わりに、シャーベリアが寄ってきたが。
「ユーくんどこ行ってたんだよ~、寂しいじゃんか~」
シャーベリアも関係者だし、今あったことを話しておくか……いや、なにをどういう風に話せばいいのか、わからん。わかったことはなく、増えたのは謎だけだ。
またエリザの手を借りれば、謎を少しは暴けるかもしれないが……ファウルのあの狼狽えようを見るに、これ以上はホントにまずい気がする。オレでは想像もできないような闇が、彼女の中にはあるのかもしれない。
「なあなあユーくんー」
「黙れ離れろ」
今だってファウルは、クラスメートと普通に接している、ように見える。ヴォルガニックと関係のない話ならば、あんなことがあったあとでもいつも通りなのだ。
なら、もうやめたらどうだ。ファウルの闇を追及しなければ、もうあんな顔をされることもない。ファウルも嫌な思いをしなくて済むし、そもそもあいつとつるんでるのだって、初日にあいつから話しかけてきただけのこと。
もう関わることさえしなければ、この胸のもやもやは晴れるはず……
「…………」
……なんでオレに、話しかけてきたんだろうな。ガラム・ヴォルガニックに絡まれたオレを見ていられなかったのか、それとも……
『友達と、登校。夢だった』
ふと、ファウルやシャーベリア、エリザの四人で初めて登校したときのことを思い出す。あいつはただ、友達が欲しかっただけなんだろうか。
ヴォルガニックの兄たちからは、あんな扱いだ。誰かの温もりに飢えてても、不思議ではない……
もしそうなら、せっかくできた友達がこんなことで逃げたら、どんな気持ちになるだろうか。
「ちょっと! 聞いてますの!?」
「……お?」
バンッ、と机を叩かれたことで、我にかえる。考え事をしすぎててボーッとしてたみたいだ、いかんいかん。
目の前には、机を叩いた元凶エリザが立っていた。彼女はむっとした様子でオレのことをにらんでいるが……なんか前にも会ったなぁこんなこと。
「え、なに?」
「なに、じゃないですわ! クラスの親睦を深めるためになにかイベントをしようという話だったではないですか! というか、これは本来クラス代表であるあなたが率先して行うことですのよ!」
……と、暑苦しく訴えているわけだが。やだよめんどくさい……とは、言えないんだろうなぁ。
クラスで親睦会ねぇ。そういやここ学園だったな。……なんで、魔族と親睦を深めなきゃならないのか。全力で拒否したいところだが、クラス中の目がオレを見ている。なにこの空間。
これだからクラス代表なんてめんどくさいことはやりたくなかったんだ。そういや、副代表も決めろって話もあったな。ファウルに頼もうと思っていたが、それどころじゃなくなってきてるし……他の奴って言ってもなぁ。
「イベントねぇ……具体的にはなにすんの?」
「ですからその具体的にを決めるんですのよ!」
つまり、やりたいという形だけ決まっているがその中身は全然決まってないと。それを丸投げされても困るんだがな。
「めんど……じゃなくて。わざわざ親睦会なんてしなくても、いいんじゃないか?」
「なら、あなたこのクラスの名前全員言えますの?」
「無理だな」
「即答!?」
魔族の名前を好き好んで覚えようとは思わない。ファウルとシャーベリア、エリザは成り行きで覚えたものの……クラスの連中は別に、どうでもいいし。
しかしここでこのままごねても、事態は好転しないだろう。
「このクラスの皆は、いずれもAクラス……いえSクラスを目指す者ばかり! なればこそ、心を一つにして切磋琢磨しようではありませんか!」
いや、少なくともAクラスを目指してない奴はここに一人るんだが。こいつはなんでこんなにやる気なわけ?
これだけの行動力があるなら、やっぱこいつがクラス代表になれば良かったんじゃないか。それか、副代表に選んで全部仕事を任せてしまおうか……
いずれにしても、オレなんかよりよっぽどこのクラスのことを考えている。
「さあ、あなたもやる気を出して……」
「くだらねー」
どんどんヒートアップしていくエリザだったが……それを静めるには、今の一言はなにより効果絶大だったらしい。
言っておくが、今の台詞はオレのものではない。
「な、なんですって……?」
「くだらねーって言ったんだよ。仲良しごっこするつもりはねえぞ」
クラス中の視線が、一斉にその男に向く。しかしその男は動揺した様子もなく、行儀悪く机の上に足を乗せる始末だ。てか、目付き悪!
「くだらない、ですって?」
その言葉に、態度にかちんときたのかエリザは小さく震えている。正直、オレもあの男と同意見だが……気になることが一つ。あいつ、なんで室内で帽子被ってるんだ。それに、前髪も異様に長い。それでも目付きの悪さがわかる。
「だってそうだろ? 俺たちは仲良しするために学園に来たわけじゃねー。心を一つに? はっ、笑わせるね」
「な、なにを……」
「俺は上に行く、たとえ同じクラスの奴らを踏み倒してもな。当然だろ? 魔王になれるのはたった一人……そこに、仲間意識なんてもんは必要ねーだろ」
すげーな、この空気の中で物怖じせずにそんなことが言えるなんて……Dクラスにも、こういう奴がいたんだな。
なに考えてるかわからないファウルに、バカのシャーベリア、変に熱血のエリザとはまた違ったタイプだ。あいつの言うことは、的を得ている。いくらクラスで協力して上に上がろうが、魔王の席はただ一つ。
最終的には、仲間内での落とし合いが始まる。それを見越して、協力なんて無意味だと切り捨てている。
もっとも、あいつ一人で上に上がるだけの実力があるのか、って話だが。
「とにかく、仲間ごっこなら俺を巻き込まずにやってくれ。反吐が出るね」
「ぐっ……!」
おいおい、クラスの心を一つにどころか……早速一人、生意気な奴が現れたじゃねえか。