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魔王育成学園



 勇者と魔王の最終決戦……まずはそこで得た知識を、整理するとしよう。


 魔王が有する魔族軍……それは勇者の一味にことごとく討ち滅ぼされた。その代わりに、魔族は勇者の仲間を次々と葬っていった。


 最後に残ったのは、勇者と魔王、そして勇者の仲間の女が一人。だが最後の決戦は一対一、両者がぶつかり合い…………と、俺の記憶ではここまでが残っている。


 その後の話だ。勇者は死に、魔王は生き残った。だが魔王もすでに心身ともにボロボロで、生き残ったとはいえ瀕死の状態だったらしい。


 本来なら、勇者なき後の世を魔族の手で統べるはずだったが、魔王本人の傷の深さ、そして壊滅的な被害を受けた魔族軍を立て直すにはかなりの時間がいる。


 それは人間側にも同じこと。生き残ったのは、勇者と魔王の衝突に巻き込まれ、一部始終を見届けた後に魔王城からはじき出されてしまった勇者の仲間一人。


 再び魔族を攻めるには数も力も足りない。だから、人間側も魔族側も互いに互いを手出しできない状態が続いた。


 勇者としての記憶が残っていたオレ、カイゼ・ヴァーミリア……今では魔王の子供ユークドレッド・ボンボールドだが。その記憶では、人間側では勇者となり得る人間を育てるための施設があったはずだ。


 そこで、次期勇者が育つのを待つしかない。


 驚いたのが、魔族側の事情だ。魔王というのは、てっきり魔王の子供が次期魔王として成長するのだと思っていた。


 だが実際には、魔王の子供であろうと次期魔王『候補』であることに変わりはない。魔王の子供が次期魔王、ではないのだ。あくまで候補というだけ。


 魔王となり得る魔族を、魔族が通う学園で育て、最終的に魔王が選ばれる。そのシステムは事態は、人間社会とあまり変わったところはないのではないだろうか。人を育てるか魔族を育てるかの違いだ。


 なので、魔王の子供で周りから一目置かれる存在とはいえ、オレが次期魔王候補であることに違いない。で、そんな魔王候補の魔族がすべきことというのが……



「なあ、ホントに今日から学園行かなきゃダメなの?」



 学園に通うことだ。魔族として生まれ十五の年を迎えたとき……魔王候補の資格がある者は、その学園に入ることになる。



「ダメです。魔王様のご子息である坊ちゃまは、次期魔王としての教育をこれまで以上に身に付ける義務があるのですよ?」



 と、リーズロット。いや義務って……知らねーよ。



「魔王育成学園……とってつけたような名前だな」


「いくら坊ちゃまでも、歴史ある学園の名にケチをつけることは許せませんよ? この学園で学ぶ者は皆次期魔王を目指しています。しかし魔王にはなれずとも、成績上位者には魔王様の補佐や幹部クラスの称号が与えられるのですよ。それほど、実績と伝統ある所なのです」



 マジか、この学園で学べば上級魔族の地位が得られるのか。……ってことは、もしかして俺が倒してきた魔王幹部とかって、魔王の学友だったのかな。なんかちょっとした罪悪感。


 魔族の情報を得ることは、人間にとってのなによりの収穫だ。けど、まさか勇者であった俺が、魔王を育成するための学園に入ることなるとは。


 まあ、ここで情報を得たところでなんの役にも立たないんだけどな。今のオレは魔族なわけで……


 ……オレは、魔族なのか? それとも、人間なのか? オレは、どうしたいんだ?



「……ちゃま……坊ちゃま!」


「! あ、あぁ悪い。ぼーっとしてた」


「しっかりしてください。さ、あそこに見えるのが今日から坊ちゃまが通う学園です」



 オレが魔族か人間か……そんなの、前世の記憶がよみがえってから夜の数だけ考えた。それでも、答えは出なかったんだ。


 なら、オレが出来ることは一つ。ここでの生活をひとまず満喫することだ。家では、リーズロットがうるさかったし魔王になるための勉強をさせられてきたが、全寮制の学園ならその心配はない。


 とりあえず入学したらこっちのもの。入学試験とやらについては、魔王の子供ってことでパスさせられてしまったが……それは仕方ない。


 俺は魔王になるつもりはないのだから、必死に勉強する必要もない。ついでに上級魔族になるつもりもない。


 そして新しい魔王が生まれ、人間との戦いになったら……オレはどこか、遠くへ逃げる。この姿や魔力じゃ人間に受け入れてもらえるはずもない。


 かといって人間に殺されるつもりもない。だから、被害が及ばないとこまで逃げる。


 ……うん、完璧な計画だ。魔族としてとりあえずは生き、その後誰の迷惑にもならないところへトンズラ……我ながら完璧すぎて怖いな。


 それにしても、さすがに生徒らしき奴らも増えてきたな……オレみたいに人間の姿をした奴もいれば、どっからどうみても異形の化け物にしか見えない奴もいる。あー、あれ勇者時代に斬ったやつに似てる。


 それにしても……まさか、勇者だったオレが今は魔族として、同じ学園に通うことになるだなんて。これなら、素直にあの時死んでたほうが……いや、やっぱ死ぬのは嫌だ。


 というか、死んで生まれ変わった結果がこれなのだから、そういう問題ではないのか。



「はぁ、憂鬱だ……」



 魔族の学園に通うこと、魔族と同じ空間で過ごすこと、なにより……妙に多くの視線を周りから感じるなど気分は晴れない。


 そんな状態のまま……オレは、学園内に足を踏み入れた。

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