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元勇者の魔王候補生生活  作者: 白い彗星
ファウル・レプリカ
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ファウル・レプリカ



 ガラム・ヴォルガニックが去った後、あいつに倒されたシャーベリアとエリザ・カロストロンの二人を起こしてから……ファウルを問い詰めた。が、彼女はなにもしゃべらず、結果その場で解散となった。


 解散といっても、ファウルが一人、先に帰った形であるが。


 二人が倒された後、一触即発に陥った場をファウルが介入し、事なきを得たこと。しかしその際、ガラム・ヴォルガニックがファウルに対して気になることを……『偽物』と言っていたことを、二人に話す。



「ぐぬぬそんなことがあったなんて……あのでかぶつ許せん!」


「まったくですわ! わたくしのお友達になんたる暴言を!」



 一連の流れを聞いた後の、二人の反応がこれである。気持ちはわからんでもないが、熱いなぁ……


 それにしても、偽物か……あいつの本名がファウル・レプリカであることと、なにか関係があるのだろうか?



「で、だ。さっき問い詰めてもファウルはなにもしゃべらなかった。だから……」


「今度は同じ部屋のわたくしが、話を聞くと言うことですのね!」



 オレの言いたいことを引き継いで、エリザ・カロストロンはその豊かな胸を張る。そう、先ほどは三人で問い詰めたから言いにくかっただけかもしれない。


 一対一で、それも同室の子ともなれば幾分かは話しやすいはずだ。問題は、下手に熱くなって本題に入れないことだが……



「ふふん……すべてこのわたくし、エリザ・カロストロンにお任せください、な!」



 めちゃくちゃいい笑顔でこう言ったので、任せてみることとする。


 …………そんで、翌日。



「うっ、ひぐっ……なんの成果も、得られまぜんでじだわぁ……」


「あー、うん。予想はしてたから……おい、涙と鼻水吹け。汚い」



 登校するや、涙目……いや涙と鼻水を流しながらこいつはやって来た。今朝は、あまり大勢で刺激しない方がいいからと四人で登校することはなかったのだが……どうやら、ファウルと二人きりで登校すらできなかったらしい。



「起ぎだら、もういなぐて……あや、うく、遅刻するかと……!」


「だから汚いっつってんだろ! 鼻かめ!」



 こいつ、泣いてる理由はファウルから情報を聞き出せなかったからか、それとも一人ぼっちで登校したからかどっちだよ……


 とりあえずティッシュを渡し、鼻をかませる。ジーンッ、とおよそ女の子が出してはいけない音が教室に響き渡る。こいつお嬢様じゃなかったのかよ。


 とにかく、こいつに聞き出させる作戦は失敗か……



「まあエリちゃんにはあんな期待してなかったけどね!」


「はぅ!」



 どうでもいいところで、シャーベリアがとどめをさした。



「ま、それはともかく……」


「ともかく!? ともかくってなんですの!」


「今日は朝からいない、か」


「無視!?」



 エリザ・カロストロンの話だと、先に登校したはずのファウルだが……今、教室にはいない。空席のままだ。鞄とかはあるから、いるはずなんだが。


 昨日の今日でオレたちとは顔を会わせづらい、か。しかしこのまま避けられてたんでは、改めて話を聞くこともできない。



「このままでは、いけませんわ!」


「お、なんか燃えてる」


「このままファーちゃんとお話しできないというのは、いけませんわ! わたくしが、なんとかしてみせます!」



 なんとかって……昨日なんともできなかった奴が偉そうに。



「なんとかって、なにするんだよ」



 一応、聞いてみよう。どんな策があるのか。



「いえいえ、ちょーっとファーちゃんの身辺調査をするだけですわぁ。あのくそったれヴォルガニックとどんな関係があるのか……そう、我がカロストロン家全権力を使って、隅から隅まで調べ尽くしてやりますわぁうぇへへへ」


「こいつ大丈夫か」



 言ってることは物騒だが……要は、個人の力じゃどうしようもないから、家の力を使って調べようってことだ。


 うん、要点まとめても物騒だな!



「だ、大丈夫なのそれ」


「問題ありませんわ! わたくしのお友達のためとあらば、喜んで協力してくれますわ! 今実家暮らしならあっという間だったのですけど……」



 問題ないのか……そうか、こいつ友達がいなかったから、ようやくできた友達のために協力は惜しまないってことだな?」


「……ユーくん、途中から声に出てる。台詞になっちゃってる」


「……なんかすまん」


「いえ……ぐすん。と、とにかくそういうことですわ!」



 ヤバい、変な空気になってしまった……後でもう一度謝っとこう。


 今オレたちは寮暮らし……家に協力を頼むとなれば、それなりに時間がかかるはずだ。ファウルの抱える問題がわかる前に、ファウルとの縁が切れてしまわないか。とりあえずはその心配をしておけばいい。


 相変わらずエリザ・カロストロン任せで悪いが……ここは、素直に任せるとしようか。



「お、ファーちゃんおっはー」



 そこへ、ファウルが教室に戻ってくる。馴れ馴れしくもそのうっとうしさが今はありがたいシャーベリアの行動。それに対してファウルは肩を跳ねさせるが、軽くうなずく。


 直後、授業の鐘が。どうやら授業にはちゃんと出るらしいな。オレたち三人は、軽く目配せしてから、席に戻る。


 ファウルの身辺調査はエリザ・カロストロンに……正確には彼女の家に任せるとして、オレたちは三人の間で決めたことの一つを実行する。身辺調査の結果が出るまで、ガラム・ヴォルガニック関連の話は出さない。


 これに意味があるかはわからないが……意味は、あった。その後の休憩時間など、毎回ファウルがいなくなるわけではない。その時間に、普通の会話はできたのだ。


 どうやらファウルも、ガラム・ヴォルガニック関連以外の話ならば応じてくれるようだ。これは、大きな収穫でもある。


 だが、だからといってファウルとガラム・ヴォルガニックの密会を止められるわけではない。むしろ、その話をしなくなったことで、ファウルが簡単に抜け出してあいつと密会していることになる。


 だがそれも数日の辛抱。そう考え、日々を過ごしていった結果……休日、オレとシャーベリアはエリザ・カロストロンの実家に呼ばれることとなった。休日ならば、学園の施設から出ることも許される。



「はぁあ、ファーちゃんも連れてきたかったですわ」



 エリザ・カロストロンが残念がるように、今回ファウルは同行していない。ファウルの身辺調査結果を聞きに来たというのに、ここにファウルがいるわけにはいかないだろう。


 ファウル自身も、今日は用事があったようで……それがガラム・ヴォルガニック関係の可能性もあるので、複雑な気分だったが。ちなみにオレたち三人が、エリザ・カロストロンの実家に行くことは内緒の方向で進めた。


 そんなわけで、オレとシャーベリアはエリザ・カロストロンの実家に来たわけだが……



「で、でけー」


「……そうだな」



 そこは、家でなくまさに屋敷であった。正直、魔王城に住んでいたオレにとってはそこまで衝撃を受けるものでもないのだが、シャーベリアの様子を見るにでかい家なのだろう。



「い、家のことはいいですから! こっちですわ!」



 外観を観察する間もなく、家の中へと招き入れられる。ま、今回の目的はこいつの家を観察することじゃなし、さっさと本題に入ってくれた方が助かる。


 家の中に招き入れられ、連れていかれるのは物置らしき部屋だ。様々な書物が本棚に納めてある。その中で、何冊かの本やファイルが机に並べられている。



「なぁんだ、エリちゃんの部屋に入れてもらえると思ったのに」


「ファーちゃんより貴方たちを先に入れることはありませんわ。というか、ファーちゃん意外にその呼び方は許可していないのですけれど」


「気にすんなっての」



 この男にはなにを言っても無駄だ……そう判断したのか、早々に会話を終わらせたエリザ・カロストロンは、一冊のファイルを取って……あるページを広げ、これを机に乗せる。そのページを、見ろということだ。



「ファーちゃん……いえ、ファウル・レプリカの身辺調査なのですが、結論としては成果ありですわ。けれど、時間が掛かってしまった……本来、カロストロン家の力を使えば、一個人の情報を得るなど一日と掛かりませんのに。それこそ、ボンボールド家やヴォルガニック家のような大きな権力を持つ家でない限り……」


「前置きはいい。つまり、ファウルの家レプリカ家ってのも、オレの実家やヴォルガニックに負けず劣らずのどでかい家だと?」



 ファウルの開いたファイル……その一ページには、いろんな名前が載っている。これは、いわゆる名簿一覧というやつか。


 名前の羅列で頭痛い。正直、これのどこを見ればいいのかわからんのだが。


 要点だけ、まとめてほしいものだ。



「いえ、違いますわ。そもそも……レプリカ家なんてものは、存在しません」


「……は?」



 要点をまとめろとは思ったが……返ってきた言葉は、予想すらしていないものだった。というか、意味がわからない。



「えっと……?」


「つまり……ファウル・レプリカなんて人物はこの世に存在しないのですわ。それが、身辺調査に時間が掛かった理由」


「いや……え? 存在、しない?」



 ヤバい、マジで頭痛くなってなってきた。エリザ・カロストロンがなに言ってるのか意味がわからない。ファウル・レプリカは存在しない? いやいや、あいつはちゃんといたじゃないか。


 困惑するオレたちよそに、エリザ・カロストロンは震える指を動かし……開かれた一ページの、とある部分を指先で指し示す。そこは、ヴォルガニックと書かれた人物の名前が並んでいる。おそらく、ヴォルガニック家の人間の名前だ。


 今ファウルの話をしていたのに、なぜヴォルガニックに……? その疑問は、エリザ・カロストロンの指先を追うことで明らかになった。彼女の指先が指し示す先には、とある名前が、こう、書かれていた。






『ファウル・ヴォルガニック』






 ……と。

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